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14 旅立ち

 小石ちゃんに、膝枕をして貰いながら、朝食を食べ、昼食を食べ、夜食を食べる。足が痺れず、食事も不要な彼女に、隙は無い。


 初めて膝枕を体験した日から、その自堕落極まる生活がすでに、3日を数え、ダストは、プロニートから、妖怪ひざまくらに、進化を遂げるのかと思われていたのだが、


 ダストは、かっ!と目を見開く。


 男に変化が起きた。


 小石ちゃんの献身と、リリイの甘やかしにより、枯渇していた生命エネルギーが、完全充填されたのだ。


 死んだ魚のような目に、少年の頃の輝きが戻り、かつて成し得なかった冒険の続きを求めて、ギラギラと輝きだす。


 小石ちゃんの膝枕という甘美なる誘惑を振り切って立ち上がり、宣言する。


「小石ちゃん、俺と冒険に行こう。黙っていたが、俺は、哀しき使命を背負った男。世界を美少女で満たせと、この右手が疼くんだ。」


「うん、それは知ってた。分かった、ダスト、必要になったら呼んで。世界の果てまで一緒だよ。」


 ダストの目の前で、変身した小石ちゃんが、尖った石の欠片となり、燐光を纏い空中で緩やかに回転しながら、滞留する。

 ばしっと、それを掴みとり、居心地の良かった部屋の扉を開け放ち、リリイの書斎に、歩みを進める。


 さぁ、冒険の始まりだ。豚は、飛び立とうと決意を込めて、小石を握る。



 書斎で執事を侍らせ、山のような書類と格闘していたリリイは、妖怪ひざまくらになるかと思われたダストに気付き、怪訝な顔をして、忙しそうな手を止めた。


「リリイ、世話になったな。冒険に出る事に決めた。」


「おおぅ、ダストよ。動けたのじゃな。一緒に駆け落ちしてやりたい所じゃが、今は片付けなければならない案件があっての、すぐには行けぬ。妾がいない寂しさに、泣くではないぞ。」


 悪戯っぽく笑うリリイに、イラッとしたダストは大人の余裕でやり返す。


「いや、誘っては無いんだが。」


 リリイに500のダメージ!彼女は、ぐっと、その身を折る。ぷるぷると震えながら


「誘えよぉ。そこは、誘っとけよ。妾がせっかくお礼で夜這いに行ってやったというのに、何時もあの娘がおって何も出来んかったし。わ、妾は、可愛いじゃろ?可愛いよな?」


 涙目のロリが、訴えかけてきて思わず、たじろぎ、本音を漏らすダスト。


「まぁ、可愛いのは認める。」


「なら、なぜ抱きたいと思わぬのじゃー。」


 それは未だ童貞。ヘタレであるからだ。抱きたいが、彼は、駆け出し魔法使いであり、勇者では無かった。


「そ、そういうのは、愛し合った人と、なんというかムードが高まってから自然な感じが、理想かな?」


 そんな弱腰のダストの言葉に反応したのは、イケオジ執事。これはチャンスでは?それまでじっと、嫉妬に燃えながら唇を噛んで耐えていた執事は、ここぞとばかり、リリイにアピールする。


「お館様、そんな若造より、ワシがおりますぞ。なんなら、今夜は全裸待機しておきます。」


 弱腰なダストと、残念な部下に、頭をかかえたリリイは、ダムッと机を叩く。


「だっから、お主は童貞なのじゃ。あと、イケオジは黙れ。はぁ、まぁええ。そのうち、妾の良さに気付くじゃろうて。」


 不貞腐れたリリイは、疲れたように、引出しから、重そうな小袋を机の上に投げると、じゃらりと、金貨の擦れる音がした。さらに、何かのカードをすっと添えた。

 

「これは?」


「お小遣いと、冒険者カードじゃ。受け取るが良い。普通は、Fからじゃが、お主の場合は昇級試験で苦労しそうじゃから、妾の権力でCランクにしておる。」


「そんな事までしてくれたのか、ありがとう。遠慮なく頂く。」


 密かに憧れのあった冒険者カードを見ながら、ニヤつくダスト。


「で、何処に行くのじゃ?」


「いや、まだ決めて無い。まずは、村でゆっくりと情報収集してから考えようかと。」


 フランと食事の約束もあるしな。聞き込みもRPGの醍醐味だろう。しかしながら、そんなヌルい考えは、即座にダメ出しされた。


「ダストよ、そんな事では死ぬぞ。お主が、爽やかなイケメンを雌落ちさせたのは、覚えておるか?あの元妻が、館の近くで、血走った目で剣を持ってウロウロしてるのが、連日、目撃されておる。接敵すれば、おそらく瞬殺じゃろう。はぁ、短い命じゃったな。残念、残念。さて、書類業務に戻るかのう。」


「まっこと、残念に御座います。さぁ、さっさと、その命を散らして来い。」


 リリイに追従して、喜色満面になったイケオジ執事が、実に腹立たしい。



 館から、出られないだと!?脱出ゲームをやり込みすぎた時の閉塞感が襲う。やはり、プロニートにしか道は無いのか?


 しかし、さっき小石ちゃんに見得をきったばかりなので撤回したくない。おそらく、撤回したら、小石ちゃんは言うだろう。「おおー。これで、膝枕で痺れる経験が出来るかも。あと、362日試してみよ。」と。


 悪くないな。思ったよりも、有りよりの有り。しかし、ここは、成長を取る。


「リリイ、一緒に来てくれないか?」


「ほ、ほう。しっしかし、妾は、忙しいからのー。」


 嬉しそうに、ピコピコと耳が反応するロリババア。そして調子にのって、おかわりを要求してきた。

 おかわりを注ぐダスト。


「リリイ、お前が、必要なんだ。」


「困ったのう。こうも求められては。後で追っかけるから待っておれ。ひとまずは、移動手段を与えるので、付いてくるのじゃ。」


 欲情した女の表情になった主を見て、イケオジは、手にしていた書類を床へパラパラと落とす。


 全く、罪な女なようで。ただ、好かれているのは、悪くない気分だ。クソみたいな優越感に浸りながら、リリイの後を追い、馬屋に向かう。



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