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第四話 魔王と勇者

血の匂いなど、とうに感じなくなっている。

 怒声、咆哮、悲鳴、絶叫、

 目を背けたくなる光景がそこに広がっていた。

 血に染まった大地は、先ほどまで動いていた肉片が散らばり、脈打つ臓器をまき散らしている。

 そんな中、彼は女を探した。

 見つけた。

 そう遠くはない。彼は女までの道に立ちふさがる者を蹴散らす。

 そして、ついに目の前に立つことが出来た。

「すまない―――」

 愛する者を胸に抱こうとした時、

 光が見えた。

 少し離れたところから光が飛んでくる。

それは眩い輝きを持って、一直線にこちらへと向かってくる。

あまりにも突然で、あまりにも一瞬のことだった。

その光は、女の胸を通り抜け、彼を射抜いた。

 彼は動けなかった。

 彼の胸には輝くナイフが刺さっている。けれど、それが問題ではない。

 ガクリと、目の前の女が膝をついた。

 胸から血を流し、その目はすでに閉じている。

「あ、ああ……あああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁああアアアアアアアアアァァァァァアアアア」

 慟哭。

 その叫びに、地は裂け天は崩れ落ちる。

 彼は、光を放った人間の頭を握りつぶしていた。

 それは女を攫うようにしむけた、勇者の仲間であった。

 だが、そんなことはどうでもよかった。

 憎い、

 女を攫った者が。

 憎い、

 それを知っていた勇者が。

 憎い、

 勇者という人間が。

 憎い、

 人間が憎い。

 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎―――

世界は闇に包まれた。

勇者と呼ばれていた少女は思った。

これが報いだ。

勇者一行を名乗っておいて、やったことは闇と同じである。

 自分たちは当然の報いを受けているのだ。

 けれど、償いをしたい。

 少女は倒れている女を見つけた。

 それは、彼が愛していた女であった。

「お墓を立ててしっかりとしっかりと送らなきゃ。私に出来るのはそれくらい……」

 少女は女の体を抱き上げようとした。

 その時、少女は気が付いた。僅かに息があるということに。

 周りを見渡しても、彼の姿はない。

 彼は自分を見失っていた。そうでなければ、あんな力は出せない。

 少女は鎧を脱いで、女を優しく背負う。

 早くしなければ、女が死んでしまう。

 少女と女は、戦いの火が及ばない場所を目指して旅立った。

 国を一つ滅ぼした後、彼はこの場所に戻ってきた。

 女を埋葬するためにだ。

 だが、そこに女はいなかった。

 あるのは、勇者が着ていた純白の鎧。

 奪われた。

 愛する者を痛めつけ、囮とし、殺した後でさえ、まだ利用するというのか。

 彼は純白に輝いている鎧を、踏み砕く。

 そして、決めた。

 愛する者を奪った人間を許しはしない。

 彼は魔王となったのだ。

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