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69 枢の回想

 白い縫いぐるみのような、小さい竜の後ろ姿を見送って、俺は大丈夫かと心配していた。

 

 ――このクリスタルの体じゃ、一緒に付いて行ってやることもできない。

 

 それは、異世界にセーブポイント転生して、二百年ほど経った頃のことだった。

 

 アダマスという国は成立して百年あまりの小国であり、当時はそれほど有名でもなかった。

 建国の英雄は寿命で没し、混迷の中、新たな世代の人間たちが、国を大きく成長させる術を模索していた。

 

 俺も将来に不安を感じていた。

 ちょうど石になってしまった事を受け入れ、地球に戻る事は叶わないと諦めかけていた頃だ。

 この体は身動きできない石の身。

 アダマス王国の行く末は、俺の行く末でもある。

 

 ――ええいっ、しみったれた思考はやめやめ。千里眼スキルであいつの状況を見よう。

 

 俺はスキル「千里眼Lv.71」で白い竜を追跡した。

 千里眼は、動かなくても数キロ範囲の状況を透視できる便利スキルだ。

 ついでに白い竜を鑑定する。

 

『祝福の竜神リーシャン Lv.305』

 

 普通の竜じゃなくて竜神だった。

 しかも「Lv.100」を越えている。

 

 この世界では「Lv.99」が上限らしい。

 俺自身のレベルと、スキルレベル、レベルが設定される項目は二種類ある。

 そのどれも上限は「Lv.99」のようで、それ以上は上がらない。

 出会う人間を片っ端から鑑定していたが、アダマス建国の勇者以外、「Lv.100」を越えた人間を見たことが無かった。

 この俺も数十年前に「Lv.99」になって以来、レベルが上がっていない。

 レベル上限を越える条件は、称号かもしれないと、俺は推測していた。

 ただの石が「Lv.99」以上なのは、どう見てもおかしいからな。

 

「ふふふっ、正義の味方、竜神リーシャン見参!」

「何っ?!」

 

 例の太った男の後を付けていったリーシャンは、男の家の中で正体を現した。

 神々しい白い竜の本性をさらす。

 男は驚愕して後ずさりした。

 

「君みたいな悪人は、この僕が成敗してあげるよ!」

「悪人?! いったい何のことだ!」

 

 竜神リーシャンは、恐怖する男を前足でペイっと投げ飛ばした。

 男は壁にバウンドして気絶する。

 

「……商人をそそのかし、動かないクリスタルを盗んで帰るだけだったのに、こんな邪魔が入ろうとは」

 

 小さな悪は容赦なく滅ぼされた……と言いたいところだが、残念ながらそう簡単にことは済まなかった。

 使用人の格好をした男が、忌々しそうに舌打ちする。

 

「盗む? あのクリスタルは僕のだよ!」

「ほほう。竜は宝石や黄金が大好きだったな。自分の巣に持って帰るつもりだったか。私と同じだな」

「ち、ちがうよ!」

 

 リーシャンの視線が泳いでいる。

 お前、俺を誘拐するつもりだったんだな……。

 

「僕のことはともかく……君は何者だ!」

 

 リーシャンの問いかけに、男は笑った。

 

「私は、魔神ウルテマ」

 

 地面から黒い煙が立ち上り、煙に巻かれた男の姿が変わった。

 内側から膨張するように体が大きくなり、皮膚が黒く染まる。

 目が赤くなり角と尻尾が生えた。

 典型的な悪魔の恰好だ。

 

「レベル300程度の竜神が、私に敵うとでも? ひねりつぶしてくれよう」

 

 悪魔はリーシャンを前に余裕の態度だ。

 

『魔神ウルテマ Lv.400』

 

 リーシャン以上のレベルだ。

 俺は焦りをおぼえる。

 これじゃリーシャンが危ない!

 

「グルアアッ!」

「はうっ」

 

 魔神がリーシャンに殴り掛かる。

 男の変身に驚いたのか、リーシャンは呆然としていて、そのパンチをまともに受けた。

 ふっとんだリーシャンの体が、近くの家に激突する。

 当然、ぶつかった家は破壊され、瓦礫と化した。

 とばっちりを食った民家の住民が逃げ惑う。

 

「僕は、魔神なんかに負けない!」

 

 負けん気を刺激されたのか、リーシャンは立ち上がって反撃を開始した。

 光のブレスと、魔神の黒い炎が飛び交う。

 戦いは街の中だ。

 彼らが戦うたびに、街の建物が破壊される。

 

「ああっ、どうしてこんなことに!」

 

 街の住民は為すすべなくうずくまり、怪獣大決戦を見上げるしかない。

 

「誰か助けてくれ……ああ、どうか、アダマスの聖なるクリスタルよ。我らを護りたまえ……」

 

 俺は住民の声を聞いていた。

 くそっ。

 今の俺は単なる「守護石」でしかなく、「Lv.99」で魔神には到底及ばない。

 それでもアダマスの民を、今まで俺を守ってくれた人々を、見捨てたりなんかできなかった。

 

 ――守りたい。俺の国、俺の守るべき人たちを。

 

 大した力は無いけれども、全力で戦いに介入することを決意する。

 天候を変える「落雷」スキルを使い、雨雲を呼び寄せた。

 街の人にあてないよう注意しながら、雷撃を魔神に浴びせる。

 

「この雷は……君なのかい?」

 

 竜神リーシャンが雲を仰ぎ、俺を透かし見た気がした。

 

「伝わってくるよ、君の想いが。君はこの国の人たちを守りたいんだね」

 

 リーシャンは落雷の間を飛び回りながら続ける。

 

「聖なるクリスタルに宿る意思、君はこの国の守護神にふさわしい。これから君のことを、聖晶神アダマントと呼んで良いかな?」

 

 ちょっと待て。敵と戦っている最中なのに、そんな悠長なことを言ってる場合か?

 それになんだよ聖晶神アダマントって、恥ずかしい。やべ、鳥肌が……。

 しかし俺の憤慨を無視して、唐突にそのメッセージは視界に表示された。

 

『称号:聖晶神アダマントを獲得しました。レベル上限が解放されました』

 

 上限解放、だと?

 

『称号の効果。大地属性の神クラスは、所有する土地の魔力を引き出すことができます』

 

 唐突に、ステータス欄の魔力の横に「∞」のマークが付いた。

 呆気に取られていた俺は、少し冷静になる。

 このマークは確か無限を表している。ということは、魔力切れを気にせずに、がんがん魔法が撃てるってことだ。

 俺は、落雷などのスキルをありったけ魔神に撃ち込んだ。

 何か補助的な力が働いているのか、自分でも驚くほどの威力が出る。

 

「なんだこの力は?! 私は迂闊にも新たな神を覚醒させてしまったのか?!」

 

 魔神の横に浮かんでいたHPバーが赤く染まり、消失する。

 信じられないという表情のまま、魔神の体は塵になった。

 戦いは終わった。

 リーシャンが翼を広げると、街の上に浮かんだ黒雲が風に流されて散る。

 綺麗な青空から、天使の梯子が街に射し込んだ。

 

「おお……奇跡が起きた。聖なるクリスタルが、我らを護ってくれたのだ!」

 

 街の住民が泣いて喜んでいる。

 リーシャンは青空を軽く旋回すると、小さな縫いぐるみサイズに変身してから、俺のいる教会に降りてきた。

 

「なんだかなー。僕が助けてあげるつもりだったんだけど、結局、僕が助けられちゃったね」

 

 トコトコと、俺の、クリスタルの前に歩いてきてリーシャンは残念そうに言った。

 

「あの魔神とおんなじだと思われたら格好悪いし……それに僕は君が気に入っちゃった」

 

 リーシャンはぴょんぴょん飛び跳ねる。

 

「とりあえず、アダマント、僕と友達になってよ!」

 

 ……はい?

 

 

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