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86 いつか合流すると信じて

 興奮したメロンにのしかかられ、べろべろ顔を舐められる。毛と唾液まみれになってしまった。

 

「よしよーし、ちょっと落ち着こうか」

 

 メロンの首筋を軽く撫でて言い聞かせ、服の袖で顔をぬぐう。

 ついでに鑑定した。

 

『ラージラビックス Lv.750』

 

 いつのまにモンスターになったんだ。

 フレーバーテキストには「魔界で巨人豆を拾い食いして急激に成長したウサギギツネ」とある。

 そうか、拾い食いしたのか……。

 

「巨人豆とやらを食うと、レベルも上がるのか? サナトリスも食べていったらいいんじゃないか」

 

 ようやく立ち直ったサナトリスに水を向ける。彼女は荷物からタオルを取り出して、腕や背中をぬぐっている。

 

「レベルが上がって特をするのは、体が大きいモンスターだけだ。肉体が小さいとHPや筋力に限界があるからな。カナメ殿はご存知かと思ったが」

「いやー、あっはっは」

 

 俺は笑って誤魔化した。

 レベルを数百上げたところで強くなった訳じゃないと、自分が七瀬に言ったことを忘れてた。

 

「強くなるには称号を得るのが近道だ。称号の中でも神系は、絶大な効果がある。神系の称号は、いくつかのスキルのレベルを限界まで上げ、既に神の称号を持っている者、もしくは大賢者の資格を持つ者から称号をもらわなければならない」

「よく知ってるなー」

「魔界では常識だ。私たちは皆、魔神の称号を得るために修行をしている。灼熱地獄バーンヒルでは、魔神の称号を賭けて闘技大会が催されている。大会を勝ち抜くと、主催の魔神アグニから神の称号がもらえるらしい」

「へえー」

 

 魔界の奴らのレベルが高い理由が分かった気がする。

 ちなみに人間よりレベルが高いことを逆手にとって、Lv.500以上の魔族を通さないようにしたのが神聖境界線ホーリーラインだ。

 

「……決めた。私は灼熱地獄バーンヒルに行く。闘技大会に出て、修行するのだ」

 

 サナトリスは拳を握って宣言した。

 どこかの誰かが言いそうな話だな……はて、今俺は誰を思い浮かべたんだ?

 

「真たちがどこにいるか分からないし、俺も一旦、灼熱地獄へ行くか」

 

 何となく、そこへ行けば会いたい人に会える気がした。

 

「キューキュー」

「どうしたメロン、腹が減ったのか?」

 

 メロンが俺の頭を小突いた。

 その時、どしんどしんと地鳴りがして、洞窟の奥に巨大なモンスターの影が見えた。気配は、前後に複数。

 俺は逃げ場を探して周囲に視線を巡らせる。

 

「Lv.1000以上に囲まれると、さすがにしんどいな。リーシャンもいないし」

「カナメ殿、メロンに乗りましょう!」

「へ?」

 

 サナトリスは荷物から蜥蜴用の手綱を取り出し、メロンに装備し始めた。

 

「そんなことしたって、メロンで逃げ切れる訳が……」

「大丈夫! こいつが騎乗モンスターなら、敵とエンカウントしなくなるはずだ!」

 

 チョコ⚫かよ?!

 地球のゲームネタは異世界人に通じない。俺はすんでのところで自重して突っ込みを飲み込んだ。

 

「よ、ようし。メロン、壁を垂直に登れるか? さすがに無理だよなあ」

「キュー!!」

「登れるようだぞ」

「マジかよ。ってかサナトリス、動物の言葉が分かるのか?」

 

 俺はサナトリスと、ウサギギツネ改め騎乗モンスターのラビックスにまたがった。俺が前でサナトリスは後ろだ。振り落とされないように、サナトリスは俺の腰にしがみついてくる。

 おっかなびっくり手綱を引いて合図すると、メロンは素早い動作で壁を登り始めた。

 途中で敵対モンスターと遭遇したが、モンスターは俺たちを無視した。

 まるで豆の木に登るように、メロンはするすると災厄の谷の枝分かれした洞窟を上昇し、駆け抜けていく。

 

「このまま目指せ、巨人の国だな」

「違う、灼熱地獄だ」

 

 思わず呟いた俺の台詞を、律儀にサナトリスが修正する。

 やだなあ、灼熱地獄なんて。

 暑そうじゃないか。

 

 

 

 

 枢が災厄の谷を歩いていた頃。

 真たちは、氷原に立っていた。

 海底遺跡から階段を上がった先には、凍りついた川があった。川の上流には白い雪に覆われた山脈がそびえ立っている。身を切るような冷たい風が、雪山から吹き下ろしていた。氷で出来た樹木が森林となって左右に続いている。椿によれば、ここは魔界の入り口、 賽河原アケロンという場所らしい。

 

「……結局、Lv.500に到達できませんでした」

 

 心菜が残念そうに言う。

 レベルアップのダンジョンで、モンスターを狩り尽くした真たちだが、目標である枢のレベルまでは遠かった。

 

「そんなにレベルを上げたいなら、灼熱地獄に行けばいいじゃない」

 

 椿が山脈と反対方向を指差す。

 そちらは視界を邪魔する木々が少なく、陽炎がくすぶる、なだらかな丘陵が続いていた。丘は背の低い草花が地面を覆っている。一見、平和な野原のようだが、よく見ると毒々しい色や形の植物が混ざっていた。

 

「灼熱地獄の闘技大会に出て優勝すれば、神の称号がもらえるわよ」

「闘技大会?! 心菜、頑張ります!」

 

 心菜はやる気満々だ。

 真はもう、魔界まで来てしまっているので、彼女を止めても意味がないと諦めかけていた。

 椿はフッと笑って、バイバイと手を振る。

 

「行ってらっしゃい。私は蒼雪峰ブルースノーに帰らせてもらうわ」

「椿さんが行くなら、俺も付いていきます!」

「おい大地」

 

 別行動すると言い出した椿に、真は焦る。

 しかも大地まで椿に同行するという。

 椿は澄ました顔で、皆から一歩離れた。

 

「私は、枢が来いというから、一緒にいてやったのよ。あなたたち雑魚に興味はないわ。荷物持ちが来る分には止めないけど」

「枢さんがいないなら仕方ないっすね」

 

 大地は椿に同調する。

 

「おい、お前ら……ああ、くそっ」

「止めても無駄だと思うぞ、真」

 

 真は止める言葉を思い付かず、離れていく椿と大地を見送る。

 慰めるように夜鳥が軽く肩を叩いた。

 

「俺たちは、枢がいたから六人で行動できてたんだ。レベルだけじゃない、あいつは色々すごい奴だったんだと今更痛感するよ」

「はあー、詐欺師の俺じゃ駄目か」

 

 バラバラになっていく仲間を繋ぎ止めることは、真には出来なかった。

 

「せめて、心菜ちゃんを守らないとな……」

 

 彼女に何かあれば、親友として、枢に顔向けできなくなる。

 小走りに灼熱地獄を目指す心菜を見失わないように、真は夜鳥と、魔界の道なき道を歩き始めた。

 

 

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