どんなところでも新人は新人でしかないのだ
改めて佐藤課長と二人で町中を歩くことになったのだが
課長が手を放してくださらない
私より10㎝ほど小さい課長は握った手をぶんぶんと振りながら楽しそうににこにこ顔で歩いている
一応放してくださいとは言ってみたものの
「ダメダメ!じょーし命令ですはなさないこと!」と何とも理不尽なことを言われてしまった
この人、本当に上司なんだろうか...
とか失礼なことを思いながらもにこにこ顔の上司様は説明の続きを始める
「看板見てわかってるとは思いますが、ここは"アルタイロ"という国の城下町になります。ヴェプリーラにはいくつかの国と種族あるんだけどいまは詳しい話はいまはしないでおくね」
「なるほど」
「それでここに住んでいる人たちって、耳が少しとんがってるよね?」
確かにそうだ
私に話しかけてくれた二人組の鎧兵士達も通常人間の耳ではありえない長く尖った形である
「彼らは一体?」
「その人たちは"エルフ族"っていってね大きな特徴はそのとがった長い耳なんだけどもこの世界では立派な人間なんだよ」
「エルフ族、ですか」
「そう。魔法をつかうのが上手な種族なんだよー」
「なるほど...ん?」
今、「魔法」?魔法って言った?
そう思うと佐藤課長は意地悪くにやにやしだした
たぶん今私の顔は魔法という奇怪な単語を聞いたことにより面白い顔になっているのだろう
そしてちゃんと聞こうとすると目の前に何かがぶつかった
ちゃんと前を見ていなかった私の不注意だ
そう思い「すみませ」とまで声を出しながら相手のほうに目を向けると
巨大な岩が目の前にあった
デカい
デカすぎる
ゆうに3mはあるだろうその岩はゆっくりと動き出し(おそらく)口を広げると
「「おお、すまなかったな兄ちゃん」」
と頭に響く声で謝罪の言葉をいう
正直ぶつかったことよりこの言葉が響いて少し頭が揺れて痛いのだがと思うと隣にいた佐藤課長が喋る岩に話しかけ始めた
「こんにちはーロウルさん」
「「おぉ、みっちゃん。こんにちわ。ということはこの兄ちゃんもしかして?」」
「そーそーこの間言ってた新人さん。いま説明がてら町の案内をしていたの」
「「そーかーこの兄ちゃんが噂の新人かぁ」」
と仲良く談笑し始める二人
私は響く声にようやく慣れ始めてきたのだがこの騒ぎにわらわらと人が集まりだした
いや、厳密に言うと私の知ってる人間はいないのだが
先ほど説明を受けたエルフ族はもちろん
狐や熊が2足歩行で服を着てたり
小さいが立派な髭を蓄え背丈の倍ぐらいある金属のハンマーをもった人がいたり
腕が鳥の羽の人間や馬や牛の胴体に人の身体がついてるのや
透き通った液体状の人型の水とかどう見てもデカい人型トカゲなど
多種多様な人々が次々集まりワイワイガヤガヤと話しかけてくる
「あんた、カイシャからきた人かい?」「おっきたのかい。ようこそアルタイロへ」「ずいぶんとわけーな。年はいくつなんだ?」「その顔につけてるのミヤのににてるねーいっしょなのー?」「これでみっちゃんも少し落ち着くのかい?」「いやいや残念だけどそうそう楽にならないよ」「みっちゃんみっちゃんこいつもしかして彼氏?」「もーセクハラですよー」「「あはははははは」」
情報処理が追いつかずにわけがわからずふらついたと思ったら
急に疲れたのか騒がしい中
私の意識は
少しずつ
深いところへと落ちていった
......
「---て」
「--きーーーてーーーー」
「---じょーーーおきーーー」
「そろそろおきろーーー!!」
「うおぉ!?」
耳元で急に大きな声がした
その声に跳ね起きると見知らぬ場所だった
高級感のある装飾や赤い絨毯、ふかふかで柔らかいベットの上で目を覚ますと隣に佐藤課長がいた
「か、課長...」
「もーまた「課長」呼び?」
「あ、すみませんミチコさん。えっとここは?」
「客室よ。もういきなり町のど真ん中で倒れるからびっくりしたよ一鷹君」
「す、すみませんでした」
いやでもさすがにあれはビックリしてそうそうまともにいられる自信がないのだが
「えっと、客室とのことですがどなたの家になるのですか?」
「ここ?王宮のだよ」
「えっ?」
「んっ?」
おうきゅう?ん?王宮って
「王様が住んでる?」
「そう。アルタイロの」
えっと
ここはヴェプリーラというところのアルタイロという国で
今私が寝てるこの部屋は
アルタイロの王宮で
つまり一番偉い人の住んでいる場所の一室...
「ううーん」と言いながらまた倒れてしまう
「ああ!?ど、どうしたの!?一鷹君?」
き、きょうは、もういっぱいいっぱい
「一鷹君!?いーちーたーかーくーーん!?!?」




