79 森守
赤の森の特産品を全て独占している、森守の偏屈な爺さんに交渉に行く。
「透明空魚の捕り方を教えろじゃと?」
「いや、活きた状態の物が何匹か欲しいだけだ。生体の買取でも構わない。」
「取り敢えず付いて来い。」
独占しているのなら、さぞや儲かってるのかと思ったら、赤の森の品は、劣化が速くて流通に適さず、販売先がメルカーナの貧乏村だけになるため暮らしぶりは微妙なようだ。
嫌な目付きで女達を見た後、村から離れた一軒家へと案内された。
「貴様。条件がある、誰でもいいから、息子の嫁に1人寄こせ。そうすれば全てを教えよう。」
おおっと、この爺は嫌われて当然だな。
著しく不愉快だし渡すつもりは微塵も無いが、怒り狂って帰るだけの能無しなら、この異世界には立っていない。
「断る。彼女達は道具では無い。が、場合によれば助けてやれる可能性があるので息子と話をしてやってもいい。」
「何だと?貴様。」
「勘違いするな、既に一匹捕まえた。こちらは、少しだけ労力を惜しもうと来ただけに過ぎない。そちらの要求は、全く吊り合ってないんだよ。」
「うっ。」
「そもそも彼女達に吊り合う物など、この世には無い。これ以上、俺を怒らすな。会って欲しいなら、さっさと案内しろ。」
「こっちだ。頼む、息子を。」
急に、存在が小さくなった老人の後を付いていく。元々、悪人な訳ではないのかもしれない。ただ、好感度はストップ安なので、交渉打ち切りはありうる。
案内された先には、犬をあやしている捻くれた目付きの青年がいた。
親がいては話にすらならないから老人を追い払う。
「話を聞くから、あっちに行ってくれないか?」
「何故だ。」
もう流石に面倒くさくなって帰ろうとしたら、慌てて老人は退出した。
捻くれた目付きの青年との交渉が開始される。
「何で俺が来たか分かるか?」
「女を差し出すのか?そうだな、あーその背が高いのはパスだ。ちんちくりんも駄目だ。そのピンクの髪で良いぞ。すげー可愛いな。おっぱいも大きいし。」
選ばれたのは、ピンクでした。1番、嫌そうな顔してるな。
森守の息子が、偏屈爺より、酷かったのは予想外だったが、交渉は決裂した。
バウ!
クソみたいな青年を、犬が噛んだ。
「痛っ、何するんだ。ペス。」
「なぜお前なんかが選べると思ったのか甚だ疑問だが、誰一人、お前なんかに、やる訳無いだろ。」
俺が呆れて言い放つと、ペスがペロペロと青年の噛んだ部分を舐めはじめた。
くぅーん。
捻くれクソ野郎との交渉は決裂したので帰ろうかと思っていたのだが、彼の愛犬ペスの献身を見て、少しだけ考えが変わった。
混沌神の寵愛を受けているため、悪戯心がざわめくのだ。
「ペスよ。」
「何で俺の犬と話を、」
「お前はっもう黙れ!!交渉は既に決裂しているから一言も話す権利は無い。いいか!」
ダストは怒っていた。
彼女達を貶められて、激情していた。
気付いたら、相手の襟元を掴んで激昂していた。青年の方が明らかに身体能力が優れているのに、怯えたように頷く。
喧嘩なんて、こんなものかもしれない。
このクソ野郎は、チャンスを逃した。しかし、意外にも彼の愛犬はチャンスを咥えた。
ダストは、犬と、真剣に対峙する。
「ペスよ、俺は奇蹟を起こせる男。しかし、今のままで充分に幸せでは無いのか?それ以上のステージへ進みたいと望むのか?」
ばう。
「こいつは、魅力の無いクソ野郎だ、それでも良いのか。」
ゔーっ。ばう。
「良いだろう。貴様の盲目的な献身に免じて、ただ一度限りの奇蹟を与える。」
黒竜の手袋を、すっと脱ぐ。
彼の名は、ダスト!
「願え!
汝の領分を超える禁忌の願いを
自分の在り方を否定し
醜い程の盲目的な愛を持ち
想い人の似姿へと変われ
けして同じには成れぬ苦しみを
その胸に抱きながら
純粋なる献身と2人の愛で
小さな溝を埋めるがいい
現実を書き換え、獣人となれ!」
無関係な犬と、その犬が愛する捻くれたクソ野郎の為に、右手が光る。
異能発動ーーーー
『絶対美少女化!!』
進化前:残念な飼い主の犬
↓
やや成功
↓
名前:ペス
種族:獣人『犬族』(美少女)
特徴:捻くれた青年が好きな少女。
装備:粗末な服[N]
美少女が異世界に1人増えた。
以下、略。
ダストは、ひと仕事終えて、手袋をはめる。
「ハーミット、ペスだよ。」
「え?ペス?」
犬娘は興奮して青年に抱きつき、顔をペロペロ舐め出した。
「今日の事は他言無用だ。話せば掛けた魔法が解けてしまう。」
ダストは嘘を吐いた。
ただし犬が獣人になった等とバレれば幸せな生活は出来なくなるので間違いでは無いが。
事態が収集するには今少し時間がかかるだろう。
帰り際、老人に、言い放つ。
「約束は果たした。明日、料金を徴収にくる。知ってる事を整理しておけ。」
今日は疲れた。
帰ってコイシちゃんに癒して貰おう。




