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11 お前ら順応はやすぎだろ

 恐る恐る見上げると、スキルで日本刀を召喚した心菜が、親指で刀のつばをチャキッと押し上げたところだった。

 据わった目で俺を見る。

 

「死ぬ覚悟は、できていますね……?」

 

 ひいいいいぃぃぃーっ!

 

「待て心菜、誤解だ! きっと人違い」

「問答無用!」

 

 鞘に入ったままの日本刀で殴られそうになった。

 

「お連れ様ですか? 営業妨害なので出て行ってください」

 

 シシアの仲間だと思われたらしく、店員は冷ややかな視線を俺たちに向ける。仕方ない。これも異世界案件なので、俺たちで対応するしかないのだろう。

 俺は心菜の日本刀を白羽取りしながら、真に向かって叫んだ。

 

「真、佐々木に連絡しろ! こんな時こそ公僕の出番だ。迷い込んできた異世界人ということで、引き取ってもらえ」

「な、なるほど。分かった」

 

 真はスマホを取り出して操作を始める。

 俺は心菜とつばぜり合いの真っ最中だ。

 基本能力値は俺の方が高いのだが、心菜は刀剣の扱いで追加効果がある称号をいくつか持っているらしく、簡単に跳ね返せない。

 

「見知らぬ女のせいで、心菜の枢たんが汚れてしまいました。滅殺してやり直しましょう」

「待て待て待てぃ!」

 

 嫉妬の炎をメラメラ燃やす心菜は止まる様子が無い。

 俺は頭をフル回転させて考えた。

 

「あ、ネズミ」

「どこにゃ?!」

 

 ハムスターなど小動物が好きな心菜の弱点を突いた。

 隙ができた彼女の刀をぶんどって脇に放り投げる。

 

「あ!!」

 

 心菜は空になった両手をわきわきさせた。

 俺はその両手をぎゅっと握った。

 

「異世界で、地球に帰れたら、ずっとお前に言いたいと思ってたことがある」

「枢たん……」

「好きだ、心菜。愛してる」

 

 途端に、周囲の見物客から一斉に「ヒューヒュー」と冷やかしの声が上がった。お前ら見世物じゃないんだぞ。それに何故誰も心菜の日本刀に突っ込みを入れない?

 心菜は先ほどのバーサクぶりが嘘のように、真っ赤になってもじもじしている。ふうー、良かった、何とか切り抜けたぜ。危うく彼女に切り殺されるところだった。

 スマホで連絡していた真が電話を切り、呆れた顔をした。

 

「大変だなー、彼女持ちは。俺はもう一生独身で良いぜ」

「馬鹿。佐々木さんはどうだって?」

「すぐに部下を迎えに寄越すってさ」

 

 ひとまず、気を失っているシシアを佐々木の部下に引き渡し、解散することになった。

 

 

 


 俺は真と心菜と共に、日を開けてまたアマテラスに会いに来ていた。

 場所は、先日と同じオフィスビルのミーティングルームだ。

 

「うーむ……」

「アマテラスさま?」

 

 アマテラスはテーブルの中央に紫色の座布団を敷いて、正座に腕組みの姿勢で何か悩んでいた。

 俺が声を掛けると「来ておったか!」と慌てた様子になる。

 

「俺が教えた結界はどうですか?」

「完璧じゃ。モンスターどもはダンジョンに封じ込めたゆえ、皆、安心して外に出られるじゃろう。これもすべて枢のおかげじゃな」

「褒めたって何も出ませんよ」

 

 結界の魔法は得意だ。

 異世界にいた頃は、大陸から魔族を締め出す巨大な結界、神聖境界線ホーリーラインを張ったこともある。この神聖境界線によって人界の国々は、魔族の襲撃に邪魔されずに文化を発展させることができるようになった。俺も昔は防御魔法ばかり修行していたのだが、神聖境界線を作ってからは暇になったので、趣味の工作に励むことができた。

 まあ、そんなことはどうでも良いか。

 

「それよりも、そなたらに紹介したい者どもがおるのだ」

 

 アマテラスが指をパチリと鳴らす。

 途端に風景が変わって、俺たちは殺風景なオフィスから、体育館のような場所に転移していた。

 いきなりの転移に、心菜と真は「わっ」「うお」と驚いている。

 

 転移先の体育館には、複数の若い男女がいた。服装は学生服だったり私服だったりバラバラだ。年齢は俺たちとそう変わらないだろう。学生が大半である。それぞれスマホをいじったり、体操や屈伸運動をしたり、待ち時間を過ごしていた様子だ。

 彼らは転移してきた俺たちを見て目を丸くしている。

 

「こちら地球防衛隊……失礼。日本の治安維持のために集まって頂いたプレイヤーの皆さんです」

 

 佐々木は眼鏡を押さえながら、彼らを紹介した。

 アマテラスの指示で、あちこちから人材を勧誘して集めているらしい。さっき言いかけた地球防衛隊云々は聞かなかったことにしよう。

 俺は佐々木に聞いた。

 

「プレイヤー?」

「冒険者や戦士という言葉がしっくり来ないということで、皆さんが納得いく呼び名がプレイヤーということでした。これから異世界転生でクラスやスキルを得た人々のことをプレイヤーと呼称します」

 

 なるほど、プレイヤーか。

 ゲームの延長線上のようなネーミングだが、確かに「冒険者」と呼ばれても違和感がある。俺たちは日本から冒険に旅立つ訳ではないからだ。日常から少し離れて、異世界の自分を演じる。その意味でプレイヤーという言葉は相応しい。

 

 体育館にいる彼らはプレイヤーという呼称を受け入れているらしい。俺たちを興味津々に見ている。

 ん?……もしかして、いつの間にか俺たちも地球防衛隊の頭数に入ってる?

 

「プレイヤーの皆さんに集まってもらったのは、顔合わせと、手合わせのためです」

「……手合わせ?」

「仲間がどんな戦い方をするのか、どれだけ戦えるか、今後のために知っておいた方が良いでしょう」

 

 場所が体育館だった意味が分かった。

 アマテラスを振り返ると「妾の結界の中ゆえ多少暴れても構わんぞ」としたり顔である。戦うなんて聞いてねーよ。

 だが俺たち以外は聞いていたらしく、動揺はない。

 

 体育館に元からいたプレイヤーの一人が進み出て、戸惑っている心菜の前に出た。

 爽やかな体育会系の青年だ。

 動きやすいシャツとジーパンで、準備万端のようである。

 

「俺は城山しろやまと言います。あなたはお台場で戦っていた方ですね!」

「え、ええ」

 

 心菜は、城山の前のめりの姿勢に一歩引いている。

 

「LV.112って今のところ俺たちの中で一番強いんじゃないですか。俺でもLv.108ですよ」

「はあ」

 

 俺はこっそり城山を鑑定した。

 

『城山大地 Lv.108 種族: 人間 クラス: 魔法剣士』

 

 本人の言う通り、他のプレイヤーはほとんど「Lv.90」以下だった。どうやら「Lv.100」以上の者はそう多くないらしい。

 

「手合わせお願いします……あいつと!」

 

 城山は横を向いて、なぜか俺を指差した。

 

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