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弱小専業FXトレーダーLv-500  作者: 墨染拍朗
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プロローグ・仕事を辞めても胃痛。

 俺は専業FXトレーダーだ。年齢は28歳。独身。

 2年前、資本金500万程度で投資を始めた。

 まず株で200万負け、FXで300万負けた。レベルをつけるなら、-500の、弱小専業FXトレーダーだ。


 時は遡って今年の2月。確定申告の月。

「終わってしまいました」

『なんで上がるって言ってたのに売ってたんだにゃん』

「仕事で疲れて眠かったんだ」

『眠い時はやるなよにゃん』

 パソコンのチャット画面。話し相手は俺のオンラインゲーム友達だ。

 俺がFX投資をし始めてからの付き合いで、戦闘報告を毎日している。

「眠いことに気づかなかったんだ。これでFXで-300万か。どうしたらいいんだろうな。どうしようもないか」

『慎重にやれにゃん』

「わかった。眠くない時にやる」

 思ったことが溜息と共に、つらつらと画面に流れていく。

 この時の俺は、仕事をしていた。看護師だった。きつかった。

 特殊な部署でやりがいはあった。人間関係も良好だと周りの人は言っていた。

 こんなに良い職場はないのだと、よく言われていた。

 それはそう言った先輩や、同期にとってはそうだったのだろう。

 俺にとっては、耐え切れない職場だったのだ。

 定時で帰れても、夜勤が無くても、総合病院という安心感があっても。

 他の部署ではできない特殊な技術を身に着けることだけは、楽しかったけれど。

 足底筋膜炎、腰痛、胃痛、胃潰瘍、過食、過眠、自律神経失調症。

 病名が増え、耐え切れなかった俺は、負け組なのだろうか。繊細過ぎたのだろうか。

 アダルトチルドレンながら、精いっぱいやって、周りにも認められていたのに。

 年度末に、逃げ出すことを決めていた。

「もう少しだから。もう少ししたら、解放されるから、落ち着いてやる」

 落ち着いてやったところで、勝てる保証なんかないけれど。

『そうしろにゃん』

 あの職場で働き続けるのはいやだった。

「あぁ、そうする」

 もう、一般社会と関わることが、怖かった。

「できるところまで、やってみるよ。まずは確定申告からな」

 去年株で失敗した、200万の損失届けの確定申告をパソコンで制作し終えて、仕事がもう少しで辞められることを思えば、気分は、軽かった。


 4月。俺は晴れて専業トレーダーになった。FX専門だ。

 資本金は36万円。

 少ない。少なすぎる。少ない。

 俺、28歳だけど、貯金、一応まだこれの他にあるけど、資本金としてはここが限界。

 確定申告をした後、さらに40万FXで負けていた。540万ほど負けている。

 ネットを見ていると、10万から億トレーダーになったとかあるけど、そんなものは目指していない。

 年金と、健康保険の、5万だろ。生活費の、10万だろ。最低、15万あれば、どうにかいける。いけると信じてる。

 最初にFXを始めたのは、去年の11月だった。

 資本金は4万円。すぐに8万になったので、資本金を増やした。すぐに100万円増えた。

 それがビギナーズラックだと思ってはいたけれど、勉強もして、いけると思った。

 11月からの目標は、1日2万、月40万だった。

 あの時は簡単だと思ってた。そんな都合よくは無理だと思いながら、簡単だと思ったのは、1日4万や10万稼ぐこともできたからだ。

 それから、損切りラインを引かなくて失敗して、悲しいことになったのだけど。

 で、今の目標。

 専業トレーダー1日目、10時から初めて、4時間で+4920円。

 ここまではいいけれど。

 含み損、-5020円。

 トータルはマイナスだ。まあ今日1日あるから、どうとでもなりそうだが。

 M15、M30、H4足は下降トレンド、H1足の上昇トレンドがあるから、上に行っても下に行ってもおかしくはないが、テクニカル重視の俺はとにかく待つしかない。

 月曜日はボラも低いし、レンジだし、待つ間に何をしようか。

 チャットには常に、相棒がいる。こいつはイラストレーターだ。

 収入は週五勤務のフリーターに少し及ばない程度らしいが、家での生活歴は長い。

 俺のことを気に入ってくれているらしく、話しかければすぐ反応をしてくれる。

 一緒にレンタルDVDを見たりもする仲だ。同時にボタンを押せば一緒に観れるのだ。

 仕事できつい時も、一緒にドラマを観たり、アニメを観たり、楽しい時間を一緒に過ごしていた。

 今日も、落ち着いたら映画を見ないかと言ってくれた。

 落ち着いたら、というのは、FXのことではない。

 FXは土日以外、24時間動いている。もちろん、FXのことも含まれた発言だろうが。

 俺は仕事を辞めて、3日が経過していた。

 正確には、4月から15日までは、有給消化なので、3日の今はまだ無職ではないけれど。

 辞めて次の日から胃痛が悪化し、吐気に襲われ、起きているのも辛い状態となっていた。


 テーブルを観ると、今朝9時に起きて作った雑炊が無くなっていた。

 昨日は蟹雑炊の素を使って、蟹雑炊を作ったが、美味かった。料理は嫌いじゃない。

 今日は、最高に身体に悪い雑炊を作った。

 材料は、赤いの鍋の素の中に入っている辛みつけの味のないひたすら辛いやつ(肝心な味のついた素は切らしていた)、豆腐、チーズ二枚、餃子、サラダ少々、塩辛のエビ、アジの素、たまご、酒、白だしだ。

 正直、後から咥えた塩辛は、先日北海道物産展で気持ち悪いのにどうしても欲しくて買って、期限が2週間ということで我慢できずに上に乗せたんだが、少し食べただけで気持ち悪さが増した。

 それでも、根性で雑炊を完食した。

 気持ち悪いのと食欲は別なのだ。

 俺はスタイルはわりと良い方だ。燃費が相当悪いに違いない。

 今までハードワークだったというのもあるが、昔から何故か太りにくかった。

 その昔病弱な少年から通常の少年まで回復した時は体重が1年で2倍になったが、標準以下だった。

 人一倍食べるのに。何故か太らない。お腹がすく。

 つまりは、エンゲル係数が半端ない。

 稼がないと、好きな物が、健康的なものが、食べられなくなってしまう。

 あからさまに傷病手当がもらえる理由で会社を辞めたが、俺は一身上の都合で退職したことになっている。

 つまりは自己都合ての退職だ。

 会社都合でないと、傷病手当のお金は支給されない。

 勇気が無かった。

 心療内科に通い、診断書を貰う勇気がなかった。

 人間、限界に達すると、死にたい通り越して、死にたくないと思うらしい。

 震えが止まらずパニックになった俺は、心療内科を受診し、薬で落ち着いたことがある。

 だけれども、看護師とは別の仕事をしていた当時、医療の知識のなかった俺は、薬を勝手に中断したのだ。

 理由は、脳に作用して、こんなに効果がある薬を、飲み続けることが怖かったから。

 そして今回は、病院に行くこと自体が、怖かった。

 職場の人に、精神疾患があると思われることが、嫌だったからだ。

 仕事のできる人。

 そのままのイメージで辞めたかった。

 何より、会社を退職するのは大変なことだった。

 辞めさせてもらえなかったからだ。

 退職理由を鉛筆書きで書かされるような状態で、会社都合にできると思わなかったし、戦う心の強さは残っていなかった。

 FXを観る。上がっている。俺はドル円しか観ていない。

 専業になったら他の通貨も観ようと思っていた。

 ボラティリティが高く、トレンドがある通貨がいいから。

 しかし今日みたら、ドル円が一番動いている通貨だった。

 月曜はドル不足。加えて今日は中華は休みらしいとどこぞで見た。

 日経平均はあれだけ下がっていたのに、これだけドル円が上がるのはなんともだが。

 時計をみれば、もうすぐ15時。日本株の時間が終わる。

 もう少し、様子を見るか。損切りラインまではまだ遠いし、天井でナンピンするか、今買って、…買うには、値段が高すぎる。もう少し下がってから、買うなら買おう。

 どんどん上がって行くチャートを観ながら、俺は鍋いっぱいに作った雑炊のおかわりを取りに向かうことにした。

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