プロローグ、あるいはダークマッチ
白樺の木漏れ日が、遅い春の訪れを告げている。
その木肌よりもなお白い瀟洒な木造建築の前で、<緑川 ヒナ>は丸い頬をそれと同じ色に染め上げていた。
セーラー服の胸元に抱きしめていた封筒に目を落とす。何回――何百回見返しても変わらない。流麗な筆致で書かれた宛名は、間違いなく自分のものだった。おぼつかない指先で封筒を裏返す。そこにある差出人の名も、やはり変わらない。
<白瀬 鳥子>
この学校――聖シーニュプローズィ女学院では知らぬ者のいない名だ。
成績は常にトップ、スポーツは万能、バイオリンの腕は個人で演奏会を開けるほど。おまけにこの学院の創設者一族の末娘だ。
全校生徒の憧れの君であるかの上級生は、反面――いや、それゆえか――容易に大衆を近づけないと噂されている。
ついたあだ名が<孤高の白薔薇>。
誰もが遠巻きに眺めるしかないその存在から手紙を受け取ったのは先週だ。
内容はいたってシンプルだった。
放課後のお茶会への招待状。
この学院には上級生が気に入りの下級生をお茶会に招く伝統がある。招待状自体は、光栄ではあるものの珍しくはない。しかし、相手が問題だった。
ヒナがお茶会の招待を受けたと分かったとたん、クラスは蜂の巣をついたような騒ぎになった。
<白薔薇>は未だかつて、誰もお茶会に招いたことがなかった。
誰もが焦がれながら、声をかけることすらはばかられる孤高の存在。それが一面識もないヒナに、なぜ――。
そうして、クラスメイトの羨望と嫉妬の視線を矢のようにあびながら、ヒナは白い建物の前にいる。
建物の名は、<舞籐舘>。
学院の敷地の外れにあるその館は、特別な生徒にのみ使用を許可された場所だ。成績が飛び抜けて優秀であるとか、スポーツや芸術分野でめざましい成績をおさめただとか――いわば、特権階級のための聖域。
特別とは真逆の位置にいるヒナは近づくのも初めてだった。
(どうして、<白薔薇>がわたしなんかを)
昨夜は緊張と混乱で一睡もできなかった。濃く浮いた目の下の隈にそっと手を当て、ヒナは息を吐いた。ため息はいっそ、憂鬱だった。
けれど、いつまでもこうしてはいられない。
ヒナは顔を上げて建物に近づき、玄関扉の前で足を止めた。どこか愛嬌のある獅子の顔がくわえた金色のノッカーに触れる指は震えていた。
かぁん、かぁん、かぁん、かぁん。
高らかに、金色の音が鳴り響く。
一片の疑いようもなく、開幕を告げる音だ。
しかして、扉は開かれた。
果てもなく、優雅であった。
飴色に輝くテーブルを彩るウェッジウッドも、その白磁に映えるアールグレイの水色も、レースのカーテンを揺らす薫風も、柔らかな曲線を描くオリーブ色の長椅子も。
しかし、それらは全て目の前のこの人の存在で霞んでしまう。
「急にお呼びしてごめんなさい。ご迷惑だったのではなくて?」
白いセーラー服の肩から、柔らかな髪が一房、流れ落ちた。夢でも見るような心地で、ヒナはそれを凝視していた。
返事がないのを不思議に思ったのだろう、小鳥のようなしぐさで首をかしげた拍子に、また一房。
「――緑川さん?」
「あっ、はい! いえ!」
ようやく、ヒナは我に返った。
奥底に碧玉を隠した夜の湖のような、玄妙な色合いの瞳とぶつかる。顔が一瞬で熱くなった。
「迷惑とか、ぜ、全然です! わ、わたし、部活してませんし放課後やることなくて! 家に帰ってゴロゴロするだけの、ダメ人間ですから!」
この館で――否、ヒナが生まれてから見てきたものの中で最も優美な存在は、
「まあ」
とだけ言って、おかしそうに口元をおさえた。その指先、それを飾る爪さえも、完璧の一言に尽きた。
ヒナだって、うつくしい人はたくさん知っている。
テレビの中で踊るアイドルや、雑誌でポーズを取るモデルさん。この学校を見渡しても、きれいだったり可愛かったりする女の子たちは大勢いる。
しかし彼女らを白瀬 鳥子とは比べられない。比べる気にすらならない。
あらゆる表情、あらゆる挙措、あらゆる仕草に光が宿っている。
皆が何故この上級生の一挙手一投足に夢中になるのか。初めて理解した。
神の眼前に引き出された善男善女のように、ヒナは震えた。手にしたカップとソーサーは耳障りな音を立て続けている。
その音のせいで、ヒナは未だ一番聞きたいことを口にできずにいる。
(どうしてわたしなんかをお茶会に――?)
至高のひとは、緊張で目も合わせられないヒナに優しく勧めた。
「よろしければお菓子を召し上がって。わたくしの手作りなの」
「手作り!?」
「ええ。レシピもわたくしが考えたのよ」
白薔薇のお手製の品なら、それが例え炭の塊であったもヒナは喜んで口にしただろう。
だが、プレートに盛られた三角形のタルトは、作り手と同じように美しかった。
味は言うまでもない。口の中でバターの香ばしさと苺の甘酸っぱさがほどける。
「そのお菓子の名前は――<ベリー・トゥ・ベリー>というの」
ヒナがここまで緊張していなければ気づいたかも知れない。
鳥子が菓子の名前を口にしたときの、ほんの少しの間、ほんの少しの音の強さに。
顔を上げたヒナは、そこでようやく鳥子の視線に気づいた。穏やかなお茶会には不似合いなほど真剣な視線。まるで、ヒナの内側を見透かそうとするような――。
「感想を――、伺ってもよろしくて?」
「えっ、あ。お、おいしいです! とっても!」
「ありがとう。それで、名前は<ベリー・トゥ・ベリー>なのだけど……」
「えっ? ああ、イチゴがたくさん使われてるからですよね。素敵な名前だと思います」
「……そう」
あからさまにガッカリされてしまった。なぜ。
(わたし、なんか失礼なこと言っちゃった!?)
一瞬にして、タルトの味がしなくなった。
額に汗を浮かべたヒナに、鳥子は気を取り直すような笑みを浮かべてみせた。
その後の数十分は、まあ順当なお茶会であったと言える。
話題はお天気のこと、学校生活のこと、クラスメイトや先生のこと。緊張でどもりがちなヒナを鳥子はさりげなくフォローし、会話を弾ませてくれた。真のご令嬢とはこういうものか、とヒナは舌を巻く思いだった。
潮目が変わったのは、鳥子の改まった一言だった。
「少し個人的な質問をしてもいいかしら」
個人的な質問――?
(せ、成績のこととか聞かれたら困る! 数学の点数なんかバレたら軽蔑される! 確実に!)
心中とは裏腹に、ヒナはほとんど無意識にうなずいていた。
「ありがとう。それじゃあ、あの、緑川さんは――」
鳥子はそこで桜色の唇を閉じた。そしてしばらく迷うように目を伏せ、ヒナが沈黙に耐えきれなくなる直前、ついに――
「緑川さんは、やっぱり、新日をよくご覧になるの?」
と、言った。
(――シンニチ?)
ヒナの頭脳が忙しく回転する。
(シンニチ――あっ、<親日>か! <親日国>とかよくニュースで聞くもんね! ん? でも<ゴランニナル>ってなに? 国を? 見るの? <親日国に興味があるか?>みたいな? そんな感じ?)
いくつもの疑問符が脳裏を埋め尽くした。
ヒナはなんとか、鳥子の望む答えを返してあげたかった。
なぜならヒナをじっと見つめる鳥子の目は、はちきれるような期待と少しの羞恥――まるで初めて恋心を告白した乙女のような、初々しくも切なげな光をたたえていたからだ。
「しっ……シンニチ、は、あまり、見ないかも、しれないです」
ヒナは数学だけでなく、地理も世界史も成績が思わしくない。<親日国>と言われてもとっさに国名が出てこないくらいだ。
「そうなの……」
ああ、細い肩が悲しそうに落ちてしまった。たまらず、ヒナは言葉を継いだ。
「でっ、でも! 他のなら、興味あります!」
現国や体育なら、なんとか!
そんな思いで発した言葉に、鳥子は食いついた。見事に。
「まあああ! そうなの!」
とびはねるように立ち上がって、長椅子に座ったヒナの隣に腰かける。
「じゃあどこを中心にご覧になってるのかしら? 全日? 大日? DDT? ドラゲ? みちのく? あっ、ひょっとしてWWEやCMLL? それとも女子? まあっ、もしかしてダムズ!?」
「だ、ダム……?」
土木建造物?
ヒナは、唯一、認識できた単語をオウム返しにしたにすぎない。しかし鳥子は目を輝かせてヒナの手を取った。
「素敵! ええ、ええ! ダムズは最高ですわよね。やはり純ちゃ――葛西選手のファンかしら? わたくしは平田選手に注目してますのよ。最近、体もめっきり大きくなられて、未来のデスマッチ界を担う方になると思いますの! それから個人的にはドラゴン・リブレ選手を――」
「し、白瀬さん……」
「あら、ごめんなさい。わたくしの個人的な趣味のお話ばかりになって。ええ、もちろん殿――佐々木選手や神威選手の功績を忘れたりしてませんわ。それになんといってもダムズにはフッキーこと吹本選手が所属されてますものね! フッキーを嫌いな人間はいませんわよ!」
「白瀬さん!」
「フリーの選手の参戦も魅力ですわよね。わたくし、バラモン兄弟がいらっしゃるときは必ず見るようにして――」
「し・ら・せ・さんっ!」
「はい?」
頬をバラ色に紅潮させた顔が、近い。
目は星屑、いや、太陽そのものを宿したように輝いている。早口で一息にまくしたてたせいか、前髪が乱れ、肩は上下している。
「あの……」
「なにかしら? あっ、わたくしばかり話してたから気を悪くなさった?」
「いえ、そうじゃなくて……」
「緑川さんのお話も伺いたいわ。どの選手がお好き?」
「そうじゃなくてですね……」
なあに、と世にも美しい人はこの上なく優しく微笑んで、続くヒナの一言に目をむいた。
「――さっきから、何のお話をされてるんですか?」
「えっ。プロレスに決まってますわ」
「えっ」
「えっ」
プロレス。
Pro-Wrestling。
正式名称・プロフェッショナルレスリング。
今さら力道山に始まるその長い歴史を紐解くには及ばないだろう。正方形のリングを舞台に、最強の男たち女たちが、己の肉体を武器に戦う王者の競技である。
もちろん、ヒナとて<プロレス>の単語を知らないわけではない。
だが、この<白薔薇>とも讃えられる優雅な上級生とその単語はどうしても結びつかない。
(だって、プロレスってあれでしょ。でっかくてマッチョな人たちがパンツ一枚で殴り合う――)
ヒナのプロレスに対する認識はこの程度である。
その認識の齟齬が、眼前の悲劇を生んでいた。
わなわなとおののく指をヒナの手から離し、鳥子は言った。
「ま……、まさか、緑川さん……、あなた、プロレスファンではいらっしゃらないの?」
「はあ。まあ」
ヒナの知っている唯一のプロレスラーは蝶野さんだ。試合がどうとか、闘魂三銃士がどうとか、黒のカリスマがどうとかでなく、ガキ使に出ているから。
「そ、そう……なの」
「しっ、白瀬さん!?」
ヒナはぎょっとして体をのけぞらせた。鳥子の滑らかな頬に、白珠の如き涙が伝ったからだ。
「いやだ、ごめんなさい……」
ほろほろと落ちる涙を拭いもせず、鳥子は沈痛な声で謝罪した。
「勝手に勘違いして、勝手にはしゃいで、わたくしったら馬鹿みたいね。あなたのご迷惑も考えず、いそいそとお茶会に招いたりして。あなたをお仲間だと思っていたの」
「白瀬さん……。ぷ、プロレス、お好きなんですか?」
「好き――?」
鳥子の唇が、ふっと悲しげな笑みを刷いた。
「プロレスは、わたくしの生きる意味ですわ」
「おっと……」
思ったより、重症だ。
「先月の日曜、偶然、あなたをお見かけしたの。あなたはバレクラT-シャツを着てらしたわ。わたくし、すごく嬉しくなって……一緒にプロレスのお話ができたら楽しいだろうなあって、ここのところ、そんな風にずっと考えてたの。わたくし、プロレスのお話ができるお友達がいなかったから……」
<バレクラのT-シャツ>とは、黒地にドクロが描かれた凶悪なデザインのもののことだろう。兄のお下がりだ。ドクロの上には、たしか<BULLET CLUB>と書かれていたっけ。
「ご、ごめんなさい、白瀬さん! わたし――」
ヒナが謝る道理など全くないのだが、思わず口にしていた。道理が膝を屈するほどに、彼女の涙は美しく、寂しかった。
「わたし、プロレスのこと勉強します! 白瀬さんとお話ができるように!」
鳥子はゆるゆると首を振った。
「いいのよ。無理矢理<勉強>するなんて、あなたにとってもプロレスにとっても良くないもの」
今日は来てくれてありがとう――と、濡れた声音がささやいた。
それは、お茶会の終わりを告げていた。
お茶会の日から三日が経過していた。
放課後の教室は、いつだって華やかな嬌声に満ちている。はしゃぐクラスメイトたちの群れからぽつんと離れ、ヒナは自席につっぷしていた。
(ああ、こんなことになるなら、お兄ちゃんのプロレスの話、もっと真剣に聞いとくんだった――!)
ヒナの兄はプロレスファン――プロレスオタク――プオタである。
口癖は「プロレスで例えると」だった。二言目にはプロレスプロレス言う兄は、正直、ウザかった。兄のせいでヒナはプロレスに軽い嫌悪感すら持っていたほどだ。
だが、今となっては後悔しかない。
三日間、ヒナは繰り返し、あの日の鳥子の様子を思い出していた。
咲き初めの薔薇のように優雅なあのひとは、プロレスの話を始めたとたん、子どもみたいに頬を紅潮させ、目を輝かせた。どんな洗練された挙措よりも、あの表情をヒナは美しいと思った。
なのに――。
(わたしが、泣かせた)
あの白梅の花弁に落ちた露のような涙が、ヒナの胸を刺す。
――冷静に考えれば、ヒナが心苦しく思う理由はカケラもない。冷静に考えれば、非は鳥子の勘違いに100%ある。そもそも、プロレスに興味がある乙女は希少種すぎる。
だが、理屈ではないのだ。
後悔と罪悪感で押しつぶされそうだった。
ううう、とヒナはつっぷしたままうなった。
いつ果てるとも知れないその行為を止めたのは、あわてたようなクラスメイトの声だった。
「ヒナっ! 大変だよ、早く起きて!」
「ほっといてよう……。落ち込んでるんだから……」
「そんな場合じゃないよ! ヒナに会いたいって人が来てる!」
「ええー? 誰ぇ……?」
のろのろと上げた視線の先には、クラスメイトの真っ赤な顔。そして彼女の肩越しにのぞく、教室のドアの向こうに――
「し、白瀬さん!?」
クラス中の視線を集める白薔薇は、優雅に会釈して見せた。
「あなたに謝りたかったの」
あの日と同じ、白亜の<舞藤舘>の長椅子に腰かけて、開口一番、鳥子は言った。
「そんな!」
その隣に腰かけたヒナは立ち上がった。
「わたしが悪かったんです! わたしこそ、ずっと白瀬さんに謝りたかった!」
まあ、と目を丸くして鳥子はヒナを見上げた。そしてふっと吹き出して、
「わたくしたち、なんだか謝りあってばかりね」
そして、ヒナの手を優しく引いて座らせる。
「ねえ、聞いてくださる? 勝手に勘違いしたこともそうだけど、わたくしの本当の罪はあなたを拒絶したことなの」
「拒絶?」
「ええ」
うなずいた白い横顔に、少しだけ苦いものが走る。
「あなたはプロレスを勉強するって言ってくれたでしょう? わたくしはそれを拒絶したわ。そう言ってくれる人がどれだけ貴重か、そう言ってくれる人をどれほど大事にしなくてはならないか、プロレスファンは誰よりも知っているはずなのに」
「白瀬さん……」
遠く悲しい過去に思いをはせるように、鳥子の眼差しが揺れている。
「だから」
眼差しが<現在>に引き戻される。
力強い、しなやかな光輝をたたえ、視線がヒナを捕らえた。
「改めてお願いしたいの。わたくしと――お友達になってくださる?」
息をつくのも忘れるほどの衝撃だった。
わたしなんかでいいんですか――とか、ご迷惑になりませんか――とか、さまざまな言葉が胸の中を駆け巡ったあと、押し出されたのは、
「はい! わたし、プロレスをきっと好きになります!」
という言葉だった。
いつの間にか、ヒナは鳥子の両手を包み込むようににぎっていた。体温以上に暖かなものが、手のひらを通じて流れ込んでくるような気がした。
「――ありがとう、緑川さん」
静かな湖に似た瞳に、さざ波が立つ。柔らかな涙は、今度はこぼれ落ちることはなかった。
「わたくし、本当は泣き虫なの。皆には内緒よ?」
甘い羞恥を振り捨てるように、鳥子はいたずらっぽく笑った。
「それより、わたくしのことは<白瀬さん>ではなく名前で呼んでいただけて? お友達なんだもの」
「わ、わたしのことも名前で呼んでください。<ヒナ>って言います!」
知っててよ、と鳥子は笑みを深くした。
「それじゃあヒナさん。さっそく来週のお茶会にご招待してもよろしいわね?」
「はい、鳥子さん。楽しみにしてます」
うふふ、と笑い合った一瞬後、鳥子は勢いよく立ち上がった。
「鳥子さん?」
「そうと決まったらこうしてはいられませんわ! 来週までに、あなたにおすすめの試合をピックアップしなくては! プロレスで例えるとあなたはいわば練習生! 新日で例えると入門したてのヤングライオンですもの! 最初が肝心だわ!」
「と、鳥子さん……?」
「ああ、やっぱり王道の新日かしら? 初めてご覧になるならすごさが分かりやすい試合がいいわよね。となると攻防めまぐるしいハイフライヤー対決……リコシェVSオスプレイ……ミスティコ……カリスティコ……ドラゴン・リー? いいえ、ここは重厚感あふれるこれぞストロングスタイルといったもののほうが……。でも、里村選手のスコーピオライジングは絶対に見てもらわなきゃ……」
ぶつぶつ呟きながら、鳥子は部屋を歩き回る。
「あのう……鳥子さん……」
おそるおそる呼びかけると、今初めてヒナの存在に気づいたように鳥子は顔を上げた。
「安心なさって! プロレスで例えるとわたくしたちはタッグチームですわ。わたくし、全力でヒナさんのサポートをいたします。そう! あなたがレインメーカーだとするならわたくしはレインテイカー!」
そして、大輪の白薔薇が開くように堂々と宣言した。
「絶対に、あなたにプロレスの魅力を伝えて見せますわ!」
その笑顔に、なぜか似ても似つかぬはずの兄の顔が重なって、ヒナは少し――ほんの少しだけ――プロレスで例えるなら2.9カウントの残り分だけ――後悔した。
おわり
<用語説明>
※ベリー・トゥ・ベリー……フロント・スープレックスの別称。正面から相手を抱え込みブリッジしつつ後方に投げる技。
※新日……正式名称<新日本プロレス>。2019年現在、日本最大手のプロレス団体。
※レインメーカーとレインテイカー……2019年現在は関係を解消。おのれ外道さん。最高でした。
※ヒナの兄……患っているプオタ。