人生の分岐選択肢はセーブもロードもできない
『...なんでしょうか?デバイスが喋ってはいけませんか?』
スマホ型のデバイスから聞こえてくるこの声
私を含む三人はあっけにとられてしまった
「...いやぁまさか喋ることのできるデバイスを作っちゃうとは...すごいね一鷹君」
「そうじゃの。ワシもこっちに来て長いが喋るデバイスなんぞ聞いたこともないわい」
『お褒めにあずかり光栄でございます』
そ、そんなにすごいものを私は作ってしまったのか...
なんというかこいつ
『願わくば私もこんなマスターではなく貴方方のような立派な方々のデバイスになりたかったものです。こんな唐変木なマスターのデバイスとは...先が思いやられます』
「...さっきからすごいいいようですね」
『当然です。私たちデバイスにはマスターを選ぶ権利はありませんがそれなりの理想のマスター像というものがありますゆえ。あなたは私のマスター像とは全然違いますのでとてもがっかりです』
いや、たとえそうだとしてもさすがに罵倒しすぎですよ
『...まぁそれでもマスターには素質がありますゆえ。私のような優秀なデバイスに選ばれただけありがたいと毎日感謝しなさい』
「あなた、マスターを選ぶ権利はないってさっきいいませんでしたか?」
『そうゆう細かいことを気にするからもてないんですよマスター』
「なぁ!?そ、それは今関係ないですよね!?」
『何を怒ってるのですかマスター?貴方のような冴えない、かっこよくない、ユーモアのセンスもない男なんかに本気で好きになってもらえる女性など存在するのですか?私ならもっとまともな男を選びたいです』
「お、おまえ~!!」
『ですからマスター...』
「あの喧嘩、いつ終わるんでしょうか?」
一鷹から少し離れたところで喧嘩の一部始終を見守ってる美智子とリオン
「...さあのぅ」
頭を掻きながら返答する
「ま、ほっとけばそのうち終わるじゃろうて」
「ぜー...はー...」
「お、終わったみたいじゃぞミッちゃん」
「何勝手に呼び方変えてんですか会長」
「え?だってワシらの仲をワンランク上げるには呼び方を変えないとじゃし」
「気持ち悪いからやめてください」
「ガーン...」
「え、あ...」
や、やばい、カッとなったとはいえ話の途中でこんなことを...
「す、すみませんでした!!!」
「ん?大丈夫だよ。気にしないで一鷹君」
こっちを向いてパッとニコニコ笑顔で対応してくれる佐藤課長
隣のリオン会長がなぜがすごい顔でみてくるのが気になるのだが...
「さてさてそれじゃ無事にデバイスも手に入ったし。そろそろ一鷹君の仕事内容の話に移るね」
「あ、はい」
「それじゃ会長説明を...会長?」
「...ミチコちゃんが...ワシのミチコちゃんが...ワシをいじめる...ぐすん」
「かいちょー?ほら仕事仕事」
「うう...ぐすん...」
...本気で泣いてるなリオン会長
それをぶんぶんと揺らす佐藤課長
「かいちょー?ほら元気出して。別に私会長のこと嫌いなわけじゃないですから」
「!!ほ、ほんとかい!?ミチコちゃん!!!」
「ウンホントホント。ホントダヨー」
あっ、嘘くさい...
「よ、よかった...リオン超うれしい!!!」
「はいはいわかりましたからそろそろ本題に戻りましょう」
「う、うむわかったよミチコちゃん!...ゴホン、さてと前村君」
急に真面目な顔に戻るリオン会長
「は、はい!」
「仕事内容なんじゃがな。うちのギルドには基本的には仕事を発注してもらってそれをフリーの冒険者や賞金稼ぎが引き受けてもらうようにしてもらってるんじゃがな」
「はい」
「君にはギルドに来る仕事をこなしていってもらいたい」
「...え?」
えーと、それはつまり
「わ、私に冒険者や賞金稼ぎのような仕事をしろと?」
「うむ」
え?
「い、いやいやいやそ、そんなのむりですよ!?」
「まぁ確かに最初から難しいものとかはしてもらわなくてもいいからまずは簡単なものからでも...」
「か、簡単なものといいますと...」
「例えば周辺の大量発生しすぎたモンスターを退治してもらったりとか、頼まれた素材を採取したりとか」
「えええええ!?いやですからそんなのただのサラリーマンの私には無理ですって!!だ、大体そうゆうのは先ほど説明してくれた専門の冒険家さんとかにお願いすれば...」
「残念じゃがそうもいかんのじゃよ」
「えっ?」
頭を掻きながら虫の居所の悪そうな顔でこちらをみてくる会長
「実は最近冒険者達の数が急に激減しているみたいでな、みな困ってるのじゃよ」
「激減って、辞めたってことですか?」
「ううむ、それが...」
「みんな"消えちゃった"みたいなのよ」
「えっ?」
き、消えた?
「ある日突然ね、結構な数の冒険者の方々の行方が分からなくなっちゃってね。原因は不明だしどこにいっちゃったかもわからないの」
「ギルドには一応ハンターリストという登録書があってのその登録者は2000人を超える人数が登録してくれてるのじゃが」
「いま確認できてるハンターさんは16人、しかもこの国に滞在してくれてる人は2人しかいないのよ」
な、それって一体...
「ワシのギルドはこの世界中に支店があるがどこも同じようなものでの、ギルドの依頼が成り立たんと商売にもならんし町の治安にも影響がででくる。そこで各国の支店の支店員に冒険者の代役をお願いしてるんじゃ」
「うちの支店も私を含めて今のところ4人いるんだけどみんなも協力してるの」
「そ、そうなんですか...」
「まぁ、いきなりの話で申し訳ないんじゃがの。じゃが社員の安全はワシが必ず保証する!それだけはわかってくれ」
「お願い一鷹君!私たちを助けて!!」
「え、ええっと」
ど、どうする
いくら仕事とはいえ異世界でモンスター退治とかって
しかも人がいなくなってるって
た、確かにこれは仕事だからこなさないといけないんだろうけどでも絶対に安全を保証してるわけではないでしょうし...
(やっぱり、断ったほうが...)
『何を考えてますか?マスター?』
!デ、デバイス?
『私はマスターのデバイスですからね。マスターの考えていることなんてお見通しですよ?』
そ、そうなのか
『怖いんですねマスター』
そりゃあ怖いさ
だって今日急にこんなところに呼ばれてただでさえビックリしているんだ
それで何が起こるかわからないところでモンスターを退治しろって...
『このヘタレ』
!!
『私のマスターはヘタレのフニャチン野郎といったのですよマスター』
お、おまえまた
『...先ほどのマスターはすごく格好良かったというのに』
えっ?先ほどの私?
『ちょっと調子に乗りやすくてヘラヘラし過ぎですが、周りの方から愛されておりましたのに』
調子に乗ってヘラヘラ...
(!高校のころの夢)
『いいえ、あれは夢ではありませんよマスター』
なっ夢じゃない?どうゆう
『あれはデバイスが人を選ぶときにまれに起きるタイムトリップ現象です。実際に過去に戻り私に邂逅する新たな歴史を作り出しているのです。あの時のマスターは私では理解不能な回答と予想外の結果を生み出してましたよ?』
...あの時か
さやかとミヤを助けたあれは...夢じゃないのか
『はい。その後の未来には大きく影響しませんがあれは現実です』
そうか
『...マスターがあの時どうしてあの2人を助けられたのか私には理解ができません。通常ならどのようなことがあっても2人のうち1人しか助けることができないようプログラムされてました。しかし、マスターは彼女たち2人を助けることができました。なぜですか?』
なぜって言われても...
『私にはわかりません。ですがマスター貴方はあのプログラムを打ち破り見事に彼女たちを助けました。あの時マスターは何を考えてましたか?教えてください』
あの時...あの時は...
(ただ、2人を絶対助けるって思っただけさ)
『それはあの2人が困って助けを求めたからですか?それともマスターのことを愛してくれていたからですか?』
(...どっちもさ。困っていたし私のことを愛していた2人を見捨てられなかったからさ)
『なるほど。ならマスター。貴方は目の前の助けを求めている2人を見捨てるおつもりですか?』
!
『見捨てるとおっしゃるのなら私にはさらに理解できません。確かにマスターを愛しているとは到底思えぬ2人ですが少なくともマスターを頼りにしてくださってるのは確かです』
...
『確かに恐怖とは目に見えないものであり何が起こるのかわかりません。ですからその感情に素直になることは決して悪いことではありませんが、マスター。いつまでもそうしていくわけにはいきません』
デバイス...
『恐怖から逃げ続けても何も変わりません。そして逃げ続けても未来は変わることはありません。今までのマスターはすべてから逃げることで変わろうとしなかった』
お、おいなんでそれを...
『言ったでしょう?マスターの考えていることはお見通しだと。あの時も結局2人から逃げてしまったから今も彼女がいないんですよ?マスター』
...さくら、ミヤ
『でも、一度だけその2人を助けるときだけ、マスター。貴方は逃げなかった。それがあの結果になったことの一つだと私は仮説を立てております。』
そう、あの時だけは逃げなかった
『だからマスター。私は思うのです。今逃げてしまえば、マスターは一生ヘタレのフニャチン粗チン童貞のままです』
...いくらなんでもいいすぎ
『ですが変わることができません。マスター今こそご決断を。もうこれ以上後悔する人生にならないためにも』
私は...
あの時もそうだった
2人の気持ちを知っていながらも答えが出せず
結局逃げることでいつもの日常を壊さないようにしようとした
でもそんなわけもなく大学を卒業して就職が決まったころ2人の結婚を聞いた
あの時私はどちらかの気持ちにちゃんと答えればよかったのか?
そうしたら少しは未来は変わったのだろうか
今となってはその答えなんかわかるはずもない
そうわからない
怖い
とても怖い
でも
2人は私を頼ってくれている
逃げたい
今すぐにでも逃げ出したい
でもだからって逃げてどうなる
怖いからって逃げてどうなるんだ
またいつものように後悔するかもしれないぞ
もうそんなのは嫌だろ
私は
ここで変わらないともう一生このままな気がする
だったら
答えは決まってる
「わかりました。その仕事やらせてくださいお願いします」
そう口にしていた
『それでこそ私の見込んだマスターです』




