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1-1 猫に優しくない世界に存在価値などない。

初投稿です。よろしくお願いします。

注意。本作は他の作者様が更新されるまでの暇潰し用の駄文ですので、過度な期待をしてはいけません。

一応12万字前後で完結確定です。

序盤辛い → 中終盤で逆転 → ハッピーエンドの流れになると思います。




 子供の頃の楽しかった思い出といえばゲームをすることだった。


 昔から人付き合いが苦手で、毎日決められた時間に起こされて決められた学校に通学する。そんな何もかも大人に決められて窮屈な思いを強いられる日常の中で、唯一自由に選択できるのがゲームの世界だった。

 ゲームは良い。あらゆることが自由に決められる。キャラメイクも、旅をする方角も、仲間にするキャラもみんな思いのままだ。


 それに比べて人生とはなんと不自由なものだろう。

 生まれも種族も時代も何もかも勝手に決められる。しかも生まれながらに性能差も成長率も決められていて、生誕の瞬間から既に優劣が決まっているのだ。しかもその後バランス調整が行われることもないので、結局最初から勝ち組と負け組みが決まっているようなものだ。


 ゲームの良いところはそれだけではない。

 プレイヤーが困らないようにいつも親切なサポートがついている。行き先がわからなくなったら道案内をしてくれるお助けキャラが現れる。弱い敵から順序良くエンカウントして順調に成長できる。アイテムも情報も全て自動的に整理整頓されて掃除の必要もない。怪我をしても病気になっても死んでも簡単に治る。

 世界の端から端まできめ細かい気配りが行き届いていてストレスなく人生を謳歌できるのだ。


 それに比べて人生とは……。


 生まれながらの格差。ランダムで決められる能力値。勝手に進む時間。セーブもリセットもできない強制ハイパーリスク主義。文明が進みすぎてもうどうにもできない世界観に、誰得だよと言わんばかりの残酷なシナリオ。自分を愛してくれる可愛いヒロインなんていないし、そもそも世界のほとんどの人間は自分になど興味すらないのだ。

 

 ゲームの人生とリアル人生の落差に絶望した俺はいつの頃からか確信した。


 ――人生はクソゲーである。


 それに気付いてしまったときから、俺は現実の人生に興味を持てなくなった。

 だからゲームオーバーのときが来たときも、たいした感慨は生まれなかった。


 ――暴走トラック。

 ――ドーン!

 ――チーン……。


 人の死なんて、たった三行で表せるほど脆い。

 自分が死ぬ瞬間ですら、俺の心は動かなかった。むしろクソゲーに相応しいつまらない死に様だとすら思った。





 あの時は確かにそう思った。

 だが、もしも今の自分があの時、生前の自分に一言だけ伝えられるとしたら、こう言うだろう。







「バカ野郎ッ!! 今すぐ心を入れ替えて真面目に生きろぉおおお!!」








 そう叫ばずにはいられない。

 なぜなら……、




『人生なんてクソゲーだと思って死んだら、来世はもっとクソゲーでした』





     ◆





 ここは、どこだ!?

 突然意識が覚醒すると、目の前には広大な平原が広がっていた。


 やけに視線が低い。草の絨毯が喉元近くで生え揃っている。地面にうつ伏せになっているような視界だ。視線をさらに落とせば獣の前足らしきものが映る。毛色は漆黒の黒に、つま先部分だけが靴下を履いているように白い。さらに足裏には桃色の肉球が備わっている。


 そしてあろうことか、この獣足は自分の意志に従って動くみたいだ。何故にこんなことが……、その理由は一つしかない。


「にゃぁあああああ!?(なんだこれは!?)」


 思わず吐いた言葉はしかし人のそれではなく、まごうことなき猫のモノ。


 ――俺、猫になっちまったのか!?


 わけがわからず、周囲を見回す。と、自分の背後に巨大な生物の足首がそびえ立っていた。


 ――な、なんだ、この化け物はッ!


 俺は即座に走り出した。生物としての本能が全力で警鐘を鳴らしている。

 だが、


 直後、腰周りの痛覚が針で突き刺されたかのように異常をきたし、さらには焼きゴテを当てられたように神経が焼けつく。そして僅かに遅れて到来する激痛。今までに感じたことのない極大の痛み。


 ぁがガ、ギャァアアアアアアア!!


 喉が破裂する勢いで絶叫しながら振り向けば、化け物が自分の腰に噛み付いていた。

 太く鋭い牙が自分の身体にに深く突き刺さり、傷口からは血がふき出す。神経を潰されたのか、後ろ足が麻痺したように動かない。


 獰猛な目つきの化け物はワニのような顔で、キリンのような長い首をしていた。その広い顎と長い首のリーチを生かして上空から自分を捕獲したのだろう。


 俺は残された上半身を必死に動かして暴れるが、ガッチリと挟まれた顎から逃れることはできない。

 そのまま上空へ引き上げられる。

 視線が上がったことで化け物の全容を視認することができた。

 四足歩行の恐竜のような風貌。岩のように硬そうな鱗状の皮膚。その隙間から体毛が飛び出している。そして特徴的な長い首が、――――二つッ!? 二首の竜だろうか。

 僅かな時間の中で得られた情報はそれだけだった。


 二股に分かれた首の片割れが上空で角度を変えて俺に迫る。大口を開き、俺の上半身に噛み付いた。


 ぐちゃり。と音を立てて俺の身体は真っ二つに引き裂かれた。

 下半身を失った俺は上顎と下顎に挟まれて圧迫される。

 ゴボリッと頭蓋を砕かれた瞬間に、俺の意識は消えた。



     ◆



 ――――ハッ!?


 今の光景は何だ? 夢か? 幻か?

 混乱の渦中に、俺は再び意識を取り戻した。

 自分が恐竜のような化け物に食い殺される情景を見た。

 慌てて身体を確認する。上半身と下半身はしっかりと繋がっている。足も無事だ。しっかりとした後ろ足が二本、そして前足も二本。全身を覆う黒い被毛も健在だ…………って!?


 ――猫のままじゃねーかッ!


 全てが夢オチであったことを期待した俺の願いはあっけなく砕かれた。

 さっきの出来事はやはり現実だったのか? いや、だとすると、どうして自分は生きているのだろう?


 理解を超えた事象。答えを求めて視線を動かすと、俺の混乱はますます深まった。


 ――どこだよ、ここは?


 薄暗い視界に目が慣れると、眼前には岩肌がむき出しの一本道があった。そしてその左右を高い崖が挟んでいる。天に届きそうなくらい高い両壁に挟まれて、ただ立っているだけで精神的圧迫を感じる。頭上に広がるはずの青空は大部分が岩壁に遮られ、上空高くに蛇行しながら走る青い線から僅かな陽光が漏れ伝うのみだ。


 深い深い谷の底。


 つい今さっきまで草原にいたはずの俺が、一瞬にして谷底に移動した!?

 自分でも何を言っているのかわからないが、実際に起こった事象を端的に言い表せばこうなる。

 何が、いったい、どうなって? 

 あまりにも情報が錯綜しすぎてパニックを引き起こす寸前だ。

 とにかく落ち着け! 焦っても何も解決しない。


 俺は無意識に歩き始めた。歩行することで脳に血液を回し、少しでも現状把握に役立てようとしての行動だろう。

 しかし足裏から伝わる感覚は人間のそれではなく、肉球が大地に触れる感触だ。

 四本の脚部から伝わる電気信号。二足歩行の人間なら絶対に感じない感覚が、ますます困惑の種を増やす。


 何なんだ? 何なんだ?


 俺は確かに地球で死んだ。そしたら猫になった? 生まれ変わり? てか、その後すぐに死んだら、また猫になって蘇った!?


 確定していると思わしき情報を繋ぎ合わせてみても、やはり頭のイカレた精神病患者のような突拍子もないものにしかならない。

 自分の見た光景を疑うべきか。そもそも、自分の脳みそが致命的におかしくなったのか。


 なかば夢遊病患者のように呆然と歩き続けた俺だが、一瞬にして氷水を浴びたように意識が研ぎ澄まされた。


 ――何か来るッ!?


 野生の直感がそう告げている。

 反射的に身構える。

 やたら視界が薄暗い。ただでさえ太陽光が届きにくい谷底がますます暗くなって――ッ!?


 僅かな違和感の正体に気付いた俺は飛び上がるように上空を見上げた。だが、気付いたときには既に手遅れだった。


「ウニャァアアアアアアアア!」


 どでかい岩の塊が上空から猛然と降ってきたのだ。

 俺はありったけの力を込めて前方に飛んだ。だが回避は間に合わず、下半身が岩石に巻き込まれた。

 恐ろしい質量に押しつぶされて、しっぽと後ろ足が二本とも潰された。


「ギャァアアアアアアア!」


 尋常じゃない痛撃に、表情筋を引きちぎりながら絶叫する。

 それでも残った前足を使って必死に地面を這い蹲りながら前方に離脱した。


 岩から逃れたとき、右の後ろ足はグチャグチャに潰されて関節があらぬ方向へねじれ曲がっていて、左足は腿の先から完全に千切れ飛んでいた。


 視認したことで更に苦痛が増す。

 痛い! 死ぬほど痛い! いっそのこと全身を潰されて死んだほうがマシだ!

 もう、歩けない。

 ミリ単位で動かしただけで痛覚に高圧電流が走る。


 俺は地面に顔を擦りつけながら自分をこんな目に合わせた大岩を恨めしそうに睨むことしかできない。

 そのとき、岩がモゾモゾと動き出した。一人でに動き出した岩は中心部からパカッと二つに割れた。中からはカニの腹のような甲殻が現れた。


 ――こいつ、生物だったのかよっ!


 呆気にとられる俺をあざ笑うように頭を出した岩の化け物。まるで岩に擬態した巨大なカニのようだ。そのままゆっくりと近づいてくると、ハサミのような腕を伸ばして俺を捕らえた。


 うわあああああああ! やめろぉおおおおおおおおおお!


 カニの化け物が口を開く。中にはノコギリのような鋭利な牙が並んでいた。

 足を失った俺は抵抗することもできず、その牙にすり潰された。


 






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