81 エルフ8
《赤の森》
紅葉もみじが咲き乱れる幻想的な森。厳密には、違う品種だが、一年中、赤い葉をつけるこの木の葉は、地球で見たそれと、良く似ていた。
狂うような美しい紅。
言葉が出ない。息を飲むような、群生地は心を穿つような大迫力だった!
この周辺に、緑の葉をつける普通の木は、無い。まるで異世界に来たかのような。いや、来てたんだったか。
神秘の森。
虫除けが無ければ、死の森に変わる。
下に落ちても紅葉の葉は、枯れる事もなく赤い。
ポゥポゥポゥポゥ
プヮプヮプヮプヮ
森の奥へ、立ち入ると、何か分からないが、間が抜けた鳴き声が響くように聞こえた。
「あれは、何の鳴き声なんだ?」
「ダスト様、分かっておりません。」
地面は、無数の穴が空いていて、透明度の高い水が所々張った湿地帯のような場所だ。
清流も流れている。
空気は、澄んでおり、魔力のようなみなぎるチカラを感じる大森林。ここが、赤の森。幻想的な場所だった。
「ダスト様、この先です。」
パシャリ、パシャリ
森守達の案内の後ろを付いていくと、水面から魚が、跳ねる音が聞こえた。
どうやら近いようだ。
白い湖が、見えた。牛乳風呂みたいな、白のイカれた光景。
周りを囲む紅い木より落葉した紅い葉が、湖底に沈んでいくが、透明度が低いためか、すぐに見えなくなる。
水面から魚が、跳ねる音が聞こえるが、跳ねた魚は見えない。
間違いない。ここに透明空魚がいる。
この見えない魚の生態は知られていないから、釣りあげるためには、何を食べているのかを探る必要がある。
水面を跳ねる音がするのは何故か?
水中には棲んでいないと思われる。
水を飲んでいる?
それとも、ただ遊んでいるのか?
白い湖の中程に、白いポムの女王樹があった。
白く太い幹と枝だけの木だが、存在感があり枯れているようには見えない。
「黄色のボールが浮いてるっす。」
「あれは、ポムの実ですわん。」
パシャパシャと波打つ場所に、何かが浮かんでいるようだ。
しかし、よく見えるな。これが獣人との身体能力の差だろうか。
「中央の樹が、ポムの女王樹だろ?葉も実も付けてないように見えるが?」
「ダスト様、ポムの実は湖底にあると思われていて、色は決まっておらず、ボールのように跳ねます。割ると中には小さな美味しい実が入ってます。」
「本当に、変わった樹だな。もう少し情報が欲しい。小舟は無いのか。」
「昔はあったのですが、バブルスライムが溶かしてしまうので。」
勢いだけで来てしまったが、手詰まり感が凄い。まぁ、地道に基本的な調査から行おうか。
アイテムバッグから、次々と食品を出して地面に並べていく。
「師匠、何してるんですにゃ?」
「クリアフィッシュが何を食べるかを調査するための餌だ。少し離れて食いつくのを待つ。後は、湖の観察。何か分かったら、教えてれ。皆、絶対に釣り上げるぞ!」
「「おー!」」
・・・・・。
なんてやったのが、2時間前だ。
白い湖面は相変わらずパシャパシャ音を立てているが、各種置いた餌には何の反応も無い。
というか、見えないモンスターをどうやって観察しろっていうんだ。どう考えても無理ゲーだろ。
「リリイ、透明化を見破る呪文は?」
「透明化という単語自体、お前様から初めて聞いたわい。無論、ある訳が無いのじゃ。」
「そっか・・。」
ポゥポゥポゥポゥ
プヮプヮプヮプヮ
猫娘ピンクは既に寝ている。
暇だ。
集中力は切れて、心はここに非ず。
コイシちゃんの膝枕で、気持ちよく眠ってしまいそうだ。
何しに来たんだっけ?
ぐぅ〜。
「腹も鳴ったので昼にしようか。コイシちゃん、食べさせておくれ。」
「昼飯は賛成なのじゃ。」
そんな気が緩んだ間隙に、モンスターが現れた。唯一、きちんと仕事をしていた気が長い女、コイシが声を出す。
「あー。餌にお客さんだよ。」
!!
寝ているピンク以外の集中力が全開に高まり、餌を凝視する。
ゲエエエ。
しかしながら、招かれざる客。
死喰鳥だった。黒く丸々と太った鳥は、トテトテ歩き、餌の上にバブルスライムを吐いて、去って行った。
バブルスライムが増殖し、全ての食品を消化していく。
「クソがっ!やってられん。飯だ、飯にしよう。」
皆で、ヤケ食いをした。
お腹いっぱいになれば、この気持ちも変わるだろう。
気持ちが変わったダストは、昼寝してもう帰ろうと心に誓いだす。
そんな時だった。
「「あの…御主人様っ。」」
「え?サラにポニー、どうしたの?果実足りなかった?」
「「いえ…ポムの実の味が、気になって。」」
「あ、いや、でもなぁ。池を泳ぐのは危険だから。」
恥ずかしそうに言うクール系双子は可愛いが、果実以外には興味をまるで示さない。
俺も気になってるけど、この正体不明の白い池を泳ぐのは怖すぎる。どんな水棲モンスターがいるか分からないし、虫除けが落ちて泳いでいる途中でチクチクに襲われたら、死ぬ。
「「水には入りませんので、取りに行って良いですか?」」
「それが、出来るんなら良いぞ。」
「「はい。」」
許可を出したら双子が、嬉しそうに笑い合い、思わぬ奇行に出た。
ボーゼンと見送るダスト。
釣り大会延期のお知らせ
死喰鳥来襲の為、
82話へと延期になります。




