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75 エルフ5


 たっぷりと、虫除け薬を塗り、赤の森の浅い部分に挑む。


 赤の森は、実に広大だ。


 そして、殺戮者チクチクの棲む森。

 詳細は謎に包まれている。


 白い太い幹に、真っ赤な紅葉の葉をつけたメルルの大樹が現れた。

 これこそが、赤の森の由縁。


 深層に行けば、この紅い木が群生しており、狂ったような美しさを讃えていると聞く。


「綺麗だな。」

「綺麗だにゃー。」

「ほぅ、これはなかなか。良い物じゃ。」


 今朝は、森守には会えなかったため、様子見で浅い場所を散策する。


 というのも赤の森は、理由は分からないが、あまり冒険者に人気の無いスポットなので情報が無い。


 この辺りはまだ普通の森の様相を見せていて、紅い樹が一本あった他は、変わった物は無い。


「ピンク、期待しているぞ。」


「はいですにゃ。獣人の優れた身体能力を存分に活かしますですにゃ。」


「頼もしい。」


 この安易な発言により、ピンクを暗黒面に引きずり込んだのは俺の責任かもしれない。



 やる気に満ちた猫娘ピンクが、スンスンと鼻をひくひくさせ手で止まるような合図をしたかと思うと、ぐぐっと身を屈めて目を光らせた。


「うっにゃーーーっ!」


 突然、溜めた力を開放するかのように走り出し、高く飛び上がったかと思うと何も無い空中を斬りつけた。

 が、やはりそこには何もない。

 しゅたっと着地する。

 あまりの跳躍力に驚くが、手応えは何も無かったのか鈎手を見ながら呟いた。


「逃したですかにゃ。」


 こ、これは、ウチの猫が病気にかかってしまったらしい。

 誰もが一度はかかる病。

 中二病だ。

 リリイを見たら優しい目をして見守っていた。


「うむ、惜しかったな。あと、3センチといった所か。」


 それ中二病だよなんて言わないし、言ってる意味が分からないが取り敢えず残念な猫娘を褒めて乗っかる。

 そっかぁ、その属性を狙うんだと。

 褒めて伸ばす、例え残念な方にニョキニョキ伸びても、『美少女ならば、多少の欠点は、全て好意的な個性となる』からだ。

 それが、この世の残酷な真実。


「オーナーの言うとおり、長いのにしとけば良かったですかにゃ。」


「そんな事は無いぞ。長い鉤爪は振りぬくのが遅くなるから、現状では結果は変わらなかっただろう。」


 しかしながらピンクの作った流れは良い流れではないか?

 冒険に必要なのはワクワク感だ。

 ならば安易に流れに乗るべきだろう、丘サーファーのように。


 勿体つけて手袋を脱ぎ、ギラリと目を光らせる。


「どうしたんですにゃ?」


「しっ。」


 黙るように指示すると、リリイは呆れ顔だが、猫娘がゴクリと息を飲む。

 良いぞ、なんか凄い事やってる感の演出が出来たから、後は同じ流れだ。


 何もない場所になにかあるが如く駆けつけて、右手を全力で叩きつけるように伸ばす!


「うぉらあっ!」


 予定どおり、右手は光らないし手応えは何もないが、これは中二病ごっこであり、俺は仲間を1人だけ暗黒面には堕とさない。


「くそっ、逃したか。」


 そして、悲しげな顔。どうだ!

 ピンクゥ、心配するな、暗黒面には俺も堕ちてやるよとチラリと見たら、まさかの駄目出し。


「オーナー、そこには、気配無かったですけどにゃ?」


 ふぁ?そんな事、言っちゃうの。

 ピンクゥ!援護に来た味方を撃つとか、有り得ないよ、有り得ない。

 え?お前の中では選ばれた者は独りだけの設定で嫉妬したの!?


「ぶふっ。」


 リリイが堪らず吹き出す。

 おいおいおい、ねーよ、これは、ねーよ。


「失望させるな、獣人は感覚が優れているが、五感に頼りきっているようでは、まだ駄目だな。」


「オーナー、ピンクが間違ってたですにゃ。」


 悔し紛れに言ったら、まさかの改心パターンへと移行した!?


 どういう事なのかと猫耳をへにょんとさせ頭を垂れるピンクを見ながら考える。もしや、そうだ。

 俺が本気で中二病ごっこに乗っかるかどうか試したんだな、クオリティの低いヤツは参加する資格が無いと。


「いや、若い頃は良くやるミスだから、気にするな。」


「ありがとうですにゃ。」


 リリイがドン引きした顔で見てくるが、今から仲間に入ってもいいんだぞ、ピンクの謎審査を合格する必要はあるが。

 こういうのは、楽しんだもの勝ちなんだけど。


「うっにゃーーーっ!」

「うぉらあっ!」

「にゃーーっ」


 森に、無意味な掛け声が響き渡る。


「惜しかったですにゃ!これは!?オーナー、見てくださいですにゃ。」


 ピンクが、凝視していた鉤爪をブンと振ってきた。

 うおっ危ねえ。なになに、魚の鱗が1枚ついてるが昨夜の晩飯の残りか。


 飽きさせないよう優秀なピンクがネタを盛ってきたけど、近くに川は見当たらず、さすがに雑すぎて返事に困る。


「・・近いな。」


「ですにゃ。」


 困った俺のさらに苦し紛れな台詞に、中二病ピンクが、真剣な顔で頷く。


「ぶふぉあ。」


 リリイ、サラ、ポニー、アウト!

 俺だって笑いてえよ。

 後で3人にはケツバットのお仕置きをしないと。


 ハクレンが笑わないのは、会話も聞かずこっそり隠れながら、幸せそうにおやつのニンジンを齧ってるからだ。



「うっにゃーーーっ!」

「うぉらあっ!」

「にゃーーっ」


 はあはあ、さすがに疲れてきたが、ストレスは発散出来たので素直に感謝したい。

 そろそろ締めるか、あまりダラダラと同じネタを引っ張るのはいけないからな。


「日が暮れてきたな、恐らくは、このまま同じ事をやっても無意味だろう。」


「ですにゃ。」


「しかし、俺は今一度、足掻く。それで通用しなければ次の手へとシフトすべきだ。」


「仕方ないですにゃ。」


 うん、良いね。

 実に、綺麗な幕引きではないだろうか。


 後は、演技力が問われている。


 我に、秘策有り。

 先程、夕食に出ていた魚の死骸を森の中で見つけたからだ。

 この現象は珍しい事では無く、鳥が運搬中に落とした物だと思われる。

 川が近くにあるのだろう。


 目は虚ろでスライムに食われかけていた魚の死骸から、透明な鱗を3枚採取したので、仕込みはバッチリ。

 逃げられたか、と言って鱗を3枚見せればエンディングだ。

 リリイには見られてしまったが、ピンクにチクったりしないから大丈夫だろう。


 師匠ロールをしているので鱗ネタに乗っかりつつ、少しだけ上を行くとこうなる。


「ハァァァァ!」


 気合いを溜める演技、リリイは慈愛の微笑み、ピンクは息を飲む。


 駆け出す。


「隠れても無駄な事、俺の右手からは逃げられない。今日、逃げたとしても、無意味だ。俺は猟犬のように死神のように必ずや追い詰める。俺の女になりやがれぇぇぇ。」


 全身の力を持って右手を何も存在しない空間へと叩きつける。

 ピンクとともに、暗黒面に墜ちる覚悟が俺にはある!


 しかしながらピンクの謎審査を合格するには、これだけでは弱く最後のひと押しの意外性がいる。

 納得するため、何か掴みかけたかのようなトリッキーな動きがいる。


 伸ばす手をぐるっと真後ろへと廻して、何も無い空間を掴む、完璧だろ!


「光りやがれぇぇ!」



 俺の魂に呼応するかのように、右手が光りだす。


「は?」


 右手が本当に光った。

 そして、魚に触ったような感触。


 きもっ!

 ゾワリと、背筋に嫌な汗が流れる。


 明らかに、この空間には、何も無かったはずなのに、どうなってるんだ!?



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