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49 林檎5


 酒場《乙女達の楽園》、猫娘達がVIPルームに引き上げ、今日の営業は終わりかと、客がパラパラと帰り出したそんな時だった。


 引き上げたはずの猫娘達がいっせいに、VIPルームから、バラバラと降りて、なにやら、慌ただしく、酒場と猫屋敷の間の路上で、準備を始めだした。


 これは、祭りの予感がする。


 居残っていた客が、道に出てきて、帰りかけた客が戻ってくる。

 ミケが、空になった酒樽の上に立ち、見物客達を煽る。


「突然だけど、今夜は、オーナーの我儘で、猫娘カーニバル延長にゃ。乙女達の楽園から、忘れられない一夜をご約束。夜空に咲かすのは、大輪の華。打ち上げは、コイシが努めますにゃ。」


 そんなミケの煽りで、中心に視線が集まる。いるのは、猫耳が無く、灰色の髪をした、凛とした女性。

 ぺこりと礼をする。そんなコイシに、魔法使いブルーが、声を掛ける。


「タイミングを合わせて魔力暴走させて渡すから、コイシさん、すぐに投げてにゃ。」


「分かった。ダストに、届けるよ。」


 ブルーが魔力を込めて、ギラギラと不安定に光り出した宝石キノコを受け取り、コイシは、空に投げ放つ。


 固定砲台のコイシから、打ち上げられる宝石キノコは、光の帯を引きながら、夜空に高く高く飛ぶ。


 暴走した宝石キノコは、上空で、臨界点を迎え、ズドンッと中空で爆裂し、七色の光りを放ち、夜空を染め上げた。


 さながら、花火のような光景。


 キラキラと宝石のごとく、光りを空にたたえた後、残光が、街から少しの間、夜を払う。


 夜の街に、くっきりと、都市が現れた。その街並みの全貌を顕にする。


「たっまやー。」


「御主人様、なんすか、それ?しっかし、綺麗っすね。」


 リンゴは声も出ず、その忘れられない光景を目に焼き付けていた。これが、世界。おにーさんは、魔法が使えるんだと。



 弔砲の数は、兵士1発。大将でも17発。


 しかし、1日限りの少女のためだけに、放たれた宝石キノコは100を超える。このまま、全弾、打ち尽くすのかと思われたが、王都の警備隊が、駆け付けて、お終いとなった。


「お前らー、届け出をしてからせんかっ!全員拘束っ。」


 荒れる警備隊。


 しかし、そんな当たり前の指摘に、酒を飲みながら絶景を見ていた客や、花火を見に集まった野次馬に、火がつく。


「ざけんじゃねーぞっ。引っ込んでやがれ。」

「そうだ、そうだ。」


 地上では、少し醜い祭りが続きそうだ。ヤレヤレだと、ダストは他人事のように、ため息をついた。


 満面の笑顔で、約束を叶えた男に、幼女は抱きつく。傷顔の豚野郎が、どうしようもなく格好良く見えていた。


「ありがとう、おにーさんっ。私だけの勇者様。」


 嗚呼、綺麗だった。



 しかしながら、

 祭りの終わりは、少し寂しい。


 コーヒーカップに、火照るような覚めやらぬ興奮を並々と注ぎ、一匙の寂しさを加えたような、そんな後味。



 普通の祭りと違ったのは、今夜は、寂しさの入った壷が、倒れて、テーブルを汚してしまった。


 つまり、お別れの時が、来てしまった。リンゴの小さな仮初の体の命は、燃え尽きようとしていた。


「おにーさん、お別れの時間かな。」



「まだ、まだ。遊び足りないだろ。もっともっと、景色を見ようぜ。だから、だから。」


 衝動的に、ダストはリンゴを抱きしめたが、フワワと手の中の存在が、希薄になるのを感じる。

 手から質量が消えてゆく。


「おにーさん、あのね。リンゴは、」


 ついには、手の中から消え去る命。

 光りとなりて、砕けるように散る!

 抱きしめていたダストの手は、虚空をすり抜ける。ぶわっと、夜空に散らばるリンゴだった光りの塊。


 その手は、なにも掴めないし、なにも守れない。


「おにーさん、あのね。楽し、、かった。」



「リンゴおぉぉぉ、おーん。」


 男の雄叫びは、慟哭となり、涙は溢れる。

 狼の遠吠えのように、ここに居た事を誰かに伝える。


 思い出を胸に抱き、泣け。


 大丈夫だ。

 死んでいない。

 俺の心の中に生き続けろ。 



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