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36 不死鳥カルラ

 コーウェンの街を救った俺たちは、カダック海賊団から譲り受けた帆船に乗り、アウロラ帝国を目指していた。

 帆船を動かす乗組員は元海賊だ。希望者を募り残ってもらった。

 これから数日かけ、南西の海岸沿いに船旅をして、アウロラ帝国の港に行く予定だ。

 

「僕に乗ってビューンと飛んでいけばいいのに」

「目立つから駄目だ」

 

 リーシャンの提案に俺は首を振る。

 リーシャンは甲板に寝そべって日向ぼっこしていた。

 

「急に国内に現れたら不審人物だろ。ちゃんと人間として手順を踏んで入国するんだよ」

 

 この海賊船は、商船を装ってアウロラ帝国に出入りしていたこともあるらしく、ちょうど良かった。

 リーシャンにもたれて海を見ていると、大地が近寄ってきた。

 

「そういえば、枢さんは異世界で何してた人なんすか?」

 

 大地がうーんと伸びをしながら、世間話ついでに聞いてくる。

 

「セーブポイント……って、お前には話してなかったな」

「?」

 

 俺がセーブポイント転生していたことは、まだ誰にも話していない。

 どう説明すればいいんだ。

 

「……アダマス王国で、守護石やってたんだよ……」

「石? 聖なるクリスタルの伝説は俺も聞いたことありますけど、石? 神官じゃなくて?」

 

 不思議そうに聞き返された。

 そういう反応だよな、普通。

 クリスタルになってましたなんて、想像が及ばないだろう。

 大地は困ったように笑いながら続けた。

 

「よく分からないけど、枢さんはアダマス王国の出身なんっすね。じゃあ心菜さんや真の奴とは、アダマス王国で合流するんですか?」

 

 ……あ。

 

「異世界に落ちるなんて予想外だったから、打ち合わせる時間なかったっすけど、異世界に来たら馴染みのある出身国を目指す可能性が高いですよね。そこで待ち合わせれば……って、どうしたんすか、そんな考えてもみなかったって顔して」

 

 大地の癖によく考えてやがる。その通りだ。

 俺は頭を抱えた。

 

「心菜と真に、俺の事情を話してなかった……」

「はあ?!」

 

 真は俺の正体に感づいていたようだが、どこまで分かっているか不明だ。心菜には結局、俺が異世界で何をしていたか離せずじまいだったし。

 おまけに、心菜の出身国はともかく、真の出身国は聞いてない。

 

「素直に打ち明けて、あいつらの出身国も聞いとけば良かった」

 

 ちょっとばかり後悔する。

 俺が寄り掛かるのを止めたので、リーシャンは姿勢を変えてごろりんと仰向けになった。気持ち良さそうに空を見上げている。

 空には海鳥が群れになって旋回していた。

 

「ねー、カナメー。アウロラ帝国と言えば、鳥さんだよね」

「鳥? ああ、アウロラ帝国の守護神、不死鳥カルラのことか」

 

 この世界には、国ごとに守護神が付いている。

 決まりという訳ではないが、人間と神が共存する文化が発達した結果、自然とそうなったのだ。

 アウロラ帝国の守護神は、破壊と再生を司る炎神カルラ。

 不死鳥の姿をした神だ。

 

「鳥さんに挨拶してくー?」

「よせ。あいつは俺のこと嫌いだろ。アウロラ帝国は、アダマスによく戦争を仕掛けてきてたじゃないか」

 

 たま~に、俺のところに飛んできて宣戦布告していたカルラを思い出す。

 いわく「今度こそ帝国が勝つからね!」「そのカチカチの身体を灰にしてやるんだから」「キーッ、負けて悔しいーっ!」などなど。俺を散々ののしっていた。

 

「鳥さんはカナメのことが好きだと思うよ」

「まさか」

「ほら、アダマスがピンチの時は、鳥さん加勢してくれたじゃない」

 

 いつだったか、魔族の軍勢に囲まれて窮地に陥った時には「アダマス王国を滅ぼすのは、このアウロラ帝国よ! お前たちじゃない!」と宣って援軍を送ってくれたっけ。

 

「……単に負けず嫌いなだけじゃ?」

「そーかもねー」

 

 眠くなってきたのか、リーシャンの返事はおざなりだ。

 大地は話に付いてこれなかったらしく、困惑した表情になっている。

 

「枢さん、アウロラ帝国に知り合いがいるんすか?」

「うーん。知り合いというか、何というか」

 

 俺が帝国に足を踏み入れたと知ったら、カルラは怒って追い出しそうな気がするんだけどな。リーシャンは、俺とカルラが仲良くできると思っているらしい。無理だと思うんだけどなー。

 


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