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12 証明


 どれくらいの時間がたったのだろうか、竜宮城に行っていたのかもしれない。


 ぼんやりとしたフワフワとした意識のまま、湧くように満たされすぎたベロチューの充実感は、受け止めきれず溢れる。

 例えるならば、少し高級な小料理屋で、四角い木の枡に入った透明のグラスに、こんこんと注がれるのは、よく冷えた芳しき日本酒。並々と、注がれる命の水はコップの縁から溢れ、コースターとして敷かれた木の枡を満たす。枡に、液体が注がれる事により、ヒノキの香りが立ち昇る。そんな至福のひととき。


 軽く魂を抜かれて3歳児並の知能になったダストは、リリィに促されるまま、小石ちゃんをポケットに納めて手袋をしてお口を拭かれて、幼稚園へのお出かけするかのように、お手手を繋いで、部屋の外へと引率される。


 部屋の外で待機していた執事の横を、そのまま2人は、ほのぼのと通り過ぎようとしたのだが、2人の姿を確認したイケオジ執事は、厳しい表情に豹変し、抜剣した。


「待て貴様ら。お館様は、何処だ?」


 くいくい、っと剣先で、部屋に戻るように促し、不審な2人を押し戻す有能な執事。見た事の無い幼女も気になるが、そんな事より、先に出てくる予定のお館様がいないのが、執事にとって看過出来ない事だった。


「お館様、お館様ぁ!」


 摩訶不思議な事が起こっている予感がある。暗殺か誘拐か、部屋には敬愛する主の姿がやはり無い。


「イケオジよ。慌てるな、妾がリリィ・アーハイムじゃ。少しばかり若返ったが、さして変わっておらぬじゃろう。」


 老婆の名を語る幼女の言葉に、老執事の顔が、ひくつく。何処で知ったか知らぬがイケオジ等というふざけた愛称で呼んでいいのは我が主だけ。

 異変を聞きつけたボーイが集まってくる足音が聞こえる。逃さぬぞ侵入者、バカにしおって、後悔させてくれる。


「怪しき童め、その見た目で、お館様を語るなど無理がありすぎる。お館様は、何処にいる、言え。」


「な、なんじゃと、ほれ、見るが良い。このしっかりと摂生した細いこの綺麗な手足を。面影があるじゃろ。」


 懸命に説得するロリババアだが、いかんせん説得力に欠けるというもの。


「我が敬愛する主は、美しき枯れ枝のようなお手をされておる。しわしわのそのお手には、年輪のような経験が詰まっているのだ。」


「か、枯れ枝。しわしわとな。ほっほーう、イケオジよ、取り消すなら今のうちじゃぞ。」


 ボーイの応援が3名駆けつけた。

 若い後輩達の前に立って毅然した態度で、執事は、憤慨する幼女の、荒唐無稽な脅しを跳ね除ける。


「くどいぞ、愚かなる童め、お館様は、そんなピチピチしておらん。」


 全くもって執事の言う事は正しいのだが、真実は、いや正論だからこそ、逃げ場を許さない言葉は、剣となり人を傷つける。

 執事の、明後日の方向で敬意が込められた指摘に、ロリババアの乙女心は傷つけられた。


 それは、もう凄く。


 聖戦である。全ての『乙女の心を有する者』よ、集え。乙女心を傷つける敵を撃滅せんために。


「イケオジよ、妾は全て知っておるのじゃ。お主が、聖剣ゼノスだとか言いながら、木の枝を振り回していた時代からな。」


「な、なぜそれを。」


 狼狽する執事。ざわつくボーイ。魂を抜かれて幸せそうに微睡むダスト。

 反撃の糸口を探す執事に、指を突きつけたロリババア。諦めろ、逃げられぬ。このお方の名は、リリィ・アーハイム。


「そういえば、お主のくれた手作りの妖精の神秘の秘宝。フェアリーダークマターネックレスも、未だ大事に持っておる。」


「が、がふっ。」 


 泣きそうな執事に対しトドメとばかり、耳元で、これまでとは比較にならない黒歴史を暴露する。

 なぜ、耳元なのか?それは耳元で話す事で攻撃力が増し、さらに他の者に聞かせない事により、再利用出来るという大人の狡い思惑があるからだ。


「・・・。」


「お、お館様、許してください。良く思い出せば、お館様はピチピチだったような。少ぉーし、若くなっておられるけど、そんなに変わってないかなー。」



 乙女の敵は、打ち滅された。


 が、ここで終わらないのが、リリィ・アーハイム。さらなる死体蹴り?とか思ってしまった蒙昧な輩は学ぶと良い。



「イケオジよ、此度の妾への献身、大儀であった。その姿、執事の鑑である。」


 涙を垂れ流し、両手を地につき項垂れている敗戦の執事を、その泣き顔を隠し尊厳を護るように、抱きしめて包み込むは、瑞々しい美少女。嗚呼、美しい。


 しかして、実態は、私怨により言葉の暴力を振りかざして、いい大人を泣くまで追い詰めただけなのだが、そこから、なんとなく、いい雰囲気に持っていき、鮮やかに和解した。


「お、お館様ぁぁ。ご無事でなによりです。ぐすっ。」


 完全にマッチポンプであるが、生まれ変わったロリババアに、執事は信頼を厚くし、2人の攻防を間近で見ていたボーイ達も、畏敬の念を持って、跪いた。



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