真実
「でもなんでいきなり休みたいなんて言い出したの?ねえ。なんで?」
学校に向かう道すがらリリが3人にしつこく聞いた。
「文化祭だし。俺たちあんまり参加意欲が無いって言うかなんていうか…」
シンが頑張ってごまかし何とかリリを納得させた。
そんな無邪気なリリをよそに3人は気が気ではなかった…
道行く人全てが悪人に見えた。
いつ車が突っ込んでくるかと、辺りをきょろきょと挙動不審だった。
だがリリにまた質問攻めにされても困ると精一杯普通を保とうとしていた。
学校に着くと文化祭の最終準備で多くの生徒がバタバタとあわただしく校舎を行き来していた。
そんな状況をリリは嬉しそうにワクワクした少女の目で見つめていた。
そんなリリをよそに3人は不安と恐怖で押しつぶれそうな心境に校内を見まわしていた。
自然と3人はリリの後ろを見守るように歩いた。
その様子に気が付いたリリが不機嫌にこういった。
「なんでアタシの後ろにいるのよ。なんかアタシがあんた達引き連れて歩いてるみたいじゃない。ほら。ヒロいつもみたいにもっと騒ぎなさいよ。いくら文化祭がいやでも4人で楽しく騒げば良いじゃない」
とヒロの手を引っ張った。
そのときヒロがシンの顔を盗み見てとっさに手をさっと引いた。
「え?どうしたのヒロ」
リリが少し意外なヒロの行動にオドオドした。
「ごめん。別になんでもないよ、ちょっと躓きそうになったから」
とヒロが適当にごまかした。
「ヒロが寝不足で不機嫌みたいだなあリリ。今日は俺と騒ぐかじゃあ?なあ?」
シンがいつもヒロに言うような冗談めいた嫌味と少し違ったニュアンスのとげのある口調で言った。
「どうした?お前ら今日はなんか様子がおかしいぞ」
ユウがいつものような暖かい目で2人をたしなめたが、少し不安の混ざる声を隠しきれていなかった。
文化祭開始前にホームルームがあった。
4人は自分たちのクラスへ入り席に着いた。
文化祭モードのリリはクラスメイトにおはよう、と挨拶しながら楽しげに今日の予定を話していた。
その隙に3人は顔を付き合わせた。
「おい。シン、ヒロお前たちいい加減にしろよ。お前達がそんなでどうやってリリを守るんだ!」
ユウが怖い顔をした。
「俺はいたって普通だぞ」
とシンが無表情で言った。
「俺は…悪い。俺が悪いんだよ。シンが朝言ったことが頭から離れなくて、そのせいでちょっと…なんだかホントごめん考えすぎだな」
ヒロが考えに詰まりながら謝った。
「まあ仕方ないだろうな。気にして当然だろ。ただ別にリリに触れることをシンに対して悪いと思うのはよせ。それにシン、お前も普通なんかじゃないぞ。ヒロに謝ってやれ」
ユウが2人を交互に見ながら強く言った。
「悪かった。ヒロ。俺も考えすぎだったよ」
とシンが少し黙り込んで考えた後ヒロの目をまっすぐ見て謝った。
二人がいつものように目を合わせて笑った。
そんな2人をユウがうれしそうに見た。
「よし。この後それぞれの部活の出展とかに一回顔出ししないといけない。そのときはヒロお前の部活は美術部と一緒だ、リリのことしっかり頼むぞ」
ユウが作戦を話した。
「おい。出展なんて放っておけよ。それより今日はリリだろ?4人一緒のほうがいいんじゃないのか?」
ヒロが不安そうに言った。
「俺もそう思ったが、でもよく考えるとユウの言うとおりだ」
シンが考えながら言った。
その後はユウが引き継いで話した。
「うん。俺たちにとっては特別な日だが回りの誰もそんな事情知ったこっちゃ無い。下手に動いてかえって問題を起こすとかえってやりづらい。それにリリも変に思うだろ?そうなったら厄介じゃないか…それに」
最後にいったん言葉を切ってユウがヒロを見てやさしい笑顔で付け加えた。
「お前がいればリリは大丈夫だろ?俺は信じてる。お前はリリをちゃんと守るって」
その言葉を聴いてヒロの目が力強く輝いて。黙ってうなずいた。
クラスはうるさく皆ガサガザと落ち着きが無かったせいか、先生が教卓についていることに誰も気がついていないようだった、というか気がついても知らないフリをしているようだった。
先生は2年になっても1年のころと同じ担任だった。存在感が薄く白髪でひょろっとしていた。
実は年齢はそこそこ若いとか…
だが決定的に統率力に欠ける先生だった。
今日も相変わらず誰も聞いていない本日の注意事項や連絡事項を淡々と話していた。
そのうち気が付けばホームルームは終了していた。
「ヒロ~」
クラスの前の扉付近からリリが呼んだ。
3人が振り返ると、リリが満面の笑みでヒロを読んでいた。
「ヒロの出展は同じ場所でしょ?一緒にいこぉ~!」
ユウがヒロに頼むぞと目で合図した。
ヒロが軽くうなずきリリのところへ向かおうと席を立とうとした。
そのとき不意にシンがヒロの手をつかんで制止した。
シンのほうをヒロが振り返った。
「ヒロ。俺もお前を信じてる」
シンがそういってヒロの手を離した。
ヒロは何も言わなかったが、力強くうなずいて席を立ってリリに追いついた。
後に残ったユウとシンはその後姿を見守っていた。
「なあ。ユウ」
「ん?どうした?辛いか?…ヒロとリリが2人でいると思うと」
ユウが気を使いながらシンのほうを見ずに言った。
「いや。そうじゃないんだよ。分かっちゃったんだよね。俺」
シンがそう言うとユウがシンのほうを見た。
そしてその目を見つめ返しながらシンが話を続けた。
「俺はリリの兄貴なんだろうなって…なあ父さん」
シンはテレ隠しのつもりで最後の言葉を笑顔で付け加えた。
「気がついたか?お前には悪いが俺はうすうす気がついてたよ。お前と俺は明らかにあの2人の戯れを見守ってきたしな」
ユウがやさしい目で言った。
「その目。いかにも父親って感じだな。なんか変な感じだけどな同じ年で父親とか妹とか…」
そういってシンが笑った。
「俺の恋心はおそらく妹であるリリを大事に思うあまりに、リリを思うほかの男に嫉妬していたみたいだよ…まあでも、ヒロならいいかなって思ってさ…」
シンが男らしい顔でニコッと笑った。
「後はヒロがいつまでもリリと遊んで楽しいじゃなくて、本気でリリへの愛に気づいてくれないと安心できないけどな。多分アイツがそれに気づいたときアイツの力は発揮されるんだろうと思うぜ」
といって笑った。
その笑顔にユウは安心したように笑顔を返した。
ユウの笑顔を確認したシンは自分の部活に顔を出しに向かっていった。