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57 D


 ぺたぺたと、お顔を触れば元の姿に戻れるんだが、それも明日の話か。

 さすがに、この異能にもクールタイムはあるらしい。


 太め女子は、今トレンドですか?そんな訳で、腹ごなしを兼ねて、街をぶらつく。

 なんのイベントも無いのに、屋台が出てるのが、かなりポイントが高い。


 しかし、これだけ太ってしまうとダストちゃんの面影は無い。


 (ディー)と名乗ろうか、短い間だが、そうしよう。ダストちゃんとデブの頭文字を合わせて、ディーだ。



 何に、しようか?雑魚ラビットの貧民スープは、パスだな。キングベアの串焼きは少し重いか、ブルースライムゼリー、美味そうだ。デリシャスワームの輪切り焼き、少し違うか。

 夕食前だし、ヘルシーに行こうかな。


「火炎鶏の灼熱団子3個ください。」


「おうよ、大っきいお嬢さん。1個おまけしてやろう。」


「ありがとう、親父。」


 ぱぁぁ。と笑う、D。


 屋台の親父も粋な事をしてくれる。なんともデブましい光景だ。


 えっ?そんなに食うのとか思った人もいるだろうが、ちゃんと痩せ理論はある。やはり、筋肉をつけて痩せるのが、いいだろう。そのためには、タンパク質を摂り、さらに内部から燃焼する灼熱要素も入れていてスキが無い。


 Dは、おデブ理論を納めていた。

 痩せないための悪魔の計算式。


 かなり大きな肉団子を受け取る。拳大のそれは、一口ではいけないくらい大きい。


 はふっ。


「美味ぇ。ダイレクトに、じゅっと、くる熱さ。詳しく言うなら、身体の中からガツンと燃える火炎鶏特有の旨さが全面に出てる。それでいて穏やかな後味が堪らない。」


「いやー大っきいお嬢さんは、美味そうに食うな。実際に美味いんだが、作りがいのある食べっぷりで気持ちいいぜ。」


 とても美味そうに食うので、見ていた客の喉がゴクリと鳴る。


「おい、ワシにも1個くれ。」

「私が先よ。」

「何だ?俺は朝から食いたかったんだ。3つ寄こせ。」

「何だと、なら昨日から食いたかった。4つだ。」


 異世界の連中は1列に並ぶという事を知らないようで、ぎゃあぎゃあと争いが起きる。


 見かねたDは、仕切りだす。


「お前ら、順番に1列に並びやがれ。そこ、そこ、そこと、早いもん順だ。あと、一人3個までだ。それ以上欲しければ2回並ぶんだな。」


 ちゃっかり4個ゲットしているDは、乱獲を許さない。この3個までというのが曲者で、並んでしまった連中はこんなに待ったのに、1個だけだと勿体ないのではという考えがチラつくため、この日は、爆発的な売上げとなった。


 灼熱団子のファンが、増えるといいな。食べられなくなる?大丈夫、そんときは、俺の嗅覚で、新たなヒーローを発掘すればいいだけだから。


 お口を、もぐもぐしながら歩いていると、ふと、項垂れている新米冒険者達を見つけた。クエストが上手く行かなかったんだろうか?どうにも景気が悪い顔をしている。


 豚野郎ダストの時は、スルーするんだが、今は、Dであり、女の子である。だから、イケメン予備軍に、少し興味があった。


「どうしたんだ?しけた顔してんな?」


「ハハハ。」

「あ…いや、今日のクエストが、上手く行かなくてね。」

「金は、あるから、心配はいらないよ。ただ、装備を整えるために、貯めているだけで。」


 力無く笑う戦士、痩せた魔術師見習い、ショボそうなレンジャー。Dは、若手の3人の中で、もっとも可愛い男の魔術師見習い君の肩を豪快に叩き、


「やるよ、少年。食って元気出しな。」


「えっ、でも、それを渡したら、お姉さん足りないんじゃ。」


 凄く心配した顔で見つめてくる。失礼だぞ、俺は、女の子なんだ。そんなに食える訳無いだろ。


「俺は、ダイエット中だから、良いんだよ。それよりも、しっかり食べて、酒場《乙女達の楽園》に、通えるぐらい稼げるように強くなりな。」


「あ、ありがとう。」


 尊敬の眼差しで見つめる者、恋してしまった残念な者、感謝する者。


 ニカッと笑う罪作りな女D。


 さてと、酒場に戻らないとな。いい事をした後は、足取りが軽い。


「親父、キングベアの串焼き一つ。」


 なに?失ったカロリーは、補充しないといけないだろ。しかし、暴力的な肉汁が美味いな。異世界にしかない味覚の要素がある気がする。


 ・・この豚少女は、お財布ぐらいしかダイエット出来ない気がする。



 酒場《乙女達の楽園》に帰還。


 今日は、VIPルームには行かず、下界で、ゴミ共と混ざって食うとしようか。


 ダストちゃんモードと違って、男共の飢えた視線が来ないのが楽だ。あれは、あれで癖になりそうなんだけど、なんか怖いし。


 それでも、いちおう、性別女子なので、奢ってくれる奇特な奴はいたりする。


「ねぇ、君。食べっぷりがいいね。」


「Dだ。ゴチになる。キャストがいる内は、高い料金だから、後の方がいいぞ。」


 俺は、さり気なく気使いのできる女だ。しかし、王子様風の細い青年は、なぜか、豚少女に絡んできた。可愛すぎる猫娘より、話しやすいからか?


「いいよ、いいよ。Dちゃん、どんどん食べて。僕はこう見えて、お金持ちだから。」


「あ、ありがとう。」


 違う、デブ専なのかもしれない。この青年、見た目は、悪くないのに、なんて残念なのだ。浅ましくエサをがっつく俺を、微笑ましい顔で見てくる。


「へぇ、カクテルもあるんだ。Dちゃん、なにか飲む?」


「俺を酔わせてどうする気だよ。カクテルは今日からだから、味は安定してないが、その内、美味いのが出るようになると思う。俺なんかに構ってないで、美人の猫娘を口説くんだな。」


「Dちゃんも美人でしょ。そのままで、いいよ。あっ、すいませーん。桃のカクテル2つで。」


 キュンときた。そして、デブ専が確定し、やべぇなコイツとも思う。ドキドキしてきた。


 おそらくは、昼の試食の余りだろう桃のカクテルが運ばれてきた。仕事が早いようで、何よりだ。


「へぇ、コレはなかなか美味しい。Dちゃんも、どうぞ。」


「そ、そうか。なら、遠慮なくゴチになる。あっ、美味いな。」


 そんな感じで夜はふける。


「また、会えるかな?」


「全ては、運命神の導きのままに。」


 せつなげな王子様風の青年に、Dは微笑んで、手を振る。



 良い感じで、お別れしたが、もう、しばらくDに戻る気は無い。贅肉とともに去りぬ。



感想で頂いたアイデア「デブのダストそのまま女体版」を採用させて頂きました。異能は、今のところ、完璧という設定ですので、確率の揺らぎは、見送っております。応援ありがとうございます。

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