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4 死闘


 ダストは、転がるように遁走した。それを追いかけるゴブリンの美少女。


 とても羨ましい光景だが、残念な事に彼女の息は耐え難い悪臭だ。キスをしたら死ぬレベルで臭い。


「い、嫌だぁぁぁ。」


 柔らかな苔を踏みしめながら、逆走する。運動不足のダストは、息も絶え絶えで転がるが、それを追いかけるゴブリンも美少女化した事により、元々弱い能力が、さらに弱体化したようで、なかなか追いつかない。


 10年ぶりにダストが頑張って走った事により、徐々に差が開いてきた。


 このまま逃げきれたかと思った矢先、先程までの位置に戻ってきた事に、見知った女性との再会により気付く。


「おかえり、ダスト。え!もう強くなったの?」


 人族は短命であるが、成長が速い。ゆえに、魔王を倒せる勇者は人族である。が、さすがに、1時間も経っていないので、それは無理だ。


「ごめん、小石ちゃん。ちょっと寄り道しただけだから。」


「…残念。」


 すっかりと油断して、せっかく開いたリードを、美少女との甘美なお喋りで使ってしまったせいで、臭い息の女に追いつかれた。だが後悔は無い。


「追い付いたぐぎょ。」


「またね、小石ちゃん。取り込み中だから。くそっ、息がくせーんだよ。ゴブリン娘め。」


 ダストは逃げだしたが、ゴブリン娘は追いかけなかった。ん?


「ぐっぎょー。この泥棒猫ぎゃ。殺すぐぎょ。」


「…えっと、どちら様?」


 あろう事か、ターゲットを変更し、小石ちゃんに殴りかかるゴブリン娘。美少女どおしのキャットファイトが、始まった。

 ボカボカと、一方的に、殴られ続けている小石ちゃんに、遅れて気付くダスト。


「や、やめろっ!小石ちゃんに手を出すな。」


「ぐっぐっぎょーー。」


 さらに燃料を投下し、ゴブリン娘の攻撃は激しさを増す。ダストは、視界に映った、いい感じの木の棒を入手し、小石の元へ駆けつけた。


 男の子は、武器を持ち勇者となる。急激に、進化を遂げた男は、姫を守るため、緑の魔物と、相対する。


名前:ダスト

装備:異世界の服(ジャージ)[R]、木の棒[N]←new


「死にさらせや!このゴブコめ。」


 助走をつけての全力の一撃。華奢で、可憐な緑髪の美少女を、チカラの限り、硬い棒で、殴打する。渾身の力で撲殺する。


 ついには、ゴブリンの美少女は、動かなくなり、光となって消えて、後に残ったのは、ドロップアイテムのゴブリンのクズ魔石のみ。


 異世界から、美少女が1人消えた。

 いや、美少女でも、小石ちゃんを虐めるゴブリンに、存在価値は無いと考え直す。



「小石ちゃん、大丈夫、怪我は無い?」


「うん。痒くもないよ。石族だから。それより、その…もしかして、守ってくれたの?」


「あ、余計なお世話だったか。」


 気まずそうに言うダストに対して、小石ちゃんは、顔を赤らめて、手をモジモジしながら囁いた。


「嬉しい。格好良かったよ。」


 褒められた事など、何年ぶりだろうか。小学生、いや、幼稚園か。思い出せない。汗が頬をつたう。なぜか視界がぼやける。


「ダスト、泣いているの?痛い?」


「え、いや目にゴミが入っただけだ。問題ない。」


 泣いていたのか俺は。感謝だな。小石ちゃんとこの場所で住めるぐらい強くなって、また帰ってこよう。と、決意を固めるが、意外な事を言われて勘違いに気付く。


「ダスト、連れてって。自分で移動出来ないけど、一緒にいたいよ。」


「えっと、さっきの無理は、そういう意味だったのか?」


「そう…だけど?」


「いや、何でもない。行くよ、お姫様」


 困惑する彼女を広い背中にご招待だ。さっと、おんぶして、2人は街を目指して歩き始めた。



 あっ、背中に当たる感触が堪らない。背中で揺れる灰色の髪の美少女。なんて邪心は、50mも歩かない内に、叩き折られた。だって、だって。


「きゅ、休憩しよっか。」


 運動不足なんだもん。くっそー、せめて部屋の中で筋トレとかしとけよ、昔の俺。ぜぇぜぇと息の荒いダストに、小石ちゃんは、別の提案をしてきた。


「あの…小さく変身しよっか?」


「・・お願いします。」


 それは、苦渋の決断。楽園はなくなるが、生存するために仕方がなかった。宿に着くまで、しばしの別れを告げる。

 そして、ダストが頷くと、目の前で、灰色の髪の似合う少女は、しゅるしゅると縮み、小さな尖った石の欠片になった。


「よしっ、明日から筋トレしよう。」


 小石ちゃんをポケットにしまって、街を探して、フラフラと疲れた身体にムチを打ちながら歩き続けた。



 歩き続けたかいがあり、ようやく、街道が見えた。日が強く差し込む街道に降り立ち、鬱蒼とした危険な森を抜けた事に安堵する。




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