エピローグ
さて、アルバートとの決着がついた直後。
ギルドを出た帰り道。俺たちは街を歩いていた。
『ユリア。怖い思いをさせてしまってゴメンな。アイツをやっつけるには、この方法しか思いつかなかったんだ』
「ユリアなら平気だよ。もともとユリアがしちゃった契約のせいだもんね。それを助けてくれたナスキーにはお礼しか言うことはないよ」
『そうか、それなら良かった。これからはもっと俺に相談して欲しい』
「うん、頼りにしてるよ、ナスキー。もう、あんな怖い思いはしたくないもん」
俺としてもこんな方法は二度と使いたくない。ユリアを危険にさらす作戦なんて、今後一切封印だ。
にしてもだ、
『なかば強引に獣人にしてしまったが、本当に良かったか?』
「大丈夫だよ。今までと何も違わないし。むしろ、お耳が生えて聞こえが良くなったよ。それに、しっぽをスリスリすると、なんか気持ちいいの」
『それは止めておけ』
尾ナヌーを覚えるのはまだ早い。まったく、いけないゲームだ。
にしても、無事に艱難を乗り越えられて良かった。
人型でありながらペットになったユリアは、一見非人道的な扱いを受けているように見えるが、この世界ではむしろ勝ち組である。
ペット最大の強みである、税金の全額免除を最大限利用してチート無双できるのだから。
強力な装備とスキルを揃えれば、LPを代償に反則的なスキルを連発できる。冗談抜きに、ゲームクリアに一番近いのはユリアかもしれない。
それにしても、今回ばかりは精魂疲れ果てた。もう二度とこんなめにあうのは御免だ。
さて、今日ぐらいはゆっくり疲れを癒そうじゃないか。せっかく念話を覚えたことだし、ギルドにも登録できたのだから、銭湯に入れないか番頭のお姉さんに交渉してみよう。ダメもとだ。
銭湯に到着すると、番頭さんに触れて念話を送る。
『ギルドに登録したのだが、銭湯に入れてもらえないだろうか?』
「ほう、お客さん、ギルド員なのか。それなら断るわけにはいかないか。お湯を汚さないように桶をつかってくれるなら構わないよ」
え? マジで!? いいの!? よっしゃぁああああああああああああ!
銭湯に入れるならしめたものだ! 今日こそは桃源郷をのぞいてやるニャぁあああ!」
俺は意気揚々と『男』と書かれた暖簾をくぐった。
「ナスキー、一緒に入ろうよ!」
『ははは。それは魅力的な提案だが、ユリアはちゃんと女湯に行きなさい。この世界には危険な男が多くいそうだからな』
そうやんわり断る俺だが、
「おいおい、お客さん。そっちは男湯ですよ。あんたはこっち」
え? 一瞬何を言われたかわからない。
番頭の姉さんはなぜか『女』と書かれた赤い暖簾を指差す。なぜ、俺が、えっ?
突然、血の気がサァーッと引いてゆく。
何だこの胸騒ぎは。知ってはいけないことを知ってしまったような感覚は……。
瞬間的に過去の記憶が呼び起こされる。
「『ずいぶん高い声をしているんだね。まるで少年のようだ』
『ユニコーンの皮は、処女以外が触ると反撃されるのです』
『アルバートさんを訴えたのは彼女です』 」
俺は衆人観衆の前であることを気にも留めずに、ひっくり返って足を開く。恥もなくV字開脚。覗き込むように自分の股間を凝視…………。
――――ない。
そこのあるはずの二つの袋がない。
バカな! どうして! 何で!
「急にどうしたのナスキー。早く入ろうよ。ユリア、早く汗を流したいの」
『え、ええ、えええ!? どうして、なんで? そんな……!?』
きっと、まだ子猫だから成長していないのだろう。そうだ、きっと、そうに違いない。
俺は現実逃避気味に自己暗示をかけ始めるが、
「ほら、行くよー」
『ま、待て、違うんだ、ユリア、俺は、俺は……」
「何が違うの? だってナスキーは――」
やめろ! その先を言わないでくれぇええええええええええ!
しかし現実は無情だ。
ユリアはキョトンと首をかしげると、ついにそのシンプルすぎる答えを口にした。
「――ナスキーは『女の子』でしょ」
――女の子でしょ……
――――女の子でしょ…………
――――――女の子でしょ………………
脳内をそのフレーズが何度もこだました。
ジーノに声が高いと言われたのは子猫だからじゃなくて、メスだったから。ウインクされてゾワリとしたのはメスの本能が反応したから。処女しか触れられないユニコーン製のランドセルに乗れたのも、メスの処女だったから。極めつけは、ギルド嬢が『彼女』と言ったこと。ステータスを詳しく見られるギルド嬢は、俺すら知らなかった本当の性別に気付いていたということ。同じ理屈で番頭のお姉さんも性別判定していたこと。
あらゆる事象が、その結論を肯定していた。
そんな、バカな!? 俺が、メス猫だっただとッ…………!?
そんなことがあってたまるかぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
自分の存在が分子レベルで分解をはじめて砂となって消えていくようだ。この世の終わりだ。何もかも全てが無に帰すのだ。
放心状態の俺は魂が抜けたように微動だにできなくなった。
ユリアはそんな俺を抱える。フリーズしたパソコンのように動けない俺はそのまま女湯の暖簾を通過した。
が、そこで、一気に再起動!
メス猫だったことはアイデンティティーが土台から崩壊するほどショックだが、裏を返せばオス猫にはできないことができるということだ。たとえば、
――――女湯に、合法的に入る……とかなッ!!
暖簾をくぐり、通路を進む。天井の照明が天の光のように神々しく輝いている。そして、その先、開けた視界に映ったのは、まごうことなき聖地! 桃色の脱衣所!
ぷるるん♪
ぷるるん♪
ぷるるん♪
キタァァアアアアああああああアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
リアルに再現されたネクラ世界は肌のきめ細やかさまでしっかりと表現されている。どこからどうみても本物の肌にしか見えない完成度。
質感、色、形、匂い、音、光が当たって生まれる影、全てが現実としか思えない。
浴場に入れば、めくるめく肌色の世界。
水を弾く肌。揺れる希望の双子山。きゃっきゃと、可愛らしい女子の声。「おねぇさま、らめれすぅ~」と後ろから抱きすくめられながら形を変える双子山。
全てが包み隠さずにさらされたこの世の希望たち。世界の宝が全て集められたかのような神聖な空間。
ぷるるん♪
ぷるるん♪
ぷるるん♪
――女湯って、こんなに素晴らしいものだったんだね。
「きゃぁ、あのこ、可愛くない?」
「ほんと、行ってみましょう!」
女の子たちが俺の周りに群がってくる。
「へー、ネコって言うんだ。ちょっと抱いてもいい?」
「あ、ずるーい、あたしも!」
頭をなでなで。背中もなでなで。喉もなでなで。しっぽをシコシコ。
競うように順番に抱っこされて、次から次へとおっぱい枕の使い心地を教えてくれる。
そうだよ! これだよ! これこそが、俺の求めていた反応だよ!
ネコは可愛いんだよ! 超絶愛らしい天使なんだよ! これこそがネコを目の前にした人間の正しい反応なんだよ! ネコを大切にしない世界は間違っているんだ!
おっぱい! おっぱい!
美人で巨乳なお姉さんの、おっぱい! おっぱい!
この世の楽園だ。ここが天国だ。
俺は鼻血を抑えながらいつものセリフを準備した。
こんなクソゲーは…………いや、
――――ネクスト・ライフRPGは、
――――神ゲーだぁあああああああああああああああああああああああああああ!!
おわり
一応これで本作は完結となります。楽しんで頂けましたら幸いです。
約1ヶ月の間お付き合いくださり、ありがとうございました。
皆様の支援のおかげで、無事、完結することができました。
執筆はこれからもちょくちょく続けていくつもりですので、ご縁がありましたら、また別の作品でお会いしましょう。
ではまた。




