表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/156

71 流されてお腹の中

「自己再生!」

 

 俺が次の一撃を放つ前に、七瀬は立ち直ってHPを回復した。

 真が半眼で呟く。

 

「ポ●モンかよ」

 

 俺は思わず同意しかけた。

 分かるよ。せっかく削ったHPを満タンにされると、ちょっとイラっとするよな。

 元の美少女に戻った七瀬は、CM前に戻った番組のように、余裕のある態度を演出した。

 

「ふっ……確かにそっちの地味男の言う通り、スキルレベルが上がった訳じゃないものね。ええ、当然分かってるわよ!」

「俺の名前を覚えてないんだな……」

「でも私のHPが、あなたたちの倍以上あるのは事実よ!」

 

 俺はその台詞に、七瀬のステータスに目を走らせた。

 鑑定スキルのレベルは当然、俺の方が高い。彼女が隠しているステータスも見えている。

 こいつ……HPを攻撃に使うスキルがあるな。

 聖晶神の杖を召喚して、七瀬の技をキャンセルする魔法を使おうとしたが、向こうが「Lv.1016」だからか失敗してしまった。

 

「ちっ……」

 

 行儀悪く舌打ちして、仕方なく防御のために結界魔法を準備する。

 

「これで終わりよ! 深海高津波ダイダルウェーブ!」

 

 海面がゴボゴボ泡立って盛り上がり、 七瀬を中心に水の壁が発生した。

 椿が「そうはさせない」と氷の魔法を使って津波を凍らせようとしたが、次から次に沸き上がる海水に飲み込まれる。

 その内に海水の瀑布は破れ、津波が怒濤の勢いで俺たちに襲いかかってきた。

 

「枢たん!」

「心菜、手を」

 

 離ればなれにならないよう、手を繋いでから結界魔法を使おうと彼女に手を伸ばす。しかしそんな俺の顔面に何かぶつかってきて、視界がブラックアウトした。

 

「キュー!」

「ぶっ」

 

 それはウサギギツネのメロンだった。

 大地の肩に乗っていたのが、非常事態に動転して、俺に飛びかかってきたのだ。

 伸ばした手はすれ違う。

 最後に見たのは「ガーン」とショックを受けた心菜の顔だった。

 

 

 

 

 津波に飲まれる瞬間、意識を失っても持続する泡状の結界を、仲間たち個別に掛けていた。だから心菜たちの心配はしてなかったのだが。

 うっかり自分に魔法掛けるの忘れてた……。

 

「……はっ」

 

 気がついた時には、びしょ濡れで洞窟の中に倒れていた。

 頬をペロペロなめる小動物。

 この事態の元凶であるウサギギツネのメロンだ。

 俺はメロンを抱えて上体を起こした。

 

「まずったなー……ひとりか」

 

 見回しても誰もいない。

 咄嗟に結界魔法を使い忘れたとはいえ、俺自身は自動防御オートシールドのスキルが発動してダメージは無かった。濡れた服が気持ち悪いだけだ。

 

「そういえば、パーティーを組んでたな」

 

 やっと思い出して、視界の隅っこのアイコンに指を走らせる。

 異世界に落ちる際にリセットされて使えなかったパーティーメニューだが、今は改めてパーティーを組んでいるので使えるはずだった。

 

 この世界ではゲームじみたグラフィックの、直線で構成された簡易マップを参照できる。

 パーティーを組んでいる場合は、マップにメンバーの位置が表示される仕様だ。

 今、マップを見たところ、近くに心菜たちはいないようだった。

 通信やメッセージを飛ばしたりする機能も無い以上、お手上げだ。

 

「メンバーの名前とHPバーもグレーアウトされてやがる……使えねーな」

 

 離れ過ぎているらしく、心菜たちの位置もHPも確認できない。

 俺は、パーティーのステータス確認を早々に諦めた。

 この世界で過ごした千年間で学んだことは、ゲームのようなシステム画面やメッセージは、最終的には何の役にも立たないということだ。かゆいところまで手が届かないので、結局、自分のスキルか、直接見たり聞いたりした情報が一番頼りになる。

 

照明球ライト

 

 暗くて周囲の様子が分からないので、魔法で明かりを付ける。

 壁や地面は赤みがかっており、濡れて光っている。

 生暖かい風が頬を撫でた。

 何か普通の洞窟と違うような……?

 

『テステス~♪ 聞こえるカナメ~?』

「リーシャン?!」

 

 頭上に小さな金色の光の球が現れた。

 光からリーシャンの声がする。

 

「どこにいるんだ?」

『カナメの仲間と一緒にいるよ。僕、機転を効かせて、カナメの仲間の人間をまとめて保護したんだ。偉いでしょー褒めて褒めて!』

 

 ナイスフォローだ、リーシャン。

 

「偉いぞリーシャン。俺ははぐれたけどな……」

『カナメったら、自分に魔法掛けるの忘れてたでしょー。流される方向が違ってて回収できなかったよー』

「うっ……ところでリーシャン、この魔法は何だ? 電話みたいな」

「デンワ? これはね、僕が開発した神様連絡網だよ!」

「神様……連絡網?」

 

 遠隔地にいるはずのリーシャンの声が、クリアに聞こえてくる。かなり精度の高い魔法だ。マスコットみたいな見た目に惑わされるが、リーシャンは祝福の竜神。魔法は得意なのである。

 

『遠い場所にいるカナメと話すために、前から準備してたんだよー』

「なるほど。リーシャン、そっちはどこにいるか、場所は分かるか?」

『僕らは海底遺跡だよ。カナメは……海神マナーンのお腹の中だね!』

「は?」

 

 俺は思わず間抜けな声を漏らして、周囲を見回した。

 お腹の中?

 海神マナーンは巨大な鯨だ。人ひとりくらい飲み込めそうな。

 ど、どうりで壁がうねってると思った……やば、消化吸収されるんじゃね?!

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ