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60 ネズミ


 ふわりふわりと、資格ある者しか通れない魔導エレベーターを降下し、VIPルームから厨房へ、帰宅前に、従業員の猫娘達に一声かけるべく移動する。


 その時、ダストは、モヤモヤとした黒い感情が渦巻いていた。彼は、気付いていなかったが、ハクレンを喜ばせたのが自分でなかったのが、悔しかったのだ。

 言葉で表すなら、その醜い感情は、『嫉妬』。


 後に、邂逅する、知らず、負の感情に囚われていたから、あのような悲劇が起こってしまったのだと。



 頑張ってるキャスト達に、軽く挨拶し、厨房へと入る。赤毛の猫娘の指揮下の元、バイトの女性達が奮闘していた。


「2番焼き上げまで後25秒だにゃ、18〜21番の下準備を初めて。あれ?オーナー!悪いけど、副料理長、しばらく指揮を任せるにゃ。」


「はい、料理長。分かりしました。」


 エプロンで、手を拭きながら、赤毛の猫娘マゼンタが、とてとてと、近付いてくる。

 厨房は、煩いので、発注伝票を管理している部屋に移動。まぁ、ここは狭い部屋なので、2人きりになる。


「お待たせ、もう上がりかにゃ?」


「おぅよ。仕事、お疲れ様。カクテルに料理となかなか美味かった。セルゲイの婆さんも喜んでたし。あと、上から見ていたが、接客もいつも通り、素晴らしかったぞ。」


「当然にゃ。」


 嬉しそうに、照れるのは、猫娘マゼンタ。彼女には、料理とか裏方の総指揮を任せている。

 ふと、床にある見慣れない物が目についた。


 チュチュウ。


「何だ、これ?ネズミ捕り器か。うわっまだ食ってやがる。太り過ぎだろ、コイツ。」


「そうにゃ、今日、鉄壁の防衛網をくぐり抜け、私達の城へと、侵入してきたにゃ。あっという間に、ジュースの絞りカスを平らげて、こんな丸々と。」


 丸々と太った白いネズミが、ゲージに捕獲されながらも、まだ卑しくガジガジとゴミを食い荒らしていた。


「やられたのは、ゴミだけか?」


「そうにゃ、ゴミまでは、警戒出来ないので、そこを突かれたにゃ。」


「そうか、なら、問題無いな。」


「んんん。問題大有りにゃー。このクソネズミには、閉店後、天誅を食らわせてやる。猫の血が騒ぐにゃ。」


 いつもなら、「存分に、殺るが良い。」という所なんだが、この日は、ちょっと違った。

 黒い感情、嫉妬に囚われていたダストは、自分の方が役に立てるという訳の分からない偽物の使命感で自分の気持ちを偽っていたんだと思う。


 だから、妙な言動に出た。

 出てしまった。


「まぁ、待て。命を粗末にするでない。このネズミにも理由があるかもしれない。話し合えば、きっと分かり合えるはずだ。」


「でも、ネズミなんかと話なんて出来ないにゃよ?」


 すっと、黒竜の手袋を脱ぐ。


「確かに普通なら無理だが、俺には、それが、可能だ。」


「おぉっ!それは、まさしく封印されし右手。久しぶりに、ベールを脱ぐんだ。すげぇ格好いいにゃ、オーナー。」


 ゲージを開いてもらい、その中に、手を入れる。こちらを無視してガツガツと未だ卑しく貪る白ネズミに、奇蹟を。


「汝、賤しきネズミよ。美少女となりて、今までの行いを懺悔し、新たなる生を歩み始めるが良い。俺の女になりやがれぇぇぇ。」


「ヂュヂュウ。」



 ピカッ!


 食事に夢中な白いネズミを強く握りしめると、丸々と太ったネズミがバタつくように暴れ、右手が光る。



 異能発動ーーーー


 『絶対美少女化(ハーレム)!!』



進化前:卑しい白ネズミ

成功?

名前:チュチュ

種族:獣人『ネズミ族』(美少女)

外観:丸い耳。小動物系の愛らしい女子。

装備:裸→貧民の服[N]

敵性:邪悪

特能:多産

呪い:子供のほとんどは劣性遺伝子により獣人界最弱の能力値の鼠男で生まれる。稀に生まれる女性は、先祖返りで美少女になる事がある。



 ドガシャ!と、捕獲ゲージが、破裂して、吹き飛び、壁や天井に突き刺さる。


 異世界に美少女が生まれた。


 人と違うのは、丸い耳くらいか。小動物系のふわふわとした小柄な愛らしい女子。粗末な貧民の服も、まるでシンデレラのようなヒロイン感がある。ただし、どことなく説明しがたいのだが、不穏な印象を受ける女子。


 やはり、完璧な異能だ。

 食い過ぎて、ぽっこりと、お腹が出ているなんて事は無い。無いのだが…


 食い過ぎでは、あったらしい。


「ぶおぇぇぇ。」


 美少女は、もんじゃ焼きを作った。

 出会い頭に手料理を提供する美少女、すまない。美少女であるから、そのように幻視したが、やはりゲロである。


「うわっ、汚ぇ。」


「にゃぁああ。」


 ネズミーランドとかあるけども、やはり害獣とは、分かり合えないのかも、しれない。いや、これはデトックスだ、変わる可能性を諦めるな。


「うぉえっぷ。綺麗すぎる気分悪い床だったかラ、やっと汚れて落ち着くナ。清水に魚は棲めない、適度に汚れてなキャ。分かるダロ?」


「駄目だ、全然分からない。」


 しかも、美少女だから、手に負えない。こんな性格なら、光速で産廃に劣化しそうな感はあるが、現在は、美少女である。


「お礼に、一発やるカ?子種袋のおっさん。遠慮なんていらないから、ほら、誰とでも寝る聖女が目の前にいるヨ。ヌイてやるヨ。ほら、その臭ーい、子種袋をさっさと吐き出して、興奮させナ。臭い方がイイナ。」


 口元のゲロを、粗末な服の裾で、拭きながら発情した目で、手をわきわきさせながら、迫ってくる。



「もぅ、いい。黙れっ。」


 キレちまったぜ。必殺技『そげぶ』

 それは、前の世界の憧れのヒーローの技。


 ダストは、右手を握りしめた。


 力を込めて振りかぶる。ぐっと、溜めろ、張り詰めた弓のごとく、確実に一撃で葬り去るために。


「ボトラー時代なら分かり合えたかもしれない。毎日、毎日、冷えた飯を食って、でも、それしか生きる手段が無くて、太陽から逃げるよう生きて、世界が眩しくて、まして、そんな世界で楽しく生きてる奴らが眩しくて、世界が憎いんだろ。憎くて、生きにくくて堪らないんだろ。分かるぜ、10年間、そうだった俺には。だからこそ、言うぞ。よく聞け、この馬鹿野郎がっ!なら、変えろよっ!世界を憎むんじゃなくて、お前が変わるんだっ!

今のままじゃ、他人が変わる事なんて無いし、世界が変わる事なんてあり得ない。実に、簡単な話だ、自分を変えられないやつは、誰かに押し付けられた、くそったれな役割をやらせれ続けるのだから。

もういいんだ。律儀に、損な役割を演じ続ける必要なんて、全然無いんだ。だから、損な役回りを捨てて、裸足で走り出せ。重い開かずの扉を蹴破って、一歩、踏み出せ、その時に気付くだろう、世界はこんなにも自由だったと。

ゲロ女、自分の事を聖女と言ったな、それは性女の自虐ネタだってのは、もう気付いてるんだろ。卑下するな、前を向け、これから現れるお前の敵は、俺が全部ぶちのめす。お願いだから、お願いだから、もう、そんな惨めな役割を演じるなっ。


この世界が、ゲロ女にとって逃げ場の無い牢獄だっていうんなら、


まずは、そのゲロ女をぶち殺す!!


だから……だからさ、生まれ変わっちまえよ!普通の美少女チュチュになっていいんだ。既に、奇蹟は成った。俺は信じてるぜ。あとは、チュチュ。お前、次第だ!!」


 溜め込んだチカラを開放する。


 振り抜いた拳は、吸い込まれるように、顔面を的確に捉える。それは、元ゴミ野郎から、ゲロ女への熱い愛の一撃。



 頼む、目を覚ましてくれ、脳天を揺るがすように、根底を変えろ!変えてくれ!


 ゴミのように昏倒するネズミ。


美少女の無敵タイムを消費し、現実を書き換えた。

名前:チュチュ

敵性:邪悪→敵性反応消失


「マゼンタ。もし、起きてチュチュが働きたいって言ったら、雇ってやれ。」


 ガチャリと、小袋を投げつける。


「これは、何なのかにゃ?」


「給金の前払いだ、歩き始めて、世界に認められたという証明かな?切羽詰まってるヤツには、言葉なんかより、金の方が、嬉しいだろ。あっ、いやチュチュの子供が将来店にくると思うから、その先行投資だ。」


 慌てて誤魔化すが、ぷるぷると震えたマゼンタが、感極まって抱き着いていきた。


「オーナー、すげぇ格好いいにゃ!」


 美少女猫娘が抱き着いてきたのはいいのだが、

 どうも、汚されてしまったようだ。


 汚れたエプロンを擦りつけてくるマゼンタの頭を、ぽんぽんと、撫でた。


「分かったから、離れろ。」


「嫌だにゃー。」



 チュチュが、顔面崩壊した?おいおい、俺の異能はそんなヤワじゃねぇぜ。

 また、今度店に来たときは、うちの新たな看板娘を紹介するよ。



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