03 騎士の傲慢
フォルクが騎士の位を剥奪される前日、王城では軍関係者による会議が開かれていた。
「剥奪すべきではないと考えます」
軍務卿のアルディス伯爵が言った。
「昨今、他国では育成スキルの導入で、平均レベルが上がっていると聞き及んでおります。エルディア共和国にいたっては、一般兵士の平均レベルが[50]を超えたとの報告もあります」
会議室がざわめいた。
帝国軍兵士の平均レベルは[20]にも満たない。最精鋭の騎士でも、平均レベルは[38]であった。
「もちろん帝国騎士には、鍛え抜かれたスキルがあります。レベルの差が戦力の決定的差でないことは承知しておりますが、より完全な勝利を手に入れるためにも、育成スキルを使ったレベリングの導入を提案致します」
アルディス伯が発言を終えると、すぐさま反論の声が上がった。
「帝国騎士の戦闘スキルは大陸最強である。有象無象がいくらレベルを上げたところで脅威にはならん」
とは、紅炎騎士団の団長パラデス。
「レベルよりもスキルランクを上げた方が戦力の増強に繋がる。これまでの戦績が証明していよう」
とは、白氷騎士団の団長グラーシャ。
「そもそも育成スキルで楽にレベルを上げようとは、心根がさもしいと思わんかね」
とは、金光騎士団の団長アンドラス。
他の騎士団長は黙っているが、似たりよったりの考えに違いない。
まったく予想通りの反応ではあったが、アルディスは徒労感を覚えた。
祖神バランクルスが騎士に育成のユニークスキルを授けたのは、何らかの神意があってのことだろう。何しろユニークスキルは、十年に一つ賜るかどうかという貴重なものだ。
素直に考えれば、「騎士のレベルを上げるべし」ということになる。
ところが、当の騎士たちが神意に従う気はないようだった。
――神意を蔑ろにするとは、騎士の傲慢さ、ここに極まれり。
アルディスは辟易した。
結局、騎士団長たちの意見に従って、フォルク・ファーランドから騎士の位を剥奪することが決定し、会議はお開きとなった。
出席者が続々と退室していく中、座ったまま考え込んでいる者がいた。
碧風騎士団の団長ゲルトであった。
――ユニークスキルなら、もしや……。
ゲルトが会議中に無言だったのは、他の騎士団長に同調していたからではなかった。むしろアルディス伯の考えに近かった。
しかし碧風騎士団は、帝国五騎士団の中でも最弱。発言したところで、他の騎士団長に鼻で笑われるだけだった。
それにゲルトには、もっと重要なことがあった。
――娘を救えるかもしれない。
ゲルトの一人娘カティアは病弱だった。外出するといつも体調を崩してしまうので、自室から出ることもままならなかった。運動はもってのほか、満足に食事を取ることもできず、年々衰弱していく有様だった。
治療スキル持ちの医者にもあたったが、改善することはなかった。どの医者も口を揃えて、「レベルを上げるしかない」と言うのだが、そもそもカティアにはレベルを上げるための体力がなかった。
このままでは長く生きることができない。ゲルトにとってカティアは、最愛の妻が残したかわいい一人娘だった。何とかしてやりたいと八方に手を回したが、何の成果も得られなかった。
娘を救う手立ては、この世には存在しないのかもしれない。半ば諦めていたところに現れたのが、今回の育成スキルだった。
この世に初めてもたらされた新種の育成スキルであれば、娘のレベルを上げることができるかもしれない。
ゲルトは一縷の望みをかけて、フォルク・ファーランドへの接触を心に決めたのであった。




