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呪いの人形の想う先

魔法狂の王子と愛しの人形

作者: 笹星 佐々

人形に人間が想いを寄せるという描写があります。苦手な方は注意して下さい。この設定についての読了後の批判は受け付けません。《呪いの人形と魔法狂の王子をまだお読みでない方はそちらから読んでいただけると嬉しいです。》

私は前世の記憶を持っている。その記憶は愛おしくて大切な私の一番の宝物だ。


私の前世は今の世界みたいに精霊も居なかったし魔法もなかった。けど、歳を取るごとに便利な道具が沢山産み出されてこれといって特に困った事も無かった。……いや訂正する。一つだけあった。


それは、私が恋した女性が日本人形だったことだ。


彼女とはまだ私が駆け出しの小説家だった頃に出会った。ごみ捨て場に捨てられていた彼女は薄汚れていたが、私は彼女の黒曜石の様に綺麗な瞳に魅せられつい家に持って帰ってしまった。そして裁縫の得意な妹に新しい着物を作ってもらい、寝室の箪笥の上に飾った。


それからというもの、私の家で不思議な事が起こるようになった。例えば、夜中カタカタと物音がしたり、寝ている時に誰かに触られているような感触を感じたり。些細なことだったけれど確かに彼女を持って帰る前までは起こらなかったことだ。日に日に違和感が大きくなり、とうとう私は夜中寝ているふりをしてことの真相を確かめることにした。


結果はやはり彼女の仕業だった。私が寝静まった頃に動き出し、私の布団を掛け直したり、家に居る害虫を駆除したり、髪を切ったりしているようだった。そのとき私は特に家に害がある訳でも無かったので放っておくことにした。しかし最初は不思議な瞳の綺麗な人形、くらいにしか思っていなかった筈なのに名前を付けてしまうほどだんだんと彼女が愛おしく見えてきた。


それは普通に考えて可笑しい事だし、友人に話しても信じてくれないのが目に見えていたのでその想いはずっと胸の奥に仕舞っておくことにした。それから幾年が過ぎたが、私にバレないようにと必死に普通の人形のふりをしているいじらしい彼女への想いは積もるばかりだった。何度も想いを告げようとしたが彼女は人形、私は人間。どうやっても結ばれることはないのだと、告白したら彼女は私の元から離れていってしまうような気がしてどうしても言えなかった。


そして、私は生涯独身のままその生に幕を下ろした。


…………のはずが、気付いたら、何の因果か記憶を持って転生していた。しかも日本とは違う世界の、その世界でも大国と呼ばれるほど大きな国の第一王子にだ。魔法や精霊など、最初は日本とは全く違うこの世界に混乱しか覚えなかったがもう20年も過ごしていると慣れた。それに、私は元来好奇心旺盛な方なので前世には無かった魔法という物にのめり込みなかなか充実した転生生活を楽しんだ。しかし彼女の事はどうしても諦めきれず、いつまでたっても忘れることが出来ないでいた。


そんな18歳のある日、私に一つの縁談が舞い込んだ。そしてこの国、サエストと並ぶ位に大きな海洋国家クライスラストの第一王女との婚約が決まった。私はまだ彼女の事が好きなので出来れば独り身でいたかったが、王族としての義務を果たさなければいけないので自分の気持ちに折り合いをつけ婚約を受け入れた。


しかし、その第一王女リーアンはなかなかの曲者だった。リーアンは婚約が決まるとすぐにこちらの魔法学院に留学をしてきた。別にそこまではなんら問題ない。だが学院でのリーアンの行動は少し、というか、かなり異常だったのだ。


正義感に溢れ自分の中の正義が一番のリーアンは、その正義に反する事があると大声で自分の主張を言い、正々堂々と勝負だ!といってかなり多くの貴族の子息や息女に怪我を負わせた。正々堂々と言ってる割には勝負だと声を張り上げた瞬間から相手に突進しリーアンお得意の風魔法を力一杯放つのだ。1度なぜそんなことをするのかと問いただしたところ、


「わたしは皆さんの為を思ってやっているのです!将来嫁ぐ国の為にとわたしが勝手にやっている事なのでエヴァン様はお気になさらず!そんな感謝しなくても大丈夫です!」


とキラキラと輝く笑顔で答えられた。宇宙人を相手しているような気分だった。だが、やられた子息や息女にも非があったからリーアンもそのような事をするのかも知れないと、今度は何故そうしなければならなかったのかと問いた。すると、リーアンに怪我を負わされた者達は完全なる被害者だったということが判明した。


例えば、被害者の男子生徒が1人の女子生徒をおぶって廊下を歩いていた。それはどんな理由があろうと立派なセクハラとリーアンは憤慨して勝負をしたらしい。しかし実際のところ男子生徒は廊下で真っ青になってフラフラの女子生徒を医務室まで運んでいただけだ。その女子生徒は男子生徒に感謝はすれどセクハラだなんて思ってもいなかったそうで、いきなり声を大にして「セクハラは犯罪です!わたしが犯罪者を懲らしめてやります!いざ正々堂々と勝負!!」とリーアンが叫んで突進してきた時はかなり驚いたらしい。しかも風魔法の衝撃で具合の悪かった女子生徒は床に叩きつけられ男子生徒に至っては腹部に酷い痣が出来ていた。


他の被害者達も大体そんな感じでリーアンの勘違いによる暴走であることが分かった。そういう行動をしているせいでリーアンは学院中から避けられているらしいが本人は全く気付いていない。ある意味尊敬する。


私や私の父の王までもが再三注意したが何回言っても聞きいれなかった。しかし一応クライスラストの第一王女なので無下にすることが出来ず、私達はリーアンの行動にほとほと困り果てていた。


そんなある日、リーアンはついにやってしまった。


それは春の終わり頃に行われた私の四つ下の妹ユーリアの誕生日パーティーでのことだ。


妹は慣れない挨拶などで疲れたらしく立ちくらみを起こした。そしてたまたま近くにいた私の腕をつかんだ。その時、


「婚約者が居る兄に触れるなんて馬鹿なんですか!?」


「リーアン!!」


「エヴァン様はユーリア様の味方なのですか!?」


「いや味方も何もないだろう!」


「いいえ!こうなったらわたしの言い分が正しいことを証明しないと気が済みません!!勝負です!」


と叫び妹に風魔法を放った。幸い近くにいた私が同じ風魔法で相殺し妹は事なきを得たが、これまでの奇行と王族に手を上げたことで婚約破棄になった。クライスラストの第一王女であったから婚約破棄くらいで済んだが、本当だったら処刑ものだ。


本当の馬鹿は誰なんだろうか、そしてこうなったらってどうなったら勝負という単純思考になるのか最後まで分からなかった。リーアンは何かの病気なのかもしれない。


クライスラスト側からの謝罪はあったが、リーアンからの謝罪は一切無かった所を見ると自分が悪いことをしていたという自覚はないのだろう。


そして私達が婚約破棄になった噂はすぐ様広がり、原因も色々流れた。リーアンが他の男に浮気したからだとか、私が魔法にしか興味が無いからだとか、そんな下らない事ばかりであったが。


「もう儂から結婚は勧めん。自分の目で見て自分で決めろ。」


父からこの言葉を貰った私は暫くは政務に集中する事にして、結婚はまた追々考えるという結論を出し、将来父の跡を継ぐため必死に政務をこなした。


そうして二年が経った頃私は見つけた。たまたま視察に来ていた貿易相手国、エルフの国テークトで。見目は全く違うしそもそも彼女は人形だった。しかし本能が、魂が告げていた。あれは彼女だと不思議と直感したのだ。それからの私の行動は早かった。彼女がテークトの第三王女だという事を知ると父に頭を下げテークトに結婚を申し込んでもらい、とりあえず一旦会ってからということで話が纏まった。


そしてついに明日が彼女との面会日だ。彼女は驚くだろうか。それとも信じてくれないだろうか。もしかして記憶が無いかもしれない。


しかし、彼女に会える、それだけで今日は嬉しくて眠れそうにない。


幸四郎様のお話です。ここまでベーネを愛させるつもりではなかったのにどうしてこうなったのか……。

拙い作品を最後まで読んで下さって本当にありがとうございました!

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