102 ヤケ酒
上手くいかない。
「びぇぇん。うさーーー。」
うさ耳幼女が耳元で泣きじゃくる。助けを呼びたくて、コイシちゃんを召喚。ていっと石の欠片を投げる。
「大丈夫だよ、任せてダスト君。ハクレンちゃん、お姉さんでしょ?」
現れたコイシちゃんは何故かハクレンにバトンを投げた。え?ハクレンに。ハクレンだよ?
「ウサギさん、良い物をあげるっす。」
取り出したるは、いつものニンジンだ。まあ分かってたけど。
そんな物で、どうするんだ。
「うさ?」
「良いッスよ。あげるっす。」
泣き止み、とりあえず鼻をひくひくさせてポリポリと食べだす幼女。
すると、いきなりテンションが上がり、ぴょんぴょんと暴れだした。
「これはスイーツうさ。ここの子供になるうさーーー。」
おおう、ハクレンと同類なのね。にっぱあと満面の笑顔になる。
このニンジン、ヤバいもん入ってないよな?そういえば、ウサギも好物はニンジンだったか。上機嫌のうさ美のテンションについていけない。
童貞だけど、子供が出来た。
ふっ・・。
「とりあえず帰ろっか。」
リリイにウォッシュをかけて貰い、ぞろぞろと空家に戻る。
もう今日は仕事をしたくない。
☆
村を歩いていると、肉の焼ける良い匂いがした。夕食にはまだ早いこんな時間に。
匂いの先を見ると、開かずの食堂。この村、唯一の食堂。
「え?今日は開いているのか。入ってみるか。」
「賛成なのじゃ。」
「お魚あるかにゃー。」
好奇心に惹かれてキィと扉を開けると、村人たちがどんちゃん騒ぎをしていた。
「おっ、帰って来たのか。聞いてくれよ、村長が。大金を独り占めにしてたんだ。だからよ、今日はその金でパァーとやってんのさ。」
「げはは。」
上機嫌な村人達がお酒を飲んでいる。お酒で気が大きくなったのか美少女の僕に噛まずに話せてる、偉いぞ。
どうやらこの前追加で渡したお金が、速攻で村人にバレたらしい。
家も取られ、お金も毟り取られた村長には同情しかない。
しかし、美味しそうに飲んでるな。
飲んじゃうか?
「ヤケ酒だ!僕も飲む。」
「はいはい、メルカーナ特産のメルル酒だよ。お金は要らないから。」
直ぐにおばさんがお酒と料理を持ってきてくれた。はっ良いねぇ。
ご厚意に甘えて、ぐびぐびと飲む。くっはーっ効くよ。これ予想してたよりもずっと美味しい。今度、店で出そう。鼻から抜ける木の香りが堪らない。
まるで森の中にいるかのような。目を閉じれば赤の森だ!
でもさ、クラン乙女達の楽園の本業は冒険者では無く酒場だ。だから酒場勝負は負けてられない。対抗心に火が灯る。見せてやるよ本場の酒を。
「ピンク、行けるか?」
「お任せですにゃ。」
アイテムバッグから次々と酒やらフルーツやらグラスを出して臨時酒場がオープン。
心意気に打たれたのでお代はいらない、楽しんでってくれ。
うちのキャストは美人しかいない。
コイシ リリイ ハクレン ピンク サラ ポニー そして僕だ。最高のおもてなしを魅せてやろう。
猫娘ピンクが、くるくると酒瓶をジャグリングしてパフォーマンスを決める。
やってやれ、カリスマバーテンダー。
ついついと、踊るように注いでいく。グラスに鮮やかなグラデーションのカクテルが完成した。虹色のグラスが並ぶ様子は、さながら魔術師だ。
「「おぉーっ。」」
村人達がどよめく。
「お召し上がれにゃん。」
さて、飲み食いしながらいつも通り接客してやるか。恥ずかしがってないで来いよ。忘れられない夢のひとときを提供してあげる。
「なにこれ宝石みたい!何だか飲むのが勿体無いねぇ。」
「たぶんカクテルだろ、王都でそんな噂を聞いた事がある。」
「いい匂いだぁ。」
恥ずかしがっていた村人もだんだんと受け取りに集まってくる。しかしながら、勿体無いのか誰も飲もうとしない。
全員にお酒が行き渡った。飲めない人には脳みそを揺さぶる甘さの果実ジュースを渡している。
声をかけてあげなきゃ、誰も飲まないパターンか。
ミケがいないのが残念だ。
マイクパフォーマンスは苦手なんだけど仕方無い、代表の僕が決めるしか無いか。
「今日は、至高の超高級クラブ、乙女達の楽園からの出張サービスだ。人生に忘れられない味を。心に残る一杯を。なに、お代は要らない。兄のダストからメルカーナの村へ友好の証として贈らせてもらうそうだ。うちでは乾杯の掛け声は、にゃーっでやっている。さあ最高のひとときを楽しもう。グラスを高く揚げろ、みんな叫ぶ準備は出来たか? 行くよぉーっ。」
「「にゃーっ!」」
戸惑いながらも乾杯の合図が、小さな食堂を揺らす。伝説の一日の始まりだ。揺れろ、喜びに揺れろ。
「「「美味ぇーーー!!!!」」」
「こんなの飲んだ事がない。」
「これが都会の味なのか。」
「ねぇ、レシピ聞いておこうよ。」
「明日からどんな顔してお酒のめばいいんだ。オラ、こんなの知ってしまったら。」
「ねえねえ、お代わりはあるのかしら。」
「世界で一番美味いとワシが断言しよう。」
「ほんと、美味しすぎるわ。」
「美味い、なんと言えば分からないけど美味い。」
うるせぇ。
興奮した村人達のざわつきが治まらない。まだ昼過ぎなのに、長い夜になりそうだ。
「どんどん飲むといいよ。」
コイシちゃんが、リンゴを素手でパカッと割って絞り出した。
「「えっ?どうなってるんだべ」」
どよめく村人へ、笑顔でカクテルを渡す。美少女コイシに微笑まれ、考える事を諦めたらしい村人が幸せそうにカクテルを飲む。
「あらまあ、小さいのに偉いわねえ。」
「妾はそなたより年上なのじゃ。」
「ごめんなさいねえ。」
ニコニコとお婆ちゃんに孫のように見られるリリイを見てると和むわ。
「あ、あの。名前教えて貰っても良いですか?」
「え、僕?ダスト君だよ。可愛い少年。」
「お綺麗ですね。ダスト君は女神様より美人です。」
「ありがとう少年。」
ニッコリとスマイルサービスしてあげる。注文したジュースにお酒も少し混ぜてと。褒めてくれたからサービスだよ。
今夜、僕と大人になる?
あっ やべ。お酒入れ過ぎたみたい。
あーっ、僕のナイトが倒れてしまった。失敗だよお。もっと大きくなってから来るんだぞ少年。再戦歓迎です。
村の少年Aを倒した。
次々と村人達がダウンして家に帰っていく。やっと落ち着いてきたので、本格的に食事を再開しようか。
「キャストの皆、よく頑張ってくれた。手を休めていいよ。」
デデンと、酒瓶を置いてセルフサービスのいつもの流れだ。頑張ったなあ。




