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105 ツリーハウス


 一夜開けて朝の爽やかな陽射しの中、風が吹き抜けた。


 風の正体は最速の乙女ハクレン。

 酒、金、禁断の果実。山のように、アイテムバッグに詰めて、赤の森の建設現場へと補給に向かっている。

 その背中におんぶされた豚野郎はつぶやく。


「普通の主人公なら未開の地から財宝を持って帰る所が、逆に財産を持って行くなんて俺らしいや。」

「御主人様、何か言ったっすか?」

「何でもないよ。ほら、危ないから前見ろって。」


 余所見したハクレンの頭を撫でる。この速度で余所見してたら激突して死ぬからな?しっかりしてよ。


 僅か一日にして完成した乙女ロードを通り、順調に快走する。

 風が気持ち良い。


 ハクレンの背中で、うたた寝しているとあっという間に目的地に着いた。


「くああ。最高の乗り心地だったよ。」

「えへへ。」


 背伸びをして眠気を取るダストに、ハクレンは邪気の無い純粋な笑顔で照れた。この旅で、ハクレンとの距離が縮まった気がした。


 2人の到着を一番待っていたのは、新キャラのドワーフのメルだった。

 フラフラと近寄ってきたので、アイテムバッグから酒を取り出して渡す。


「うへへ。酒〜。」


 全くどうしようもないヤツだ。だけど、仕事は、しっかりとする職人らしく、すでに何軒かツリーハウスが出来ていた。


 赤の森の象徴といえるメルルの大樹。その上空を見上げる。白く太い幹の10メートル以上も上に家々が作られていた。白と赤を貴重とし、黒がアクセントで入ったツリーハウスはとても格好いい。


 そして、その家どおしが上空の橋で繋がっているのがまたロマンがあった。

 家がもっと増えて村が完成すれば、エルフの隠れ里にピッタリだろう。


 思わず、感嘆の声が漏れる。


「さすがドワーフ。いい仕事をする。完璧な仕事だ。ん?完璧。」

「ははは。頑張ったからね。仕事の後の酒は美味しいよ〜。」


 ちょっと待てよ、何か足りない気がする。


 屋根はある。窓もある。床も抜けてなさそうだ。テラスある。橋の上に屋根まである。家のパーツは全部揃ってるよな?特に問題が・・・

 あっ!


「梯子が途中で無くなってるぞ。このポンコツドワーフが。はい、没収。」

「うああ。返せ〜。夕暮れの天空村に、梯子なんて要らない。完成してる。」


 いやいや、何を言ってるのだろうか。家に入る為の縄梯子が、全然地面まで全然届いていないのだ。どう見ても5メートル以上は上空で切れている。

 ずさんな仕事をした施工者にはお仕置きが必要なようだ。

 あげた酒を取り上げて、ちびっ子メルの手の届かない位置に持ち上げると、必死に手を伸ばしてきた。


「どうやら、お仕置きがいるようだな。は?なんだ?」


 ぴょおおおん。


 その時、何か幻覚を見た。猫娘のピンクが空を舞っていたのだ。

 まじで?

 そんな動揺の隙きを突かれて、酒を背の低い女に強奪された。


「お酒、頂きい。」

「てめっ!」

「ちゃんと見て、完成してるよ〜。」


 ててて。と酒瓶を抱えて走り去ったメルは、ぴょんぴょん、ぴょおおおんと飛び上がり、遥か上空の縄梯子に掴まった。


 そういえば、赤の森の地面はトランポリンのように跳ねるんだったな。そんな常識を忘れるなんて。


「意味分かんねぇよ。異世界っ!そういう事なら、うぉぉぉっ。」


 ダストは走り出す。突撃、お宅訪問!


 ぴょんぴょん、ぴょおん。

 しかしながら、どうにもリズムが悪かったらしく、飛び上がり縄梯子に手を伸ばすものの、その手は空をきる。


「家に入るのも、一苦労かよ。」


 びたん。

 地面に激突、体に痛みはないものの少し心が痛んだ。


「はっ、その挑戦受けた。おらっ!」


 ぴょんぴょん、ぴょおおん。

 惜しいっ

 チッと手先が縄梯子を掠める。届かない。


「くそがああ。」


 びたん。

 はあはあと荒い息を吐く。喉が鉄の味がしてきた。そういえば異世界に来てからも運動はして無かったと思い出す。

 異世界系主人公の運動能力に嫉妬する。それだけ動ければモテモテだわ。


「俺は、頭脳担当なんだよっ。」


 再チャレンジは駄目だ。

 まだ息が上がってる、無策で臨んでも結果は変わらないだろう。


 ならば精神汚染上等。

 ピカァ

 男のプライドを秒速でゴミ箱に捨て去り、女になる。


「ダストちゃんだよ☆うふふ。」


 何処からともなく現れた美少女が空を舞う。

 ぴょおおおん。

 助走も無しに、ひしっと縄梯子に掴まり、するすると登っていく。


 するとダストちゃんに気付いた村人達に動きがあった。

 天使の登場に、下界がざわめく。


 何だろうか?と縄梯子を登るのを止めて下界を見下ろす。


 すると、きょとんとしたダストちゃんの直下に、仕事をしていた村人の男共がゾンビのようにフラフラと集まりだしたのだ。

 そして、なぜかエルフやおばさん達と交戦に入るゾンビ達。下界では醜い争いが勃発した。


「あっ。そういえば、今日はスカートだったか。いいよ、エリートゾンビ達。命を賭けて戦いなさい。私のおパンツには、それだけの価値があるから!」


 キリッととんでも無い爆弾発言をしてダストちゃんは、するすると縄梯子を登るのを再開した。


 この女、規格外!

 その罪な美しさは下界で争いを生む。



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