52 猫娘ミドリ
いてもたっても、いられなくて、ダストちゃんは、風呂場から飛び出す。
ぷるぷると、犬のように体を振ると、珠のような肌の水気は弾かれ、さっと拭くだけで乾く。
ぶかぶかな、男物のシャツだけを羽織り、挿し木を試すため、中庭に突撃だ。
豚野郎のシャツは、大きいので、裾の短いワンピースのようになるだろう。パンツは、ぶかぶかで履けないが、見えないので、いらぬ。よしっ。
たたたっ。乾かない髪の毛をタオルで拭きながら走り出す。
しかし、にゃあ?と、狩猟者と遭遇。
「待つんだにゃ、オーナー。今は、女の子でしょ、そんな格好は認めないにゃ。」
「くっそー。離せよ、ミケ。」
偶然すれ違ったミケに、あっさり捕まった。猫娘は、捕獲能力が高いから逃げられない。
「そんな姿で誘って、ニャンニャンするつもりだにゃ?女の子は、恥じらいを持ってなきゃいけないにゃん。」
「ならば、女の子は過去の話だ。」
悪い顔したダストちゃんは、異能を行使する。今日は、異能の大安売りだぜ。
ピッカァ!
一部の人が大好き、男の娘ダスト君参上。
ふぅ…。
完璧かと思われた計画だが、少しだけ漏れもある。いつもなら服装がフィットするように変わるのだが、変わらなかった。
ぶかぶかシャツ1枚だけの華奢な男の娘。むしろ、胸が、つるペターンになったせいで、ゆるゆる感がアップし、乳首見えそうまである。
「ミケ、僕は男だから、大丈夫。やる事があるから離してくれ。」
「うにゃあ。」
ハスキーボイスで囁くと、ミケが恥ずかしそうにして開放してくれた。
しかし、ダスト君も、下半身が、す~す~して、羞恥心を感じているので、一度、着替えに戻る選択肢もあったのだが、
そこは、下半身に爆弾を隠し持つ女。
いや厳密には男なのだが、隠す気のない爆弾を抱えたエロテロリストは、任務を優先し、下着もはかず猫屋敷を飛び出し、中庭への突撃を選択した。
中庭を裸足で走るダスト君。といっても、植樹部分以外はゴムのような異世界産の謎素材で覆われているので、問題はない。
「リンゴ、今、復活させてあげるからね。」
挿し木をすべく、アイテムボックスから、林檎の枝を、取り出して、舗装が無い植樹用の地面に突き立てた。
ずんっ!
が、何も起きない。
異世界は、行動が成功ならアクションがあるので、すぐに成否が分かる、つまり失敗だ。
「つまり、木に継ぐパターンか。」
キリッとした顔でダスト君は誤魔化そうとしたが、バッチリ見られたようで。
「あの、オーナー何やってるんですか?」
声を掛けてきた猫娘は、農作業が大好きな緑髪の猫娘ミドリだ。今日も猫屋敷のガーデニングをしていたようだ。
髪の毛を後ろで雑に纏めた、ツナギを着た美少女。野暮ったい格好が、余計に可愛さを引き立てていた。
「えーと、ミドリ。ガーデニングご苦労さま。ところで、そんな事より、良い感じの若木は、無いか?あれば見せて欲しい。」
ダスト君は、説明を省いた。異世界の住人は、接ぎ木って言われても分からないだろう。そういう知識がなければ、おままごとに、見えるほどの奇行だから。
「えっ、若木ですか?うーん。あっ、世界樹の種が芽吹いたんです。こっちですよ。所で、何で、若木を?」
ミドリの後についていきながら、酒場の客からの猫娘への貢物の中に、ホントかウソか知らないが『世界樹の種?』があり、そういえば、数日前に「世界樹の種?を、中庭に植えていいですか?」と、聞かれた事を思い出す。
案内された先には、なんとこの短い期間で、生命力溢れる若木がなっていた。
生い茂る若葉、これが、もしや世界樹の葉なのか。
「おおっ、もう若木になっているのか!凄い生命力だな。」
「はい。ミドリが愛情一杯注いでいますので、ワールドたんも、すくすく育ってるんです。」
嬉しそうに、猫娘ミドリが微笑む。ふと、ツナギのポケットに剪定鋏を持っているのに、気付く。普通の紙を切るハサミより、肉厚の刃で、木もスパスパ切れる頼もしいヤツだ。
「ミドリ、ハサミを貸してくれ。」
「え?ワールドたんには剪定はまだ必要ないですよ。切るなら、葉っぱは、2枚までにしてください。」
ミドリは、ぷるぷると震えながら、剪定鋏を差出してきた。
ダスト君は、泣きそうな顔で、それを受け取り、流れるように凶刃は、襲いかかる。
「許せ。」
バツンッ!
剪定鋏で、幹を裁ち切り、丹精込めて育てたワールドたんの命を、一撃で、摘み取った。
「うっにゃぁぁあ!!ワールドたんが!お、お、オーナー酷いです。あんまりです。」
「泣くな、ミドリよ。まだ終わっていない。忘れたか?僕は奇蹟を起こす。」
「オ、オーナー?」
「見よ、この林檎の枝を。これは昨夜お別れしたはずのリンゴだ。今ここに、奇蹟をなす。復活せよ、リンゴ。」
ダスト君は、林檎の枝と、世界樹?の幹の断面を合わせる。接木テープなどは、この異世界では不要であり、成功すれば、すぐに結果が見える。
光った。
成功だ。林檎の若木の複製が、生まれた。
邪悪なる錬金術師ダスト君は、キメラを錬成するかのように、命を複製するという禁忌の栽培方法を異世界で確立した。
その奇蹟を目の当たりにして、ミドリは震える。それもそのはず、誰も思いつかないような新しい画期的な農法を考えだしたのだから、リスペクトが止まらない。
「生き返ってる?本当に生き返ってます。オーナー、いえ、ダスト様。凄いです。」
興奮のあまり、抱き着いてきた。
Bか、いやCは、あるな。
「ミドリよ、リンゴの世話を任せたぞ。」
「はい。ダスト様。」




