全ての始まり
僕が、彼女を殺したんだ…僕のこの手で…
小さい頃から、僕はずっと無口だった。
そのせいでもあるのか、必ず誰かに心配される事があった。
でも、本当は全然大丈夫じゃなかった、僕は喋らないんじゃないんだ。喋れないんだ。
6歳の頃、僕は祖父の家に行くことが多かった。
1番の理由は、近くにある裏山で降り注ぐ日光を浴びたり舗装された道を歩いたりと体を動かすことだった。
あの日も、僕は祖父に「裏山に行ってきます!」と言って駆け出した。
裏山に向かっている途中で僕はすぐ側に車が止まったのに気づいた。
「どうしたんだぃ?坊や迷子なの?」
「違うよ、これから裏山に遊びに行くんだよ!」
思えばこの時、無視して先に進めば良かったのかもしれない。
「送っていってあげようか?」
「近くだから大丈夫!」
「大丈夫だって」
僕は、強引に腕を捕まれて車の中に引きずり込まれた。
僕は、誘拐された。
気がついた時には僕は暗い倉庫の中に閉じ込められていた。
何度も何度も叫んだ、でも…反響で声が帰ってくるだけでなんの意味もなかった。
しばらくして、僕は誘拐した男達にたくさん殴られて、舌と声帯を麻酔無しで奪われた。
景色が赤くなって、紅くなって、朱くなって、僕はその後の記憶がない。
気がついた時には病院に居た。
「…!…!……」
僕は、喋れなくなった。
声を失った、誰とも話すことが出来なくなった。
テレビで見た事も、好きな本について発表する事も、好きな人に想いを伝える事も…出来なくなった。
(どうせだったら、死ねば良かった…)
僕は、そんな事を考えながら小学校、中学、高校と進んだ。
中学から、バスケ部に入ってスポーツ推薦で高校に入った。
面接は…紙とペンで受け答えをした。
(高校生か…)
僕は、高校に入ってもあまり環境は変わらなかった周りから見ると「無口な人」だから、やはり僕を心配する人は多かった。
そんな中、高校2年の頃に僕にいくつかの転機が訪れた。
まずひとつは、1つ年上の先輩が僕と同じクラスに留年生として来たこと。
その先輩は「秋山零」と言う名前だった。
「なんだ、お前喋れないのか?」
『なんで分かったんですか』
「だってお前さん、一回も声を出したことないだろ」
零先輩は、すぐに僕の秘密を暴いた人でもあり僕の良き理解者でもあった。
筆談で話すことが多い人でもあった為に、僕は敬意を持って「零師匠」と呼んだ。
「あー、そかお前もバスケ部か」
『零師匠もバスケ部なんでしたよね?』
「そ、まぁお前よりも長くやってるしな」
共通のバスケ部での会話で盛り上がったり、どこかに一緒に出かけたりと、周りから見るとある意味で兄弟みたいな関係になっていた。
「卒業したら、離れ離れって言うけどお前とはなんかそぅいう気がしないな」
『何言ってるんですか零師匠「心はいつもそばに」でしょう?』
「違ぇねぇな」
まだ、他にも転機はある。
それは、後輩が出来たことだ。
「1年の桜木真実です、よろしくお願いします!」
「よろしくな、桜木」
挨拶している零師匠を横目に僕は体調不良で見学していた。
だが、しばらくして
「先輩の名前はなんですか?」
休憩時間になってから真実は急に僕に話しかけてきた。
僕は、鞄からノートを取り出して名前を書いた。
『霧雨之虹嵐』
「…なんて読むんですか?」
流石に僕も自分の名前を書くのは恥ずかしいけど、先輩としての意地があった為にカタカナで書いた。
『キリサメノグレン』
「あ、そぅ読むんですね!」
彼女とも筆談で話すことが多くなった。
少なくとも、僕のある転機に関わったのも彼女がきっかけなのかも知れない。




