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62 帰還


「オーナー、どういう事か説明してもらいましょうかにゃ?料理長マゼンタまで手を出すにゃんて。抱き枕担当の秘書官は私だったはず。浮気?」


 ダストは、Fカップの爆乳を持つ猫娘バイオレットに、お説教されて正座になっていた。


「待て、抱きつかれただけだ。俺は悪くない。チュチュを」


「チュチュって誰の事にゃ?」


 さらに、ご機嫌が悪くなったようなので、無理やり話題を変えるダスト。というか、このどうしようもない男は、先程のパンドラの箱の中身が気になっているもよう。


「それよりも、バイオレット。聞きたいのだが、擬人化前は、全員雌猫でいいんだよな?な?」


「え…何を言ってるの。記憶が無いけど、私は、12匹の超集合体だから、その確率は、限りなく低いのにゃけど。」


 ドン引きするバイオレットに、ダストは熱く反論する。男は、いつだってロマンを求めるべきだと、本人は思っているようだが、その実態は、童貞を拗らせているだけ。


「いや、そんな事は無い。計算してみても、12の2乗は144。つまり確率は0.7%。悪くない、SSRのピックアップキャンペーンなら、現実的に優しい数字だ。」


「はぁ…何を言ってるのか意味が分かんないけど、残念だということだけは分かるにゃ。頭が痛くなってきた。オーナーは、やはり私が直してさしあげないと駄目なのかにゃ。仮に、男が混ざっていたら、男心が分かるかもにゃ?そういうのは、良くない?」


 !?


「・・そんなメリットが。でも。」


 ダストの気持ちは揺れているが、冷静になって欲しい。混ざっていてもオス猫なので、分かるのは、せいぜい猫の気持ちである。うにゃー。


「オーナーは、きっと疲れてるのにゃ。そうだ。いつも通り癒やしてあげるから、ほら、おいで。おいで。」


 手を広げて、胸元を広げる。


 それは、たゆゆんと、揺れる天国への誘い。でっ、でっけぇ。


「すぐにでも飛び込みたいっ。だが、俺は汚れてしまったから、天国には、行けないんだぁぁぁ。」


 いらぬ気遣いをした童貞野郎ダストは、ともに汚れて、お風呂に一緒に入るラブラブ分岐ルートを選べなかった。  

 涙ながら風呂場へと走りさる男を、残念そうに、おっぱいは見つめる。


 特に進展も、準備もせぬまま、いつもどおりに一日が終わった。


 男は、旅の準備などすぐに済む。コイシちゃんは、さらにその上を行く。食べ物すら不要な彼女は、本当に何もいらない。

 ハクレンは、人参を厳選して、アイテムバックに詰めていた。そして念のため、残った人参もアイテムバックに入れる。なぜ厳選したのかは彼女にしか分からない。

 猫娘ピンクは、コイシに借りたアイテムバックに、ああでもないこうでもないと、厳選アイテムを詰めており、かなり大変そうであった。



 空は、晴天。

 日本と違い、乾いた風が心地良い。


 強い陽射しにハクレンは目を細めた。



 エルフを探す旅が始まった。


 さて、メンバーを紹介しよう。おなじみの豚野郎ダスト、劣化しない女コイシ、最速の乙女ハクレン。

 今回は、そこへ新メンバー、悪戯猫娘ピンクを加える。


 ハクレンが移動できぬコイシを背負い、3人は、てくてくと、歩きだした。


「にゃふふ。ところで、オーナー、何処へ向かってるんですにゃ?そろそろ目的地を教えて欲しいですにゃ。ちなみに、ピンクの前世は、全て雌猫ちゃんですにゃ。」


「そんなの俺が知りたいくらいだ。グーグル先生のいないこの世界はハードモードすぎる。その前の時代の情報ツール、広辞苑や大技林でも良かったんだが、本が貴族の嗜好品で、図書館すらないとか、どうなってんだ。」


「にゃ?」


 雌猫は、無計画ぶりに驚いて目を開くが、古参メンバーは動じない。


「御主人様は、いつもこんな感じっす。」


「大丈夫だよ。運命には、引き寄せる力があるから、ゴールにいずれ辿りつける。何百年かかっても私は大丈夫だよ。」


「にゃにゃ?のっけから雲行きが怪しいにゃ。だいたい、そのグーグル先生って何なのですにゃ。」


「こんな快晴なのに、何を言ってるんだ。グーグル先生は、24時間、どんな問いにも嫌な顔をせず、無償で即答してくれる先生だ。先生亡き今、頼れるのは、お婆ちゃんの知恵袋、リリィアーハイム先生。そう、原点回帰。第1目的地は、始まりの村だ。」


「神先生ですにゃ。始まりの村?にゃ?」


 猫娘ピンクは首を傾げる。そんな名前の村なんて地図に載っていないからだ。

 ちなみに、ダストが、勝手にそう呼んでるだけなので、知らなくて当然である。



 うー、わう、わう。

 狼のような獣の声が、聞こえる建物に入る。


「らっしゃい。ケルベロス運送へようこそ。ご予定は?」


「4人の片道2日で。」


 片道料金は、半額ではなく7割ぐらいかかる。料金の安い乗り合い馬車もあるが、果実チートで懐は暖かいので、自由の利くこちらを選んだ。


 ケルベロスとはいうが、魔狼という犬をゴブリン化させた犬ぞりみたいな馬車で、乗り心地はあまり良くないらしい。

 この醜悪な顔をした魔狼は、魔素を食っており、飯もほぼ食わないので、当然のように排泄物もなく臭いも少なくなり、非道だとういう1点を除けば、かなり画期的な発明といえる。


「またのご利用を。」


 ガララッ!

 店主に見送られながら、車輪が砂埃を上げて、進みだす。


「誰かに乗る日が来るなんて、夢にも思わなかったっす。」


「そうか。御者、任せたぞ。」


 まぁ、1時間ぐらいは、良かった。


「遅いっすね。」


「そうだな、それにケツが痛い。」


 もちろんダストが走るよりは、早いのだが、ハクレンが異次元すぎる。

 このままのペースだと、最初の予想どおり、何処かで一泊となりそうだ。



誤字修正ありがとうございました。

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