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33 嘘つきは誰だろうな?

「おいカダック、討伐した証拠にするために、お前らの海賊船は一隻をのぞいて燃やすからな」

 

 海賊船に乗り込んで皆と話し合った後。

 作戦開始の直前に俺は「船を燃やす」宣言した。

 

『それは勘弁してくれ! 船が無かったら俺たちは』

「畑でも耕せばいいだろ。お前ら全員、ちゃんと魔法で陸地に送ってやるよ」

 

 カモメの口を借りてカダックは悲鳴を上げる。

 しかし、こいつらに海賊を続行されると困るのだ。

 解散を真実にするため、海賊船は燃やして沈めると、俺は決めた。

 

「椿、火の魔法は使えるか?」

「当然よ」

 

 椿の魔法で俺たちが乗る船以外、海賊船を全て焼き払う。船員は俺が転移の魔法を駆使して陸地に届けた。コーウェンの街からも海上の盛大な火事は見えただろう。

 船の残骸は、海賊団が解散したという動かぬ証拠になるはずだ。

 

 本当に力業で海賊団解散させられるとは思っていなかったらしい。

 海賊船が沈んだ後、カモメからカダックの泣き声が聞こえてきた。

 

『うっうっ……お前らに関わるんじゃなかった……』

「神クラスに関わったらこんなもんだろ。運が悪かったと思って諦めるんだな」

 

 俺は肩をすくめてみせる。

 下手な神頼みをするからこうなるのだ。

 

「それにしてもカダック。結局カモメ越しに話をするだけで、俺たちの前に顔を出さなかったな。何か事情でもあるのか?」

 

 海賊団の団長カダックは、使い魔のカモメを通じて話をするのみで、直接会おうとしなかった。

 椿や大地も姿を見ていないらしい。

 

『……俺の顔は火傷があるから、人前に出たくないんだよ』

 

 カダックは何故か言いよどんだ。

 俺はその様子に「何かある」と直感したが、あえて突っ込まずに流した。

 準備がととのった様子の大地に声を掛ける。

 

「大地、ヒーロー役は頼んだ」

「了解っす!」


 大地は海賊の服装を着替えて、きらびやかな鎧と剣を身に付けている。

 海賊船の積み荷にあった金ぴかの鎧や剣を、俺の魔法で磨いて綺麗にしたものだ。大地は見た目に爽やかな体育会系のイケメンなので、勇者の格好が大層似合っている。

 

「リーシャン、大地を任せたぞ」

「まかせといてー!」

 

 俺が声をかけると、はしゃいだリーシャンは海賊船の甲板で尻尾と翼をバタバタさせた。

 帆柱が折れるから止めてあげて。

 

 これから大地には、リーシャンにまたがって派手に街に降りてもらう。剣をかかげて「海賊団は通りすがりの勇者の俺が討伐した!」と宣言するのだ。街の人はリーシャンが竜神だと知っているし、リーシャンと一緒なら大地の言うことも信じるだろう。

 

 大地を乗せてリーシャンは甲板を飛び立った。

 

 俺と椿は、魔法でコーウェンの街に潜入し、領主候補のナタルに会う。

 椿の鏡の魔法は、遠方の鏡同士を異空間でつなげ、離れた場所に安全に移動できるらしい。

 

「鏡よ鏡よ鏡さん。世界で一番綺麗で、幸運な女の子はどこのだあれ?」

『もちろん椿さまです!』

 

 海賊船に設置した姿見が紫色に光り輝く。

 鏡面から鏡の悪魔の声がした。

 あの悪魔、消滅してなかったのかよ。

 鏡に飛び込むのは勇気が必要だったが、俺は思いきって椿と一緒に飛び込んだ。

  

 

 

 鏡の向こうは見覚えのある部屋だった。

 ここは領主の館だ。

 椿が長い黒髪をかきあげながら言った。

 

「この世界では、貧しい家には姿見が置かれてないわ。領主の家に出たのも当然ね」

「そういえば鏡は高級品だったか」

 

 俺は「ここは異世界だった」と認識を改める。

 もっとも地球はあちこちに鏡がありすぎなのだ。ビルの壁面までピカピカでまぶしい。よく考えてみると、あそこまで光を反射させることないんじゃないか。

 

「ひっこめ、偽物勇者!」

 

 外から罵り声が聞こえて、俺は椿と顔を見合わせた。

 嫌な予感がする。

 館の使用人と鉢合わせしないよう気を付けながら、外に出た。

 コーウェンの街の広場では、ちょうどリーシャンに乗った大地が「俺が海賊を退治した」と名乗った後だった。

 街の人がトマトを大地に投げつけている。

 

「海で船が燃えているのを見たぞ! この街も燃やすつもりなんだろう?!」

「横暴な領主に、強欲な海賊団、偽物勇者! もううんざりだ!」

 

 おかしいな。一部の街の人が妙に過敏に反応している。

 中にはリーシャンが竜神だと知っている者もいるのに、何かを恐れているように黙り込んでいた。

 手荒な歓迎を受けたリーシャンはおろおろしている。

 大地は急に弱気になって「皆さん、落ち着いてください! 海賊団は壊滅しましたから!」と叫んでいた。

 

「静まりなさい!」

 

 領主マリアが、動揺する民衆の前に登場する。

 

「あのカダック海賊団が、そう簡単に壊滅する訳がありません。竜神も偽物でしょう。この偽物勇者と組んで、私達をだまそうとしているのです」

 

 マリアは、冷ややかな目でリーシャンと大地を見た。

 

「竜神の名をかたる偽の竜、この街から出て行きなさい!」

 

 睨まれたリーシャンは、涙目になった。

 

「僕は、僕はそんなつもりじゃ……うわーん!」

 

 あ、逃げた。

 呆然とする大地を置いて、リーシャンは空を飛んでどこかへ行ってしまった。

 リーシャンは子供みたいに無邪気で優しい性格だから、相手が人間でも嫌われて悲しかったのだろう。打算だらけの作戦に巻き込み利用して、リーシャンには悪いことをしたな。

 

「え? お、俺はどうすれば」

「その偽物勇者をひっとらえよ!」

 

 マリアの命令で、街の兵士が大地を拘束する。

 お人好しの大地は兵士をなぎ倒して脱出するという選択肢もなく、無抵抗に捕まった。

 

「ひどい、ひどいっすよ、枢さん……」

 

 泣きながら引きずられていく。

 俺は腕組みして、建物の陰からその様子を見送った。

 

「で、どうするの?」

 

 椿が俺に聞いてくる。

 俺は冷静に考えを巡らせた。

 

「大地は放っておいても大丈夫だろ。予定通り、ナタルって人に会いに行こう」

 

 俺の勘が正しいなら、この件は少しばかり裏があるはずだ。

 

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