48 林檎4
「嫌だっ。このまま燃え尽きたくない。ここにいた証。世界が、この世界が、見たいっ。おにーさんっ、リンゴに、世界を見せて。」
「任せろ。夢のような夜を約束しよう。」
再び、ダストは、登りだす。
薄ぼんやりと暗くなった《天国へ至る階段》を登る。退屈な代わり映えしない道は、足元が見えなくても、踏み外す事は、無い。
太陽が、完全に落ち、煌々とした白い月が現れる。満天の星星が明るい。
色とりどりな星が混ざり、ここが異世界なのだなと感じさせる。
「うっわーっ、綺麗っ。」
「あぁ、そうだな。こんなにも明るいものなのか。」
異世界は、科学レベルが低く、夜は田舎の街のようだ。なので、夜景を楽しむなんて事は、出来ない。
が、星が、こんなにも綺麗だったなんて。キラキラと光るなんて表現があるが、これの事だったのか。
くははっ、何という陳腐な例えなのだ。これを見なければ、その意味は分からんよ。
足を止めて、夜空を、無限に広がる夜空を見上げる。手を伸ばせば届きそうであり、伸ばすほどに、離れていく。
リンゴは、一生懸命に星を掴もうとしていた。肩車では、星に届かないか、ならば、頂上まで、上がってみようか。
天国に至る階段は、ある意味、魔道具であり、資格のある者しか、通さない。
ハクレンは、チートで、コレを振り切れるが、ダストは何も持たないので、愚直に挑むしかなかった。
・・ハクレンは、何も言わず、ダストを見守る、その勇姿に魅せられていた。
ダストの運動をほとんどしない、ぷにぷにと柔らかい足の裏は、熱を帯びて、悲鳴をあげ、ぶにぶにとした感触の水膨れが破れて、じくじくとした刺すような痛みに変わっているが、それが、どうした?精神が肉体を凌駕し始めていた。
今日ほど、自分の体を呪ったことはないが、これほどまでに、自分の体を頼もしく思った事も無かった。
ズズズッ。と、時折、沈み込む階段が、心を折りにくるが、それよりも僅かながら、登れている事に歓喜した。
数々の修行僧を脱落させた、代わり映えのしない道に、彼は慣れている。なにせ、変化の無い部屋に10年いたプロニートなのだ。
こんな物は、地獄では、無い。
真の地獄を知っているからこそ、言える言葉。ヌルい、ヌルい、ヌルすぎる。
残り時間は、少ない。
無心で、登る。登る。登る。
豚野郎ダストは、命を燃やし続ける、魔道具の資格を満たし、その祈りは、ついに天へと届いた。
そう、天端、頂上へと、到達したのだ。
狂うような階段が終わり、開けた土地が、3人を出迎える。
「うっわー!!頂上だ。」
「ハハハ、もう一歩も歩けんよ。ハクレン、お前は、凄いな。」
「御主人様は、凄さの本当の意味が分かってないっす。うちは、貴方が、主人である事が、誇らしいっす。」
ダストは、ヘタり込む。コイシは、肩車から降りて、走り回る。
両手を広げ、仰向けに倒れ込んだ。本物のプラネタリウム。科学大国では見る事の出来なくなった、失われた、かつての原風景が、この異世界には、まだ残っていた。
魂が、躍動するような感動。
火照る身体を鎮める。
身体が冷え、心が燃えるように充実感で満ちる。
ハクレンが、覗き込んで来たので、手を伸ばして、引き上げてもらった。肩を借りながら、端へと移動する。少ない光りの中に、自分の酒場《乙女達の楽園》を見つけた。
「リンゴ、見えるか?あれが、俺の店だ。」
「うん。世界を見せてくれて、ありがとう、おにーさん。」
ダストだけの力で用意出来たのは、
お粗末な夜景。
これが、個人の限界。
でもな、もう昔とは違う。仲間がいる。
「俺は、約束を守る。こんな結末で終わらせる気はない。だから、しばし、時が来るのを待て。」
「分かった?」
分かってないであろう疑問に溢れるリンゴの頭を撫でながら、時間を潰していると、待っていた事が起きる。
通話魔法だ。スマホが無いこの世界では、こちらから掛ける事は、出来ないが、魔法が使えるものならば、自由に話が出来る。
優秀な魔法使いブルーが、話し掛けてきた。
「オーナー、何処にいるにゃ?早くリンゴちゃんの歓迎パーティ始めたいんですけど、皆、待ってるにゃ。」
「ブルーか、いいタイミングだ。この連絡を待っていた。悪いが、予定が変わり、リンゴとは、訳あって、山の上でお別れをする。俺は、大輪の花を持って送り出したいが、生憎と、今は何も持っていない。だから、お前らに頼みがある。」
「また勝手にゃ。はぁ…何すれば、いいにゃ?」
「夜空に、大輪の花を打ち上げろ。宝石キノコを、魔力暴走させて、空に解き放て。」
「はにゃ!?1個で1パーティが1ヶ月は生活できる高級品にゃよ?王族ぐらいしか、そんな事しないにゃ。」
「ならば、俺は、今夜限りの王となる。構わないから、やれ!」




