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57 仲間は狂暴な奴ばかり

「頼もうぅー!」

「ひっ」

 

 バーンと扉を開け放ち、ずかずか入ってくる美少女剣士に、道場の面々は恐れおののいた。

 

「あれが近頃、この界隈で道場破りしまくっているという」

「うちの看板は死守しろ!」

 

 剣術を教える場所だから「道場」と翻訳されているだけで、実際は道場に似て非なる場所だ。畳や木の床は無くて地面が剥き出しだし、彼らが持っているのは刀や木刀ではなく、鉄剣と刃を潰した棒である。

 それでも心菜の殴り込みは正しく道場破りで、俺はただただ呆然とその行動を眺めるしかなかった。

 

「前衛の奴は元気がありあまってるよなー」

 

 俺の隣で、真が頭の後ろで腕を組み、壁にもたれている。

 視線の先には暴れている心菜、大地、夜鳥の姿があった。

 

「地球の身体は運動不足で、剣術や体術スキルが上手く決まらない時があるから、慣らすために運動してるんだと」

 

 俺は地面に腰を下ろして体育座りだ。

 仲間が迷惑をかけて何かスミマセンと謝りたい。

 

「まったく野蛮ね! 戦わなくても勝つ方法はいくらでもあるのに」

 

 椿は手鏡をのぞきこんで手櫛で髪を整えている。

 後衛で主に魔法などで戦う俺、真、椿の三人は、運動したいという他三人に付いていけずに観戦に徹していた。

 戦わなくても勝つ方法か……。

 俺はちらりと椿を見上げて聞いてみる。

 

「例えば?」

「色仕掛けとか」

「却下」

「なんですって?!」

 

 もともと黒崎の仲間だったこともあり、椿の発想はちょっと卑怯くさかった。

 真が人差し指を振りながら、俺に向かって提案する。

 

「それじゃー、舌先三寸はどう? 何ならここの道場の地主を丸めこんで、土地ごと買い上げてやろっか」

「もっと却下」

 

 詐欺師の真も大概だった。そういえばこいつも、実は黒崎の仲間だったんだよな……あんまり自然に戻ってきたから気にしてなかったけど。

 真は不満そうに唇を尖らせた。

 

「えー、グレンさんの家は狭いよ。アダマスに長期滞在するなら拠点が欲しい。枢っち、大聖堂の用事はすぐ済まねーの?」

「うーん」

 

 いっそリーシャンを連れて乗り込んでやろうか、と考えんでもない。

 しかし考えてみると、問題なのはその後だ。

 俺が聖晶神だと知った神官たちが大騒ぎしたり、引き留められたりしないだろうか。

 クリスタルの頃は石だったから、崇められようが布で表面をピカピカに磨かれようが、特に構わなかった。

 人間の今、神官たちに崇められたりすると考えると、ちょっと怖い。

 

「どうしたもんかな……」

 

 悩んでいると、道場に誰かが駆け込んできた。

 

「ここにいましたか!」

「アセル王女?」

 

 扉に手を掛け、肩で息をしているのはアセル王女だった。

 王女さまがこんな下町に何の用事だろう。

 

「グレンが……賭博に大金を出し、勝負に負けて家ごと差し押さえられそうになっています!」

「ええ?!」

 

 だらしのない男だと思ってたけど、賭け事に手を出すとは。

 真が仰天する俺の隣でしれっと言った。

 

「自業自得じゃね?」

 

 その通りだ。

 

「私もそう思います。しかしどうしようもない、だらしない男だろうと彼は国家認定杖職人! 失う訳にはいかないのです!」

「王女さまの権力で何とか出来ないんですか?」

「私が前面に出ると、グレンのだらしなさが公になってしまいます! それはマズイ! アダマス的にも、王家的にも、マズイのです! 何とか秘密裏にグレンを助けないと」

 

 アセル王女は本気で困っているらしく、泣きそうな目をしていた。

 

「あんな男でも幼馴染みなのです。今、頼れるのは正体不明のあなただけです!」

 

 そう言われたら、仕方ないな。

 俺は頭をかきながら立ち上がった。

 

「分かった……心菜、そろそろ戻ってこい」

「にゃーん?」

 

 楽しそうに道場主をボコッている心菜たちを呼び戻し、俺はアセル王女の案内のもと、賭博場に向かった。

 

 

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