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73 奇跡の薬?それとも毒薬?

 そのダンジョンのモンスターを倒すと、異常なほど経験値が入ることに気付いたのは、大地だった。

 

「あ。今、レベルが上がった! ここしばらく全然上がってなかったのに!」

 

 虚空に映るステータスを凝視して、喜びの声を上げる大地。

 ここはリーシャンいわく「海底遺跡」。

 平な石が積み重なった迷路が続いており、天井は不思議な魔法でとどめられた海水で出来ている。リーシャンは人間が息のできる場所を探して、大地たちをこのダンジョンに誘導した。しかし、透明な海水の壁は、入るのは自由で出るのは難しい。

 

「こちらに進めば、地上に出ることができます。私が案内してあげましょう」

 

 そこに偶然、クラゲのパラソルをさした、人魚の貴婦人が通りかかった。

 

「人魚は魔族だろ。七瀬の部下じゃないか」

「ナナセ? 何のことですか?」

「別口みたいだな」 

 

 警戒する夜鳥に、人魚の貴婦人は不思議そうに返す。

 どうやら七瀬とは関係ないらしい。

 

「だーいじょうぶだよー。嘘を付いてたら、僕が目からビームでやっつけちゃうから」

 

 リーシャンがそう保証したので、一行は人魚を信じる事にした。

 案内を申し出た彼女に従って歩いていくと、ワカメをかぶったスケルトンがわらわら現れた。

 前衛の心菜と大地が、武器を抜いて切り込み、倒した後に入った経験値に驚く。

 

「この遺跡は地上にあった頃、人間たちにレベルアップのダンジョンと呼ばれていました」

 

 人魚は、ころころと笑って大地たちに説明する。


「ちょうどいいぜ! ここでレベルアップしていこうぜ!」

 

 大地は目を輝かせた。

 彼の食い付きに気を良くしたのか、人魚はさらに続ける。

 

「人間たちはここで、限界のLv.299まで特訓していたようですわ」

「Lv.299が限界?」

 

 大地たちは顔を見合わせる。

 

「枢たんはLv.999ですよ?」

 

 真っ先に疑問を口にしたのは、心菜だった。

 心菜の疑問に答えたのは、空中をふわふわ飛ぶリーシャンだ。

 

「称号によって限界レベルは変わるんだよ。神や不死者の称号を持つ者の到達限界は、Lv.999。人間によくある、英雄とか勇者とか巫女の称号を持つ者の到達限界はLv.299だね」

「私は吸血鬼だったから、不死者の称号を持っているのよ。だからLv.999まで上げられるわ」

 

 リーシャンの説明に、椿が補足する。

 

「じゃあ俺たちは、どうあがいても枢さんには追い付けないのか」

 

 大地はがっかりした。

 すると、人魚の貴婦人が不思議そうな顔をする。

 

「Lv.299以上になりたいのですか? 人間はLv.100を越えれば満足かと思っていましたが」

「すごい奴がゴロゴロいすぎて、俺らは足手まといになりつつあるんだよ……」

 

 気落ちしている大地の呟きに、他のメンバーも無言になってしまった。

 椿はのぞき、仲間の中で枢だけが頭ひとつ抜けている。

 そのことに気付いてしまうと、やはり悔しいものだ。

 

「レベルの限界を上げるのは簡単ですよ」

 

 人魚はフフフとほほ笑む。

 おもむろに胸の谷間から、いくつか小瓶を取り出して見せた。

 小瓶の中には、ネオンブルーの輝きを放つ青い液体が入っている。

 

「ここに人魚姫の血というアイテムがあります。このアイテムを使えば、人間でも不死者の称号が得られるのですよ」

「本当か?!」

 

 大地が目の色を変えて小瓶に飛びつく。

 今にも人魚の血を飲みだしそうな大地を、夜鳥が止めた。

 

「やめろ! 怪しいことこの上ない!」

「そうだ」

 

 真も「やめておいた方がいい」と、大地から小瓶を取り上げる。

 

「この世の中はバランスで成り立ってる。何かを得れば、何かを失う。レベル限界解放できるアイテムなんて、何のリスクもなく手に入る訳がないだろ」

 

 だいたい不老不死なんてロクなもんじゃない、とぶつぶつ言う真。

 一方、心菜は真剣な表情で小瓶をのぞきこんでいた。

 

「でも、枢たんに追いつくには、多少のリスクが必要です」

「追いつく必要なんてないぜ、心菜ちゃん。あいつがそれを望んでいるとでも?」

 

 心菜の声に含まれる本気を感じた真は、いつになく真面目に彼女を止めようとした。

 

「でも、このままじゃ、置いて行かれてしまいます!」

 

 しかし、焦りを含んだ彼女の叫びを聞いて、目を見張る。

 心菜はこらえていたものが決壊したように叫んだ。

 

「枢たんは無意識にモテモテなんです! 人間だけじゃなくて動物も神様も、皆、枢たんが好きになっちゃう。心菜はいつも、追いかけるのに必死なんです。だから……!」

「おい!」

 

 止めようとする真だが、間に合わなかった。

 心菜は小瓶の中身を一気飲みする。

 そして飲み干した途端、「ふあぁ」と目を回して気絶した。

 

「心菜ちゃん?!」

「ちょっと何してるのよ!」

 

 椿がしゃがみこんで介抱を始め、周囲の男たちはオロオロした。

 

「あのー」

 

 輪の外に放って置かれている人魚が、所在なく呟く。

 

「ひとくちだけなら、仰っているようなリスクもなく多少丈夫になるだけで、不老不死になったりしないのですが」

「なんだって?!」

「ひと瓶すべて飲むと、逆に毒になってしまいます……あ、今のは私も長老に聞いただけで本当かどうか」

 

 真は手元の瓶をひっくり返した。

 ファンタジーな世界に似つかわしくなく、裏側に使用説明が記載されたシールが貼られていた。一回につき一口。薬は用法を守って正しく服用しましょう。

 

 

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