守りと破壊
暖かく穏やかで静かなベッドの中…
リリが洗濯したシーツ。清潔な洗剤とお花のような柔軟剤の包み込むような香りの中、眠りに落ちるか落ちないかのちょうど狭間…突如…
真っ暗な瞼の裏で眩いばかりに白い閃光が…
その中へ脳みそごとひっぱていかれそうなほどの強力な力とともにベッドからマリオネットのごとく吊り上げられる感覚…
その不思議な現象に戸惑いながら目を開ける。
そこは床の無い部屋だった。
明るい星に360度囲まれた黒い空間。
自分の足がついているのか分からない場所に立っているのは風を受けずに無限に落ちていくようだった。
周りに目をやればそこには。
ユウ。ヒロ。シン。
三人が一定の間隔をあけて立ち同じように戸惑っていた。
それぞれがこれは自分の夢なんだと考えるように勤めていたが、不思議と現実味があった。
3人は言葉を交わすことなく次に起こることに全神経を向けていた。
だが何も起こらない。
「って何だよ。この夢これで終わり?」
拍子抜けしたようにヒロがつぶやいた。
「まったく同感だよ。それより夢ってこんなにリアルか?寝てる気がしないんだけど。夢の中なのに眠いって普通あるか?」
落ち着きを取り戻しながらシンが言ってユウを振り返りさらに続けた。
「まさかお前も夢の中にいますって言う設定か?」
「まさにそれだな」
ユウがまっすぐ前を見たまま答えた。
すると…
上から何かが落ちてきた。
ドスン!!!!
ものすごい勢いで3人の前に転がった。
人だった。
紛れも無いリリだ。
顔は見えなかったが長い髪と小さな体に見覚えがある。
腕があらぬ方向に曲がり無残に横たわっていた。
リリの周りには水面が波紋を大きく広げていくように血が流れ出てあっという間に3人の足元付近まで大きな水溜りを作った。
3人は駆け寄ろうとしたがいくら走っても、いくら手を差し出しても目の前のリリに1ミリも近づけなかった。
「何だよこれ!」
ヒロがどこへとも誰へとも分からず大声を出した。
”近づきたいか?”
3人が息を飲んであたりをきょろきょろと見回した。
確かに声が聞こえたような気がした。
”彼女を助けたいか?”
やっぱり聞こえた。
間違いなく声がしている。
甲高い馬鹿にしたような声だ…
でもどこから。
正体を探して3人は頭を色んな方向に向けた。
誰もいない。
「おい。こんなくだらない夢さっさと終わらせろよ」
ユウが夢であって欲しいという願いを込めながらも冷静さを保って声を出した。
”答えるんだ。彼女を助けたいか?”
その声にキョロキョロしながらも3人が口々に当たり前だと叫んだ。
”いいだろう。ではお前たちをループに落とす。”
「おい。なんだよループって!言ってることが訳わかんねえよ出てこい!誰なんだよ!」
シンが珍しく感情的になった。
”落ち着けよ。全てをお前たちに話す。”
いたずらに楽しんでいるような声だ。
すると、はるか上のほうから別の誰かがものすごい勢いで頭から落ちてきている。
リリの真上に。
3人が近寄れないことを忘れ再び駆け寄ろうとした。
だが今度は3人同時に足を引っ張られたようにきれいに転んだ。
3人がすぐに顔を上げてそちらに目をやると。
リリの真上ぎりぎりのところで見知らぬ男が片足をロープで縛られ落下の勢いを無視しピタッと静止してぶら下がっていた。
しばしの沈黙があった。
3人は訳が分からず成り行きを見つめた。
”さてと”
声はさっきよりも実態があった。
「だから。なんだよかっきから。出てこいって言ってんだろ!リリに何しやがった!」
夢だということをすっかり感じさせない雰囲気についにユウがすごんだ。
”ココだよ”
リリの上にぶら下がって背をこちらに向けていた男が顔だけをこちらにギョッと向け不気味に焦点の合わない目を見開き3人に向いてケタケタと笑った。
驚きで声は出なかったが3人同時に男を睨んだ。
”おうおう。ものすごい顔。俺のことが大好きですって感じの顔だねえ”
なおも男はふざけた。
「何だおまえ」
ユウが低い声で男に同じ質問を繰り返した。
”ああつまんねぇ。それ以外にいうことねえのかよ。”
首だけをこちらにひねった不気味な姿勢で男は苦も無く話した。
それがよりいっそう男を不気味に見せていた。
「分かったよ。話を聞いてやるから。早く話してくれ」
シンが先をせかした。
”まぁいいでしょ。じゃあまずお前たちに言っておく。オレはお前たちの味方だ…どちらかというとな。リリをこんな姿にしたのは俺じゃない。後、そうそう、それからココにいるリリはすでに死んでいる。もうひとつ、これは夢じゃない。”
ニヤニヤと笑いながら男がこれだけのことをサラッと言ってのけた。
「死んでるって。おい…」
ヒロが力なくつぶやいた。
そしてまた近づけないことを忘れリリに歩み寄ろうとした。
”無駄だぜ近づけない。ココは時空の力でロックされているからな。”
ユウがリリをじっと見つめ拳を握り締めていた。
「俺たちあいつに約束したのに。守ってやるって言ったのに…」
ユウが放心状態のまま誰に向けるとも無く言った。
シンは何かを考え込んだまま一言も発しなかった。
”悲しんでるねえ。いいねその顔。いつまでみてても飽きないよ”
と3人を挑発した。
「さっき言ったよな?お前がやったんじゃないって…誰がやったか答えろよ」
シンがまだ何かを考えながら口を開いた。
”それを聞いてどうする。復讐でもするつもりか?”
腕をぶらぶらさせながら男がつまらなさそうな雰囲気で聞き返した。
「いいから。答えろよ。お前が関係ないならお前に用はない。俺たちはリリをこんな目にあわせたヤツにだけ用があるんだよ」
シンがだんだんと感情的になりながらも必死に落ち着いて話し続けた。
”まあ待てよ。きっと俺に用があるぜ。お前たち全員。”
そう言いながら男はニヤニヤを急に引っ込めて怖い顔をした。
「どういう意味だ」
ユウが拳を握り締めたまま問いただした。
”だから。落ち着けよ”
口元を不気味に引き上げて男が少し意味ありげに言った。
「落ち着けると思うか…俺たちの大事なリリが目の前でこんなことになってるんだぞ…」
いかりで震えながらもユウが続けた。
”おばかさん達だな…オレはココにいるリリはすでに死んでいるといっただけだ。それにこれは夢ではないといっただけ。現実だとは誰も言っていない。”
恐ろしげに不真面目な目と口元に相反して男が低い声で言った。
「なるほどソコにいるリリは現実に存在するリリじゃないってことか。つまり現実に存在するリリは生きている。夢じゃないってのが少し引っかかるな…お前はただ俺たちを惑わして楽しんでいるだけか?」
シンが冷静に考えながら男の言葉を分析した。
”そうともいえるし。そうじゃないともいえる。”
男がまたニヤっと笑った。
”それに。そう。これは夢じゃない。つまりお前達が立ってるソコと。リリが横たわってるココは時間が違う。分かるか?お前たちの立っている空間は存在する。地下深くの空の中にお前たちはいま立っている。それから俺は別にお前たちを趣味でいじめるためだけでこんな面倒なことはしない。使いできた。お偉いさんの命令だ。まあ仕事ってとこかね。”
「使い?」
シンが考え込んだ。
”さっさと役目を終えて俺は帰りたいんだよ。でもお前たちの反応があまりにも面白いから少しからかっただけだ。”
首を傾けた焦点の合わない目で順に3人の顔を見て最後にまたニヤっとした。
”さてと。じゃあ説明しようか。よく聞きなこれからオレは言われたとおりにお前たちに全て話す。これが終われば俺の仕事は終わりだ。いいな。何度も言わないからよく聞けよ”
3人が構えてうなずいた。
”よし”
男はゆっくりと回転してこちらを向くとだらりと首をたれて、背中に腕を回し体制を整えた。
少しの沈黙の後男が話し始めた。
”ココに横たわっているリリは、さっきも言ったとおり。いまベッドの中で眠っているリリではない。ココにいるのは近い未来のリリの姿だ…”
ココまでを聞いて3人はさらに身構えた。
”オレは名をオーディンという。ハングマンと呼ばれる男だ。聞いたことがあるかな?”
「神話か…タロットカードなんかにも出てくる…吊られた男」
ヒロがいった。
”珍しいお前がまともな口をきくとはな…神話か…まあそんなところだな。タロットカードの方はオレのブロマイドみたいなもんだ。詳しいプロフィール紹介もかねた運勢案内カードってとこだな。だが内容は、まあ大まか偽りは無かろう…”
とオーディンが冗談を挟んだ。
”オレが使者に選ばれたのには理由がある。オレを使わせた方のことはまだ明かせない。いずれそのときがくれば分かることだ。オレの現在の状態。逆さ。これはオレにとっての正位置。奉仕、忍耐、努力…そして試練。お前たちに与えるもの。それがオレ自身の意味を示すものだ。オレはお前たちの運命としてココへ来た。”
3人は黙って次の言葉をまった。
”お前たちは生まれながらにしてある運命を背負っている。ある時代に平和と愛を信念に生きた4人が暮らしていた。彼らの幸せを妬んだ悪魔が彼らを不幸にする遊びを思いつた事が始まりだ。悪魔のおもちゃとして選ばれしもの。通称 DEVIL'S PET といわれている。天空のガーディアンと呼ばれる守りの天使たちやその者たちに使える使者は必死に守りを唱え続けたが、くしくも4人を崩壊させた。その4人は時代をかえなおも運命とともにその遊びに付きまとわれている。そして次がお前たちだということだ。”
ここでオーディンは一旦言葉を切った。
「それが俺たち?崩壊させられるってことか?」
ユウが落ち着いて聞いた。
”悪魔は全力を尽くしてお前たちを崩壊させに来る。だが抵抗することはできる。そのためにオレが使いを受けている。”
「じゃあ早くどうやって抵抗するか教えてくれ」
ヒロが今にも走り出しそうな威勢できいた。
”落ち着け。それを話す前にまだお前たちが知っておかなければならない事がある。”
3人の顔を見てオーディンが話を続けた。
”お前たちの運命の根源の話をしよう。”
急にまじめな顔をしたがちぐはぐな目はキョロキョロとせわしなく3人を順に見ていた。
”とある時代。とても小さな1つの王国があった。国は北欧。そうお前たちとはまったく無縁に思える者たちだ。とても古い時代に起きた話だ。運命の4人は王と2人の王子そして小さな姫だ。”
3人はなんとなく不思議と合点があうような感覚に襲われ息を呑んだ。
”少しは感覚として理解できているようだな。”
といってオーディンは先を続けた。
”彼らの関係性はこうだ。王には2人の子供がいた。王子と姫だ。そして隣国の子息の王子。
王同士の交流が深かった隣国では長男がすでに王位継承権を持っていたため次男が姫の許婚として城に住まっていた。王はそれほどまでに年老いてはいなかったがすでに妻を病気で2人亡くしており、2人の子供たちは互いに違う母を持っていた。姫の母は父親つまり王との再婚の際の連れ子であるため王とは血縁関係にはなかった。
そんな子供たちと隣国の王子だったが王は大切な家族として彼らを心から愛していた。
王の息子の王子は年頃だったが妻は娶らずに勉学に励み騎士道の道を歩み父の背中を追っていた。
姫はまだ無邪気な子供であった、華奢な体だったが外を駆け回って遊ぶのが好きなおてんばで愛らしい娘だった。
隣国の王子は王の息子よりも若くまだあどけなさの残る少年で頭の良い優しい好青年だった。そんな王子も王は我が子のように大切にした。
彼らは本当の家族のように中むつまじく平和と愛に満ち溢れた生活を送っていた”
そこで話をきったオーディンは少し黙ってしまった。
「なるほど俺たち3人がその王と王子達って訳か…」
ユウが沈黙を破った。
”あぁそうだ。見込みが早くてよろしい”
「まだ続きがあるんだろ?」
ヒロが促した。
”そうだ。続きがある…”
少し黙った後オーディンが続きを話し出した。
”彼らは時間を見つけては4人で過ごし。男たちが女の侵入を嫌がる狩などにも姫を連れて行き、姫はいつの間にか乗馬や弓、剣術などにも興味を持ったという。3人はこの姫をたいそう愛していた。王と王子は姫を守る戦士をも拒み自らでの手で護衛などをかって出ていた。年の近かった隣国の王子は姫のとてもよい遊び相手であった。許婚とは言ったものの形ばかりで2人はいつも庭を駆け回っていた。それでも隣国の王子のしっかりと姫をお守りする目は頼もしい光を放っていた。”
「その話ってまるで…」
ヒロがつぶやいた。
「だな…」
シンが後の言葉を聞かずに答えた。
「俺たちだな…」
ユウが驚いたような表情を見せながらもヒロの言葉尻を引き継いだ。
”そう。まさにお前たちそのものだ。運命とは面白いものだ。時代。人種。年齢。全てを無視した運命にお前たちは振り回されている”
少しづつ説明が大台に乗ってきたところでオーディンが一度下に倒れているリリを見下ろした。
現実ではないといえ3人には見るのもつらい光景であった。
”じゃあいよいよ。お前たちの姫がこうなるまでを話すとするか”
3人は黙ってまっすぐオーディンを見つめて話を待った。
”よしでは。平和を裂いたのはある秋の日だった。彼らを見ていた悪魔がついに動き出した。王と王子達の前に姿を現した悪魔は、本日姫の命を頂に来ると言い放った。
悪魔はゲームを楽しむように3人にルールを与えた。
((姫の命を救えるのは王と王子の3人。期限は真夜中12時を迎えるまで。守り抜けば勝ち、負ければ姫の死。殺し方は悪魔しだい))
と、なんとも無茶苦茶な内容のものだ。直ちに王と王子達は姫を探し城を駆け巡った。庭で遊ぶ姫は意外と簡単に見つかった。だが油断を許さない状態で3人は厳戒態勢をとった。片時も姫のそばを離れず常に姫を見守った。そんなかいあってか何事もなく夜中の9時を迎えようとしていた。そのとき些細なことから姫が今日はなぜ3人がいつものように振舞わないのかと怪訝に思い始めたのである。一緒にいる事に懸念は持たなかったが、いつものように遊ぼうとすると駄目だといつもは優しいはずの父親に言われ。兄や王子の冷たい態度も幼い姫にはショックだったようだ。まぁ幼い姫だ無理も無い。そのような扱いを受け機嫌を損ねた姫は3人の隙を見て森へ駆け出してしまったのだ。このままでは悪魔の思う壷とあわてた3人は姫の後を追って何時間も森を捜索した。だが姫は見つからず。城へ引き返した3人の下へ使用人があわてて駆け寄ってきた。そして説明もそこそこにある場所へ導いた。姫はあの後、走って逃げたものの森に入る勇気が持てず木陰に隠れてやり過ごし。すぐに城へ引き返したというのだった。
そこまでを使用人が話し終えたとき3人は城の一番高い塔の下についた。そこには無残な姫の姿があり、それを見た3人は力なく崩れ、全てを失った悲しみを全身で受け止めた。
詳細はこうだ。
姫はその後城に引き返し3人に謝ろうと使用人に所在を尋ねた。
事情を知るはずも無い使用人が森へ姫を探しにいったと話して聞かせた。
森へ入ることのできない姫は城の中にある一番高い塔へ上り森を見渡そうと考えた。
そこへ悪魔の手が姫の背中を押したのであろう。
使用人は足を滑らして落ちたのだろうと口々に「「かわいそうに…」」などと安い口を聞いた。
父である王は姫の体をうやうやしく抱きかかえ2人の王子を引き連れ城に入り広間の大きなソファーに横たえ、すでに無き命と承知ながらも国1番の医者を呼んだ。
腕が折れ、頭からは大量の血が流れていた。
到着した医者は姫の姿を一目見て軽く手首に触れると姫はお亡くなりになっていますと述べただけだった。
3人は姫のそばを一晩中はなれずに涙を流し続けた。
痛々しい姿で横たわる姫はまるで赤いドレスを身にまとっているよに自らの血で純白のドレスを染めていた。
朝になると葬儀のために町の教会から一人の司祭がやってきた。
司祭は姫を一目見て顔を真っ青に染め、そしてこう告げた。
「悪魔の子を身ごもっている」
王と王子たちは司祭の言葉に恐怖の色を浮かべた。
「「姫の足に伝う鮮血は紛れも無く落下によるものではありません。悪魔の足跡が残っております」」
そういって司祭は悲しげな顔をした。
「「無垢な姫を犯しもてあそび塔の上から投げよこしたのでしょう…」」
その言葉に恐怖と悔しさが3人をさらにどん底へと突き落とした。
だが、さらなる残酷な運命を3人は背負う事になった。
悪魔に身をむさぼられ悪魔の子を宿りし者への慰めはできないと、教会が葬儀を執り行う事を拒否したのである。
あまりにも残酷な現実に言葉をなくした3人は悪魔に奪われた最愛の命への嘆きと癒えることも無い悲しみ暮れひっそりと姫を自分達のみで城の一番美しい湖のほとりに埋葬した。
埋葬の後間もなく王はそのまま病床につき1年も立たないうちに苦しみの中で天に召された。
王の最後を見届けた隣国の王子もまた心を病み自の運命は姫とともに眠らん、と自らも塔より身を投げた。
同じころ姫の面影をさけ兵にでていた王子は前線で命を落としている。
姫が塔から落ちたのは彼らが戻ってくるほんの数分前だった。
皮肉にも悪魔は最後まで彼らに希望という蜜を味あわせ、よりいっそう深い悲しみを与えようというむごい考えでゲームを楽しんでいたらしい。”
オーディンはここで少し目を上げた。
”ちなみに悪魔の子を宿したというのは、彼らが悪魔の息子を運命として宿したということだ。そして彼ら一族はそのことにより教会からの慰めを拒まれた、そのせいで今でも彼らの運命は時代を変えて子孫を残すように残っているというわけだ。”
”これが彼らに起こった悲劇だ。”
誰も口を利かなかった。
悲痛な沈黙が続いた後にヒロが話し出した。
「そんな…そんな終わりかた」
「俺たちに降りかかる運命ってそれなのか?」
シンが暗い声で続けた。
”まてまて。あせるな。望はまだある。そのためにオレが来たと言っただろ”
考え深げにオーディンが答えた。
「望?どんな望だ」
ヒロがまじめな顔で聞いた。
「待て。望ってのは…つまり俺たちは悪魔ではなくガーディアンの使者であるお前からこの話を聞いた。事情や過去を知って今できることはかなりある、ってそういいたいのか」
ユウが勢いよく言った。
”そうだ。お前の言うとおり。我々ガーディアンとその使者達は長年にわたりこの事で悪魔との対立を繰り返している。
運命の線を断ち切るべく戦っている。だが彼らの力もまた強靭である。だからこうしてまた君たちの番がやってきてしまった…だが守りをある一定の空間と時間に閉じ込めることならばできる。お前たちの力になれるはずだ。警告の隙間もこじ開けることができた。だからオレがココにいる”
そこで少し言葉を切ったオーディンは深く息を吸い込んだ。
”それからもうひとつお前たちに重要なことを教えておいてやろう。お前たちがいったい誰で姫に対してどのような愛を持っているか、それがお前たちを導く全ての答えにつながる”
オーディンは少しにニヤッとした。
だがすぐにまじめな雰囲気を取り戻し…
”では、これからお前達に問う。お前達は姫を救うことを望み全力で悪と戦う覚悟があるか?もし望まなければ。お前たちの目の前にいる姫の姿が現実のものになる。”
まじめな声で目を見開いてギロっと3人を睨んだ。
”さぁ。どうする。”
「「「戦う」」」
3人同時に答えた。
”いいだろう。では先ほどもいったがお前たちをループに落とす”
それ以上オーディンは何も言わなかった。
「だからループってなんだよ。おい」
ヒロが大声を出した。
だがオーディンは答えなかった。
その代わりに最後にこう告げた。
”Hodie est ratio vivendi...
Coadiuvans nos ad inveniemus nostras, decedentem domum ...
welcome ad hoc mundo...”
そして、オーディンはあの不気味な笑みを取り戻し3人を見つめた。
次の瞬間彼をつるしていたロープが勢い欲く引っ張られるように上空へものすごい勢いで吸い込まれていった。
その一瞬先に今度は3人が立っていた床が急に水にでも変わったかのように息のできない空間へ引きずり込んだ。
そして3人はベッドから勢いよく起き上がった。
夢だったのか現実だったのかと混乱のままそれぞれ部屋に戻っていることに気が付いた。
不安を感じながらも今の出来事が夢だったのかを確かめるためにリビングに出た。
皆が自分ひとりがリビングに立っていることを望みながら。
しかしその期待はむなしく3人は汗まみれの青い顔を合わせるのだった。
「夢か?」
ユウが口を開いた。
その言葉を聴いて2人はまさかという顔をして、悲しげな目を床に向け首を横にふった。