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Charm of love  作者: 橋本 真一
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出発

ここからはしばらく一見学園青春物語のような進みを見せますが、急展開と共にファンタジーになりますので学園ドラマをご期待の方は少々ご期待に添えない可能性がございます。

暖かな日だった。

「お世話になりました。」

4人が口をそろえて言った。

院の門の前で見送る皆に向かって4人は一礼した。

「気をつけてね。何かあったらすぐ連絡してね。いつでも遊びに来ていいのよ!」

マリが涙をぬぐいながら言った。

「マリさんこんなすばらしい日に涙なんてまだまだですね。今日は笑顔の日でしょ。あなた感情を間違えてるわよ。」

院長が満面の笑みで言った。

院長のその言葉にしばし皆笑った。

暖かな陽気に幸せのオーラを感じながら短い時間が過ぎた。

まるで、懐かしい友と再会したときのような心に思い出のよぎる暖かな気持ちと。成長した姿と年齢を重ねた眼差しに寂しさを同時に感じたときのような感覚に似ている。

再会ではなく別れの日だった事だけが唯一の違いぐらいだろう。

「じゃあな。」

子供たちの頭をなぜながらユウが言った。

「お前らもすぐ追いつくぜ俺たちに」

ヒロが子供たちの小さな頭を順になでながら言った。

子供たちは皆名残惜しそうにしたが笑顔だった。

4人は皆に盛大に見送られた。

新居までを院のボランティアの男性に車で送ってもらう事になっていた。

車が発進すると4人は後部座席の窓から途中何度も振り返って手を振りながら院を後にした。


たわいのない会話を楽しみながら車に揺られる事1時間ほど、ようやく新居に到着した。

4人で決めた家。

新しい生活がいよいよスタートする。

準備は随分前からすでに整っていた。

院長から受け取ったお金をみて自分たちの親が誰なのかは知らないが相当な金持ちだったことを知り4人は驚いた。

「半額でこれかよ。」

そう言ったシンの顔がおかしかったものだ。

おかげで必要な物もそろえられて生活に必要な物で足りないものはとりあえず無かった。

少し都会から離れた家は、道路わきの小さな小道を抜けて行くと木々に囲まれた静かないでたちで4人を迎えた。。

とは言っても便利のいい場所で新しく通う高校からも歩いて数分の距離だった。

家はリビングを中心にした円形で、周りをぐるっと順にユウ、ヒロ、シン、リリの部屋が隣りあわせでリビングとキッチンを囲んでいるつくりだった。

円形のリビングの高い天井には大きな天窓があり昼間は明るい日の光りが差し込み夜は幻想的な星空を見上げる事ができた。

リリとユウの部屋の間には廊下があり、突き当たりが玄関で、その手前にトイレやバスルームなどがそれぞれ左右に分かれて孤立している創りのそこそこゆったりした家である。

だが築数が結構経っていてレンガと木造の軋む古い創りがどこかヨーロッパの香り漂う情緒をかもし出していた。

広さの割には安く4人一致で気に入って決めた家だった。

家具なんかは添え付けのものがあったりした、足りないものは中古品でまかなった。

そのせいなのか古臭いどこか孤児院と同じような匂いがしていた。

「よし。到着!」

家の中に入って玄関を抜けリビングに入ったシンがドサっとかばんを置いた。

引越しは数日前から少しずつ行い色々済んでいたせいもあって、皆あまり新鮮な気持ちもなく落ち着いていた。

「大まかな荷物は全部入ってるし。とりあえず何する?」

ユウが手持ち無沙汰に手をぶらぶらさせながら言った。

「明日から高校だから…まずはご飯じゃない?お腹すいたし」

リリが真顔で言った。

「何だよそれ。高校と飯は関係ないだろ?」

ユウがソファに腰を下ろしながら大声で笑った。

「まぁいいじゃん。ちょうどお昼時だし。お腹すいたし。」

シンが言った。

「よしじゃあ記念すべき一回目だから皆で作るか。」

ヒロが腕まくりした。

そうして4人はキッチンに入り支度を始めたがリリが早々に皆が邪魔で料理がしにくいと3人をキッチンから追い出してしまった。

追い出された3人はリビングのソファに腰掛けてリリを待った。

しばらくしてリリがサンドイッチを大量に皿に載せてリビングに入ってきた。

「作りすぎた…かな?」

リリが笑ってごまかした。

「うん。作りすぎだね。」

ヒロが笑いながら言った。

ともあれ、4人は満腹感とともに穏やかな時間の幸せをかみ締めていた。

その日は1日中家で過ごした。

家の隅々を堪能すべく皆うろうろと過ごした。

自分の部屋を整理したり。

お風呂や洗面所などですごす時間も心なしか全員長かったような気がした。

そんなこんなで少し気疲れした4人は早めにそれぞれの部屋へと入り床に着いた。


翌朝4人は高校初日ということで早くに目が覚めた。

口数もそこそこに支度を済ませ始めての登校をした。

入学式は簡素に終わり。初めての制服に身を包んだ4人は少し緊張気味だったが、あっという間に終わった入学式に少し拍子抜けだった。

4人が入学した高校は単位制の選択授業方式だった。

4人はそれぞれ思い思いの授業を取ったがほとんどが同じクラスだった。

一応ホームルームの教室すなわちクラス分けがあるだろうと覚悟していたが、人数がさほど多くなく2クラスしかなかったため4人は同じクラスになった。

「俺たちは本当に離れないな。」

ユウが意味ありげに3人を順に見ながら言った。

「いいことじゃん。」

内心一番ほっとしたような表情のユウを尻目にリリが笑ってかえした。

4人は少し送れてクラスに入ると、そこは他の生徒であふれていた。

少ないとはいえ今まで同じ年齢の子は自分達だけだったためか4人は少し緊張した。

「はじめまして。」

何の前触れも無く後ろからいきなり声をかけられた。

もじもじした女子5人集が立っていた。

「ほら。あんたが言いなさいよぉ」

と口々に言いながらお互いをこつきあっていた。

「はじめまして。よろしく。」

シンが愛想良く答えた。

「あの。私さっき入学式で見かけて。その…」

女の子が口ごもった。

「えっと。名前聞いてもいいですか?私は桜庭ななっていいます。」

妙にもじもじしながら目を輝かせて5人が尚もこつき合いながら4人を見た。

「あ。えっと。俺はクロカワ シン。でこっちがアオヤマ リリで、んでこいつがシロカゼ ヒロ。で最後にアカギ ユウ。」

シンが一気に全員を紹介した。


クロカワ君…

とか

アカギ君…

とか

シロカゼ君…

などと5人が口々にぼそぼそ言うのが聞こえた…様な気がした。


すると桜庭ななが口を開いた。

「あなた達は同じ中学からの入学?あの…その…始めて見るね。新入生は大体中学が同じか、中学が別でも大体皆知った顔だけど。あなた達とは初めて会うみたいだし…その。それにしても仲良しなんだね…」

とってつけたようなモジモジをやってのけた桜庭ななだったがそこまでを一気に言うと急に顔を上げてこう付け加えた。

「でアオヤマさんは誰の彼女なの?」

最後の言葉はかなり熱がこもっていたような気がした。

「まさか。彼女じゃないよ。」

リリが噴出すように笑って答えた。

その笑いに釣られてヒロやシンも力が抜けたように笑った。

「俺たちは家族なんだよ。」

とユウがリリの頭に手を置いてポンポンたたきながら当たり前のことを言うように笑って答えた。

「家族みたいものなの。へぇ。」

桜庭なながあまり分かっていないような感じの面持ちで口を動かした。

「家族みたいなもん。じゃなくて家族なんだよ。」

ヒロが訂正した。

よりいっそう女子5人集は怪訝な顔をした。

それ以降はなんだか5人全員がそれぞれに独り言を言うような感じでザワザワとした感覚が続き、どうしていいのか困った4人はすーっと女子5人集を交わして、とにかく適当な席に着き落ち着こうと動いた。

だがその5人以外からも4人はクラス中の注目の的であった。

実際ほかの生徒たちは顔見知りばかりとあれば新顔の不思議な4人は確かに注目されてもおかしくは無い。

クラスの前の扉が開いて先生が入ってきたことで注目から免れた4人は少しほっとした。

その後は機械的に色々な説明を受けた。

時間割、学校の規則などなどである。

ほとんどみんな真面目に聞いていなかった。

ボーっとしているとあっという間に時間が過ぎて、帰宅時間になった。

するとまた慌しくなったクラスが4人に興味を持ち始めたので4人は顔を見合わせ、ため息をついた。

皆と仲良くなるのはうれしいことだ、だがジロジロ見られるのは嫌である。

話しかけて来ればいいのに、そこまではしないといった雰囲気がかえって気まずかった。

4人はユウの席の周りにイスを寄せ、周りを気にしていない振りをしながら顔を寄せ合った。

「疲れるな。」

ヒロがため息をついた。

「どうするよ。」

シンが言った

「話しかけたらいいいんじゃねえの?こちっから」

ユウだ

「何はなすの?」

リリが言った。

そこまで話すと4人はまたため息をついた。

仲良くなるのはとりあえず後回しにして今日はひとまず帰路に着こうというのが4人が入学式当日の放課後に出した答えだった。

そんな感じで人ごみからようやく逃れた4人だったが、校門を出たすぐ後ろから背の高い男子が一人追いかけてきた。

「俺2年の中村。あのさぁ。入学式でみたんだけど、君かわいいね。電話番号教えて。」

失礼な物腰の男だった。

とてつもなく前触れの無い無神経さでリリに詰め寄った。

「アタシの?」

リリが驚いて聞き返した。

「そ。きみの。後名前教えて。」

「アオヤマ リリ。」

リリがさっきまでの笑顔を消し去った表情で少し無愛想に答えた。

「ね番号教えてよ。いいじゃん。」

しつこく聞いてきた。

リリはいやそうな雰囲気を前面に押し出して。

「ごめん。」

といった。

「なんで?別にいいじゃん番号ぐらい。」

さらにしつこく言い寄ってきた。

「あのさぁ。嫌がってるんだからあきらめたら?」

ヒロが食って掛かった。

「そんなにきつい言い方しなくてもいいだろヒロ。」

ユウがたしなめた。

「ごめんなさい。リリが困ってるから。また今度にしてやってくれないかな?いきなりだしちょっと驚いてるみたいだからさ。」

相変わらず丁寧な物腰でユウが笑顔までおまけに添えて言った。

「なんだ悪い。こんなかの誰かと付き合ってんのか?彼氏いんなら言えよな。」

2年の中村がさらに失礼な感じでリリに突っかかるような言い方をした。

「彼氏じゃないよ。俺たちの3人誰も。」

シンだ妙に無表情で無機質な声をだしてそう言った。

「なんだ彼氏いないなら番号ぐらい、いいじゃん。それに何だよお前らボディーガードでも気取ってんのか?」

2年の中村が牙をむいた。

「これ以上しつこくしても惨めだぜ。振られたんだからさっさといけよ。お前馬鹿みたいだぞ。」

シンが痛烈に皮肉って口元を少しゆるめた。

何かいいそうになったが2年の中村は不適にフッと笑って後ろを向いて歩いていった。

「大丈夫?」

ヒロがリリを気遣うように覗き込んで聞いた。

「やなヤツ。」

リリが言った。

「ああそうだな。あいつ名前聞く前に番号聞いてたな。そんなやついるか普通?」

そういってユウが爆笑した。

「まあ。それもそうだけど、ボディーガードでも気取ってんのか?って何あいつ。すっごい嫌い。」

リリが怒りに任せて話した。

「しかも皆して。アタシが誰かの彼女かってなんで聞くのよ。」

「仕方ないんじゃない。姫を3人の男が引き連れてたらそう見えるでしょ。」

シンが冷静に言った。

「冗談きついよね。第一アタシがあんた達の誰かの彼女なんてありえないよね。ほんと。」

リリが悪びれる事も無くふわっと言った。

「俺たちってお前から見てそんなにひどいの?」

ユウがまだ笑いをかみ殺しながらでリリの頭をポンポンたたいて言った。

「違うよ。アタシは3人ともホントに大好き。だからその中で誰か特別一番好きな人を選ぶなんてありえないだけだよ。」

リリが照れることも無く言ってのけた。

「そうだな。俺もお前のこと好きだけど同じぐらいヒロやシンのことが好きだから、そこから一人選ぶのはおかしいもんな。それがリリじゃなかったらもっと変だしな。」

そうユウが冗談を言って笑った。

皆も笑った。

「とにかく気をつけとけよリリ。俺らがいたからいいけど。」

ヒロが心配そうに言った。

「一人でも大丈夫だったよあんなヤツ。」

リリが笑顔で返した。

その後は期待もむなしく何も無く家までたどり着いた。

初日ははっきり言って4人にとって妙な日だった。

「いやぁ。それにしても悔しいなあ。リリが一番か。それにまさか初日にねえ。」

シンがいたずらっぽくわざと大きな声で言った。

「何が?」

ヒロと一緒にドーナツをむさぼっていたリリが振り向きざまに言った。

「ん?ファンだよファン。誰が一番もてるかってことだよ。俺結構もてると思ったんだけどなあ。いたいけな女子がさ、俺に…4人の中じゃ俺が一番だろうなあって思ってたんだけどさあ。」

シンが冗談めかしく言った。

「あれはファンじゃなくて。ナンパだよ。」

リリがブスッとして言った。

「それより。女子5人が今にもあんた達3人に告白しそうな勢いだったから。いろんな意味で同点じゃないの?」

リリがドーナツを口いっぱいに含んで話した。

「その顔じゃ、アイツも思いとどまるんじゃないかと思うぜ。ためしに写真でも撮って見せてやればもうしつこくされないと思うけど。」

ヒロがドーナツで膨れ上がったリリの顔をみながら自分もドーナツで膨れ上がった口をモゴモゴ言わせて笑った。

「お前も同じだけどな。」

相変わらず暖かい表情でユウが言った。

4人以外の話になるといつも皆が関係のない事のように話す。

4人はまだ彼らの中に自分たちがいるといった自覚を持てずにいたのだろう。

今までは自分たちだけの世界で生きてきた彼らには仕方の無いことだ。

彼らの試練。そして運命はこのような初日にして幕をきった。

これが彼らが踏み出した一歩とそして踏み入れた試練の始まりかもしれない。

もしくは天使が差し伸べた救いの道だったのかも…

このスタートの意味を問うのは今はまだ野暮であろう。

なぜなら、この始まりの本当の意味は彼ら自身が迎える運命の結果で決まるからである。

彼らが乗り越えればきっとこの日は天使がくれた贈り物である。

乗り越えなければ…悪魔のわなであったというわけだ…


そんなスタート、穏やかな高校生活。

穏やかな日常。

普通のティーンエイジャーとしての青春の日々。

そんなものがいったいどう進んでいくのであろうか?


ここまではあくまで。

あくまでも運命のあの日を迎えるまでの彼らの生い立ちと生活である。

生まれたときからすでに始まっていた彼らの運命。

少しずつ見えてきた彼らの運命の輪。

でもあの日ほどはっきりとそして明確に運命が目の前に現れるまで…

彼らが本当の自分たちに気づく余地など皆無であった。


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