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19 真逆の選択

 地球とアニマ、二つの世界が衝突したせいで滅びようとしている? それが本当だとして、なんで地球を滅ぼす話になるんだ。


「百歩譲ってお前の話を信じるとして……ちょっと安直すぎるだろ。両方助けられないから、地球を滅ぼすなんて」

 

 俺は少し黙った後、黒崎に言い返した。

 

「それとも魔神の自分に酔ってるのか? ラスボス気取りかよ?」

「ははっ、半分くらいあるかもしれないな。地球のゴミみたいな人間どもを殺し尽くすのは楽しそうだ」

 

 黒崎は愉悦の笑みを浮かべる。

 言ってることが無茶苦茶だぞ。だが黒崎の冷笑からは本気の気配が伝わってくる。

 俺はゾッとした。

 姿形は日本の大学生でも、その魂はもう「魔神」なのだ。黒崎は異世界で長い年月を掛けて、人間からかけ離れてしまったのだろうか。

 顔をしかめる俺に、黒崎が不思議そうに言う。

 

「近藤はそんなに地球に愛着があるのか? 異世界の生活の方が長いだろうに……もしかして異世界で良いことが無かったのか。俺は魔神になってからは好きなだけ犯して殺して奪う、最高の生活だったんだがな」

「そりゃ良かったなっ!」

 

 何故か憐れみの目で見られてキレそうになった。

 しかし「犯して殺して奪う」なんて、いかにも魔神らしい言い草だ。

 セーブクリスタルだった俺には、望んでもできはしなかったが。

 

「アダマスの守護神は、クリスタルに宿りし聖なる意思……それがお前で合っているな?」

「……」 

 

 黒崎の確認に、俺は沈黙を返す。

 

「俺たち魔族の侵略に対し、表舞台に出て来ない光の神はお前だけだった。なぜ大聖堂に何百年も引きこもっていたんだ? クリスタルの体は動かせないとしても、憑依の魔法なり何なりを会得して、生き物に魂を移せば良かったのはないか」

「……」

「俺は生き延びるために人間を食った。後悔はしていない。あの世界では俺は魔物だったのだから。近藤は試さなかったのか? いくらでも方法はあっただろう」

 

 千年も時間があったのだ。

 黒崎の言う方法を考えなかった訳じゃない。

 

「……守るべき奴らができてしまったから、かな」

 

 実際は迷ったこともある。

 ある時、病弱な子供の魂に「母親に花をプレゼントしたい」と頼まれた。俺は一時的に子供に乗り移って身体を動かし、母親に花を渡してやった。結局、身体を返したけれど……もし身体を強奪することを選んでいたら、どうなっていただろうか。

 運命は些細な事の積み重ねだ。セーブクリスタルを訪れた冒険者や商人たちを、俺は守ってやった。彼らは恩返しするように俺を守り、始まりの村が生まれ、やがて大国アダマスへと成長する。

 彼らと俺の間には信頼関係があった。

 あいつらの身体を奪って生きる?

 そんな裏切るようなこと、できはしない。

 

 ああ、そうか。

 目の前の黒崎は、選ばなかったルートを辿った俺自身なのかもしれない。

 

「なるほど。確かにお前は、人界を守護する光の七神のひとり、聖晶神らしい。俺とは真逆の存在だ」

 

 黒崎も俺と同様のことを悟ったらしい。

 選ばなかった可能性。

 千年経った今となっては、俺たちが同じ選択をすることは無いのだと。

 

「残念だな。同郷の神クラス同士、仲良くしたかったが」

 

 黒崎は片手を上げて、指をパチリと鳴らす。

 途端にビッグサイトの窓ガラスが紫色に光った。

 空気が変わる。

 重苦しい雰囲気が漂う中、黒崎の背後の窓ガラスが鏡のように輝き、セーラー服の少女が姿を現した。

 

「やっぱりこうなってしまったのね。でもあなたが悪いのよ、近藤さん。地球の人間に肩入れするから」

「八代椿……やっぱり罠だったのか?」

「世の中は結果が全てだ。綺麗事だけで異世界は生き抜けない」

 

 俺に一人きりで来させておいて、自分は仲間を潜ませておいたのか。やっぱりやることがえげつないな。誠意はないのかと指摘しても、黒崎は飄々と「予定通りだ」と胸を張る。

 俺たちは臨戦態勢で睨みあった。

 

「空間を切り離した。外から救援は呼べないぞ、近藤。ここがお前の終わりの地だ」

 

 黒崎は宣言して、黒い光で出来た槍をその手に作り出す。

 八代はLv.602、雑魚じゃない。黒崎だけでも厄介なのに、俺一人なら勝ち目は低いだろう。

 そう、俺一人では。

 

「……」

 

 俺は黙ってその場を動かない。

 八代が怪訝そうにした。

 

「どうして動かないの? 逃げ回って楽しませてくれるかと思ったのに。こちらから行くわよ?」

 

 窓ガラスの向こうから、コウモリの群れが現れる。

 動かない俺に殺到するコウモリ。

 俺は突っ立ったまま甲羅にこもる亀のように、防御魔法「光盾」を周囲に張り巡らせて攻撃をはじく。

 まるで台風の目のように俺の周囲だけ静かだった。

 

「……黒崎、お前が敵になるのは想定内なんだよ」

  

 俺は一人じゃない。

 

「椿! 警戒しろ――」

 

 黒崎はハッとしたように周囲に視線を走らせた。

 

「遅い」

 

 音もなく少女の背後に降り立った夜鳥やとりが、ナイフを一閃させる。

 トサっと少女の身体が床に倒れた。

 途端にコウモリの群れが消える。

 黒崎が夜鳥に黒い槍で切りつけたのと、俺が夜鳥に防御魔法を使って援護したのはほぼ同時だった。

 身軽に跳躍した夜鳥は、華麗に一回転して俺の隣に着地した。

 

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