上坂朱里①
<1日目>9:15
『クエストオブドラゴン』
上坂朱里は次世代型ソーシャルネットワークゲームの
プランナーとしてHNP社で勤務し、各種ゲームデータの作成から
イベントのプランに至るまで手掛けてきた。
今日という日はα版の開発が完了し、β版の検証をアルバイトと共に行う
彼女にとっての晴れ舞台でもあった。
故に朱里はプランナーでありながらもアルバイトの受付に加えて説明という
本来の仕事とは関係のない業務も機嫌が最高潮であったこともあり、
嫌な顔一つせずに抵抗なく出来た。
これがいつもであれば女性だからといって受付をさせるなんて
男女差別だなんだと喚き散らしたであろう。
「この先の施設で皆さんと検証を行うんですよね?」
朱里はアルバイトたちが乗っているバスとは異なる
もう1台のバスに乗っていた。乗員は朱里を含めて関係者のみとなっている。
「そうだね、相当の広さだからくれぐれもアルバイトの子たちに
施設内の地図を渡し忘れないでくれよ」
プロジェクトリーダーでもある朱里の上司が現在向かっている施設について
訳知り顔で語る。
「確か舞浜にあるあの某所より少し狭いぐらいでしたっけ。
そんな広い場所よく確保できましたね」
「……まあ、色々とあってね」
これから向かう場所は朱里も初めて訪れる場所だった。
事前に聞いた情報では再来年に開園を予定している巨大な
テーマパーク用の土地らしい。
「それと一応確認なんですが今回の検証は3日間でそれまでは私たちも
施設内の宿泊場所で寝泊まりするんですよね」
「うん、その通りだ。上坂さんにはわざわざ来てもらってすまないとは思うが
やはりゲームのデータを触った人も一緒に来てもらったほうがいいからね」
「いえ、自分の作ったゲームが検証とはいえ、外部の人たちに
プレイしてもらえるのはやっぱり嬉しいですから来てよかったです。
それにこの3日間は時間外手当もたくさんつけてくれるんですよね?」
口に手を当てて朱里が微笑する。
今回の業務は会社外での特別労働扱いになるため、時間外手当も含めて
他にも手当がつくようになっている。
「……しっかりしてるね、キミは。安心していいよ。22時以降は
ちゃんと色をつけるから。その分睡眠時間は減ると思うが」
「大丈夫です。このゲームのためなら身を粉にして幾らでも頑張っちゃいます!」
「ああ、期待しているよ。本当に」
少しだけ後ろめたそうにプロジェクトリーダーは呟く。
話が終わり朱里は窓の外に目を向ける。
こちらのバスはもう1台のバスとは違い、窓が塞がれていないため
外の景色が見えるようになっている。
バスは既に高速道路を下り、都市部から離れていた。
道路を走る車の台数や民家の数も少しずつ減り、段々と人気のない場所へと
バスは進む。
それにしても、と朱里は思う。
再来年テーマパークを開園するとしてこんな交通の便が悪い場所に
本当に造るのだろうか。
「専門じゃない私が考えてもわかるわけもないか」
ついには民家すら見えなくなった景観を見ながら朱里は呟く。