<開幕前>
『時給6000円、次世代の新感覚ゲームがいち早く体験できます』
新聞に挟まっていたアルバイト募集の広告。
それはあからさまに怪しかった。
怪しかった……がそれ以上に時給が魅力的だった。
竹内直樹は専門学生の身分であり、
一人暮らしをしているせいで常に生活苦であった。
家賃だけならまだしも食費や水道費、電気代といった
諸々も含めると親からの少ない仕送りではろくに贅沢もできず、
食事をグレードアップさせるならアルバイトは必須だ。
ちょうど今は夏休みに入ったところで時間も余っており、
何かしらアルバイトを始めようと思ったところだったので
そんな折に舞い込んできたこの募集はまさに渡りに船だった。
時給6000円というだけあって恐らく仕事は大変なものだろう。
体を酷使してしばらくは筋肉痛で起きるのがつらくなるかもしれない。
あるいは苦情対応の嵐で胃に穴が開くような甚大な精神的ダメージを
受けることになるかもしれない。
しかしどんなにきつかろうと、たかがアルバイトで死ぬことはない。
アルバイトをやったからといって人が死ぬわけがない。
工場での仕事も場合によっては命の危険にさらされることが
あるかもしれないが、それだって資格のある人間か長期間労働している
適切な人材に任されるのが世の常である。
まさか応募してきたただの人間にそんな仕事が任されるとは思えない。
そう、それは現代日本の一般常識に当てはめれば当たり前のことだった。
だがその常識はこれから起きる非常識によって
完膚なきまでに打ち壊されることになる。
人はたかがアルバイトでも死ぬ。
竹内直樹はそれを思い知る。