悪夢と目覚め
確信と迷い。
そんな中、目を合わせた3人の中に次第に力強い結束がうまれた。
必ず救うという思いが、それぞれ口にすることなく互いを刺激していた。
夜明けまで3人はあまり口を利かなかったが再び眠ることもせずリビングで時間を過ごした。
不意にヒロが口を開いた。
「どうする」
「そうだな…とにかくこのままじっとしてても仕方ない。何かするべきだな」
ユウが冷静にいった。
「俺たちだよな…」
シンが小さな声で言った。
「なにがだ?」
ユウが少し間をおいて聞いた。
「俺たちだよな…あの3人は…」
シンがそこで言葉に詰まった。
「そうだな。俺たちだ」
ユウが悲しみにも似た感情で言葉を発した。
「あの王様は…ユウじゃないのかな?」
ヒロが確信をもった目でユウを見つめながら言った。
「俺もそう思うぜ」
今度はシンだ。そしてこう続けた。
「でも王子は。どっちがどっちか曖昧だな。俺たちの愛が俺たちを導くってアイツ言ってただろ」
「俺の愛は間違いなく父親の愛だな。覚えてるかリリが始めて俺たちと会った日。俺はアイツに誕生日と名前を与えたんだ。俺は名づけ親だ。それに俺はお前たちのことも守りたいと本気で思い続けてきた。それは間違いなく息子たちを思う親心という愛だろ」
ユウがさらりと言った。
「俺がもしアイツの兄貴なら…いや俺は…」
ヒロが口ごもった
「俺は確信は無いが。兄貴より王子でありたいと思う」
シンがヒロのほうをまっすぐ見つめながら言った。
「俺は4人で過ごしていることに幸せを感じているし皆を愛してる。でも俺は少なくともリリに少し特別な思いを寄せている」
シンが強い口調で言った。
2人がシンを見つめて黙った。
「いまさら隠しても仕方ないことだ。いずれは分かることだし。それよりリリを助けるために少しでも情報があったほうがいいだろ…ヒロお前はどうなんだ?」
「俺は…」
ヒロはそのまま誰とも目をあわさず黙ってしまった。
「はっきりしろよ。俺はお前のはっきりした気持ちを聞きたいんだ」
シンが詰め寄った。
「俺は…リリとはずっと一緒にいたいし大事だ。お前たちのことも大事だし俺にはまだわからない。一緒にいて楽しいし、どんな女の子よりリリは俺には輝いて見える。でもそれが兄としてなのか何なのかは…」
ヒロがシンと目が合わないようにしながら話した。
「俺には今の言葉。お前がリリに特別な感情抱いてるように聞こえるぞ。はっきりとな」
シンが強気で言った。
「待て待て。今お前たちがそんなことで争っても仕方ないじゃないか。それはいずれ分かることだろ?それよりリリをいかにして守るかが先決じゃないのか?」
急に勃発した男の論争に少し驚きながらもユウが話を戻そうとした。
「いいか。まずもらったチャンスだ精いっぱい生かして損は無い。まずアイツが言っていたことを覚えているうちに考え直そう」
ユウが冷静に指揮を取った。
シンがまだヒロのほうを見ていたがやっと視線をユウに戻した。
「よし。じゃあまず。俺が一番気になっていることなんだが…この事リリに話すべきだと思うか?」
ユウが考えをめぐらせながら言った。
「話してリリが信じることか?」
ヒロがもっともらしいことを言った。
「かえってリリを混乱させる可能性もあるし。俺たちはいつだってリリと行動をともにしてる。いつものように誰かがそばにいれば必ず助けられると思うぜ」
ヒロが続けた。
「それに俺たちがいるこの時代は、少なくとも森も無ければ広い城も無いし高い塔だって無い」
それを聞いてシンが口を開いた。
「城って感じじゃないが…学校ならあるぞ?その他は分からないが」
「まて。そこにこだわるのは意味が無いと思う。覚えてるか?ルールの中にあった。殺し方は悪魔の気分しだいで変わる。ってことは場所や時間シチュエーションは決まってないってことだ」
ユウが思い返すように話した。
「くそっ!何だよ!どうすれば良いんだよ!こんなことせずに悪魔をボコボコにしてやったほうが早いんじゃないのか?」
ヒロが感情的になった。
「それができりゃ苦労しないっての」
シンが無理に笑って見せた。
「それからもうひとつ…」
またユウが話し出した。
「最後にあいつが言った言葉…意味わかったか?俺は英語は理解不能だ…ヒロお前ならわかったんじゃないか?英語得意だろ?」
ヒロがまじめな顔に戻り考えにふけりながら一言づつ思い起こして慎重に口に出した。
「”Hodie est ratio vivendi...
Coadiuvans nos ad inveniemus nostras, decedentem domum ...
welcome ad hoc mundo...”」
「どういう意味だ?」
ユウがせかした。
「意味は…
”今日を生きる理由…
我々を安らぎの場所へと導く手…
こちらの世界へようこそ…”
ってとこだな…ちなみに英語じゃないラテン語だ」
ヒロが眉根をよせながら答えた。
「今日を生きる理由…我々を安らぎの場所へ導く手…我々って俺たちのことか?でもアイツが言ったんだよな?アイツの仲間ってことか?こちらの世界にようこそって何だ…」
シンが分析した。
「これはヒントだと思うか?」
ユウが2人に聞いた。
2人は分からないというように頭を振った。
そうこうしていると各部屋から目覚ましの音が鳴り始めた。
「まずいぞ。もう俺たち起きる時間だ…どうするリリが起きてくるぞ」
ユウがあせりを見せた。
「今日は学校行かずに休むってのはどうだ?4人で家にいたらまだマシだろ?」
シンが提案した。
ひとまず全員その意見に賛同した。
するとリリの部屋の扉が開いた。
「おはよ。早いねあんた達、珍しい。昨日あんなこと言っといて実は文化祭結構楽しみにしてるんじゃない」
と無邪気に笑って見せた。
その笑顔に3人はしばしの幸福を感じた。
朝食をとる間3人は無意識に言葉数が少なくなっていた。
「どうしたの?どうしたの?3人とも静かだねえ。なんかあったの?」
リリが3人を順に見ながら怪訝な顔をした。
「いや。眠いだけだよ」
ユウが笑ってリリの頭をなでながらいつものように振舞った。
「ふうん。あっそ」
リリが適当に答えた。
少し戸惑ってユウが切り出した。
「なあ。今日学校休もうか。4人で」
「ええ?なんで?今日文化祭だよ!アタシ結構楽しみにしてたし、やることもいっぱいあるし。それにずる休みなんてだめだよ。4人もそろって休んだらずるだって即効ばれちゃうし」
リリが当然の反応を見せた。
「いいじゃないか。久しぶりに4人で家で過ごすってのも。なあ休もうぜ?俺は賛成だけど」
ヒロが元気な姿を演じてリリの肩に手を回しながら、普段のやんちゃ振りを演じて答えた。
そのときシンの目線に気づきヒロがリリから手を離した。
そんな2人の様子にリリは幸いにも気がついていないようだった。
「まあ。ずる休みってのもたまには悪くないかもなあ。俺も賛成。どうするリリ?賛成が多数だけど」
シンもいつもの調子を取り繕って答えた。
「なにそれ。じゃあ、あんた達だけ休めばいいじゃない。アタシは文化祭行くもんね!」
見事に作戦失敗といった感じであった。
不自然な動きは帰ってリリを刺激しかねないとユウがしぶしぶ学校に行こうといった。