03 土のギフト
施術者の女性は最上くみと名乗った。
彼女はメカニックであり、戦闘における衝撃吸収ユニット――デバイスの発明に携わっているらしい。
戦闘において出血不可避な攻撃を受けた場合でも、このデバイスのおかげでかすり傷ほどにまで威力を軽減させられるのだとか。
デバイスはベルト式になっており、首と腕部、脚部と腰の計6箇所に巻きつけるだけで効果を発揮する。
「いや〜世紀の大発明だよね〜。これもキリキリの闇の力にヒントを得たといっても過言じゃないんだよね〜」
やたらと語尾を伸ばす最上くみの緊張感の無さに引きずられつつも、なんとか説明を受け、デバイスの装着に成功する仁太。
これから彼は、敵情視察のため街へと繰り出すこととなっている。
闇の女神勢力が拠点をおくこの街は、実は土の女神勢力が幅を利かせる敵の敷地内でもあるのだった。
それを知った時の仁太の絶望顔は言うまでもない。
「んで、敵情視察とは言うが、敵さんを見つけたら派手にぶちかましていいからな」
「いやリュウゴさん、それは不味いんじゃ……。敵にこっちの存在を知らせることになるのでは……?」
「それが狙いだよ」
「……?」
近衛リュウゴいわく、敵の敷地内に拠点を築いてからだいぶ時間が経っているという。もうこちらの眷属の我慢の限界なのだとか。
「これ以上日陰ものの身分が続きゃ、こちらの士気が下がりに下がって消滅しちまう。先日炎のやつとやりあって士気を高めたところで、土の野郎を討つ。これで一気に勢いをつける戦法ってわけさ」
気分の問題だけでことを進めてもいいのだろうか。不安でしかないが、こちら側は視察という名の殴り込みに繰り出す気満々である。
「なぁに、勝機はあるさ。炎のやからと違って、土の野郎どもは消極的さ。いわば平和主義者だ。そいつらをぶっ叩くだけなのさ」
仁太は頭を抱えた。
敵情視察のお供に、間原ハルトという年の近い少年がついた。
「間原くんだっけ……? そもそも敵の土の勢力の眷属って、どういう格好をしてるの?」
「かなり分かりやすいぜ。例えばほら、ああいうやつ」
「ん?」
「茶色の羽織をきてる坊主がいるだろ? 土の勢力はみんな、坊主頭にあの色の羽織って決まってるらしいんだ」
「へ〜……」
ってさっそく発見してしまったようである。
遅れて間原ハルトもそれに気付き、臨戦態勢に入る。
「いいか新入り! 必殺のダークハートハントはここぞってときに使えよ!? あれ使うと全身くっそダルくなる制約付きだからな!」
「そ、そうなんだ……」
「いくぞー!!!」
「え、急すぎない!? ちょっと待っ……!」
仁太の制止も虚しく戦闘が始まる。
こちらに気付いた坊主が、表情に焦りのひとつ見せずに戦闘態勢に入る。
「くらえっ……日々の組手で鍛えたすーぱーパンチ……っ!」
間原ハルトの掛け声と共に繰り出される彼のパンチだったが、坊主は涼し気な顔をしたままそれをかわし、カウンターの肘を入れる。
無言でその場にうずくまった間原ハルトに追撃をと右手を振りかぶる坊主。
それを阻止すべく、仁太が右手の義手で力いっぱい叩いた。
「……ッシュ―」
「!?」
硬い。
確かに生身の部分を叩いたはずだった。だが感触はまるで岩を叩いたかのように硬かったのだ。
慌てて距離を取る仁太。
(なんだ……? なぜあんなに硬い……? 並みの人間の硬さじゃないぞ……?)
「少年、何を驚いている? 土の女神のギフトを目にするのはまさか初めてか?」
「……土の女神のギフト……」
そうか。合点がいく。
仁太たちがギフトをもらったように、彼らもまた女神から異能の力を授かっているのだ。
そしてその能力が――。
「これぞ硬化の力なり」
坊主が拳を振りかぶり、仁太のみぞおち目掛けて振り抜いた。
仁太はそれを義手で防いだが、ミシッと嫌な音が鳴り響いた。
(嘘だろ!? 鋼の義手がヘコんだ……!?)
「さぁ少年よ、先に死合をふっかけてきたのはそちらだ。思う存分やり合おうではないか」
どこが平和主義者の集まりだ。死合と言う人間のどこが平和主義だというのだ。
半ばパニックのまま、仁太は焦りとともに構えた。