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迷ったら月に聞け 5~闘神達  作者:
月で王妃で女で母で
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嫉妬

蒼は、久しぶりに龍の宮を訪れた。維心と維月が並んで出迎えてくれる。

「蒼、よく来たの。」

維心は機嫌良く言った。維月も言う。

「久しぶりだこと。この間里帰りした時には顔を見ず仕舞いだったもの。」

そう言う維月の腹は、もう大きくせりだしていた。

「お久しぶりです、維心様。母さん、今にも生まれそうだけど、大丈夫なの?」

維月は笑った。

「そんなに簡単に生めたら苦労しないわ。でも、確かにそろそろなの。いつも一月ほど早く出て来るから…なのでこうして、いつも維心様が一緒に居てくださるのよ。」

維心は頷いた。

「我がついておる。ゆえに大丈夫だ。」と蒼を促した。「さあ、居間へ参ろうぞ。」

維心は相変わらずだった。維月にさらにベッタリと寄り添って離す気配はない。蒼はそんな様子に、反対に羨ましかった…あれほどに激しく深く長く愛せるなんて、共に居てそれは幸せであるだろう。蒼にはその、維心の迷いのない愛情が、時に羨ましくて仕方なかった。

居間へ着くと、維心と維月は定位置に並んで腰掛けた。蒼も前の椅子に腰かけると、言った。

「こちらは実に明るいムードで何よりです。」

維心は手を振った。

「何を申す。そちらも早々に子が出来て、維月と産み月も近いではないか。華鈴の様子はどうであるのか。」

蒼は答えた。

「はい。子は女で順調でございまする。」

蒼の表情はなぜか冴えない。維心と維月は顔を見合わせた。

「…であるのに、主はどうしたのか。何やら心もとない様子であるの。」

蒼は苦笑した。

「二人の妃というのは、想像以上に大変でございます。子がすぐに出来て、オレも喜んでは居たのですが…。」

維月が気遣わしげに問うた。

「まさか…後宮が乱れているの?」

蒼は頷いた。

「華鈴は南の対から出ることはありませぬ。それに瑶姫を気遣ってオレと庭を散策するにも本宮から見えない所を歩く。ですが、子が出来てから、瑶姫の機嫌がすこぶる悪いのです。」

維心は眉をひそめた。

「…あれも王族の端くれ、わかっておるかと思うておったが。」

蒼はため息をついた。

「思えば華鈴は大変に苦労を致して参りました。ですが、維心様の前で失礼ですが、瑶姫は何不自由なく育ちました。その差が表れておって、此度は苦労致しております。あまりに不機嫌が長いので、オレも華鈴に通う方がめっきり多くなってしまって。どうしたものかと考えあぐねております。」

維心はため息をついた。

「わかるぞ。妃が二人おって、一人がワガママで一人が聞き分けが良ければ、良い方へ通うのは道理よ。我に遠慮はいらぬぞ。」

維月も困ったように言った。

「瑶姫の気持ちもわかるの…子が二人と決めた訳でもないのに、あなた方には二人しか居ないでしょう?なのに後から入った華鈴にすぐ子が出来たのだもの。複雑ではあると思うわ。」

維心は考え込むように顎に触れた。

「…そうよのう…瑶姫はもう400歳にはなろう。もう子が出来にくくはなっておるの。」

蒼はうつむいた。

「…それが…子が出来る出来ないではなく…オレは元々維心様のように毎日求めるタイプではなかったし、瑶姫の気持ちともなかなかタイミングが合わない事が多かったので、別にいいかと触れる事も少なくなっておったのも確かです。それでそちらに五人出来るうち、こちらは二人であったので。」

維心は両眉を跳ね上げた。

「なんと。主はなんと辛抱強い男よ。気持ちとのタイミングが合わないとはなんだ?」

蒼は維月を気にしながら、答えた。

「つまりは気が進まない時にオレが求めたり、ということです。オレは嫌そうな相手に手を出すとか、興も冷めるのでしないので。そうすると機嫌を伺うのも面倒なので、もういいか、となって。もう結婚して50年以上ですしね。」

維心は眉をひそめた。

「50年以上なのはこちらも同じぞ。」と維心は言った。「それなのに毎日、子が出来ぬよう維月は気を使いながらも我を拒むことなどなかったわ。それにしても解せぬ。神の世を知っておるはずの瑶姫が、なぜに王の求めに応じぬなどということがあったのか。維月は人の世しか知らぬのに、部屋に帰ったのはこの50年でたった4日よ。」

これには蒼も驚いたが維月も驚いた。正確に覚えていたからだ。

「ま、まあ…維心様、よく覚えていらっしゃること…。」

維月が口を押さえて言うと、維心は当然のように頷いた。

「主は心底怒らぬとそのようなことはせぬからな。忘れられるはずはあるまいて。」と蒼を見た。「それは主が悪いのではないわ。主が人の世の考えであるのに甘えて、妃の務めを怠った瑶姫の責ぞ。神の世の者なら、皆そう言うであろうよ。」

維月は炎嘉が教えてくれた、神の世の妃のことを思い出していた。確かに、維心の言うことは、神の世では正しい。妃の人権も考える蒼と共に居たら、考えが人の世になるのも仕方がないと言えばそうなのだけど…。

そこへ、慌てた様子の洪が入って来た。

「王、ただ今月の宮の瑶姫様より、こちらへお里帰りのご連絡が入りまして、急ぎお知らせに参りました。」

維心は両眉を上げて蒼を見た。ここに蒼が居るのに?

「…あれは誰に許しを得て里帰りすると申すのだ。王の許しなく戻るは許さぬと伝えよ。」

洪は頭を下げた。

「しかしながら…もう宮を出られてこちらへ向かわれておる由。」

維心は不機嫌に立ち上がった。

「我の許しなく我が結界に入るは許さぬ。」と蒼を見た。「蒼よ、我も参るゆえ、一度月の宮へ帰られよ。」

蒼は頷いた。時間の問題かと思ってはいたが、まさか今とは。オレがここに居るのを知っているのに…。

「維心様、一度こちらへ戻してあげて、こちらでお話を聞いてあげたら…それでは瑶姫に戻る所が無くなりまする。」

維月が言ったが、維心は首を振った。

「人の世で育っておるならいざ知らず、あれは生まれながらの神であるのに。妃にあらざる振る舞いぞ。許す訳には行かぬ。」と洪を見た。「結界を強化する。境に義心を行かせよ。追い返せ。」

洪は頭を下げて出て行った。維月は立ち上がって言った。

「そのような、維心様…、」

「維月、これは神の世の理ぞ。王として許す訳には行かぬ。」

「ですが…」維月は、はたとたじろいた。「あ…!」

維月がよろめいたので、維心は慌てて抱き留めた。

「維月!」

維月の足元の床に水が大量に流れ、続いて血が混じり始めた。維心はそれを見て叫んだ。

「月花を呼べ!産所の準備を!」維心は維月を抱き上げた。常の出産とは違う。「しっかりいたせ!我がおるぞ!」

維心から青白い光が沸き上がり、維月に向けて流れ込んで行く。維心は蒼を見た。

「とにかく、維月の出産が済んでから参るゆえ、先に戻っておれ!」

維心はそう叫ぶと、早足で居間を飛び出して行った。


「…先に赤子を包む膜が破れて、中の水が溢れ出たようでございます。次に維月様と赤子をつなぐ、血の道のようなものが少し剥がれ、そこから血を失われておりまする。只今はそれを気で止め、出血は治まっておりまするが、いつまた剥がれて参るかわかりませぬ。早くお生み頂きませぬと赤子も維月様もお体が心配でございまする。」

月花という宮の医者の、初老の龍が言った。維月は青い顔をしている。維心は気ぜわしげに言った。

「早く生むと申して、そのように急がせたら維月の体力がもたぬのではないのか。血もかなり失っておるというのに。」

月花は首を振った。

「しかしがんばって頂かなければ、お命の方が危うくなり申しまする。」

維心は維月の手を握った。維月は維心を見て、力なく微笑んだ。

「少し、貧血気味なだけでございます。力はございますゆえ、ご安心くださいませ。」

維心は頷いた。選択の余地はない。

「…では、頼む、月花。」

月花は頷き、手を翳した。

「陣痛を促進いたします。王妃様、お気を確かにお気張りくださいませ。」

月花から出た気の光が、維月に降り注ぐ。途端に激しくなる陣痛に、維月は顔をしかめた。

維心はそれを見て、握る手に力を入れた。

「維月…我が気を与えるゆえ。」

維心は気を流し込みながら、後悔した。こんなに何人も子を生まずとも良いのに。我の責で、維月は苦しまねばならぬ。いきなりに短い感覚でやって来る陣痛に耐えながら、必死に子を生み出そうとする維月を見ながら、維心はただただ早くそれが終わって欲しいと願った。

維月は思っていた…きっと、人の世でなら帝王切開になっている所だわ。胎盤が少しでも剥がれているのだもの…とても危険なはず。自分の人の体は月の力に守られている。なのでこうやって耐えているが、普通なら一溜りもないであろう。子は大丈夫だろうか…。陣痛の波の間から、そんなことを考えて、横の維心の、まるで自分が痛みに耐えているような苦しげな表情に、維月はこれ以上は子は生むまいと決心した。きっと維心様は、私が痛みに耐えているのを見て、自分のせいだと思っていらっしゃる…。早く生んで、維心様をお楽にさせてあげなければ…。

そこで、維月は気を失った。

「…危険な状態でございます。」月花が暗い表情で言った。「維月様はお気を失われ、このままではお子は生まれ出ることが出来ませぬ。人の世であるなら、腹を切って子を出すところ。」

維心は衝撃を受けた。腹を切る?

「そのような…!腹を切って、生きていられると申すか!」

「人の世では、力のない分、細かな知識で補っておりまする。」と月花は言った。「母も子もそれで助けることが出来申す。しかし、今から人の医者を連れて来ようにも、神の世のこの宮へなど…。」

「そのようなこと、言っておられぬ!」維心は言った。「誰でも良い、連れて参れ!」

月花は傍の侍女を見た。これから間に合うと言うのか…。

ふと、維心は思い出した。医者。維月の子のうち、有はもう老婆になっておるが、涼は仙人になって月の宮におるはず。あれは医者ではなかったか?

「おお」維心は言った。「月の宮に涼がおる!」と十六夜に向かって念を発した。《十六夜!維月が命の危機ぞ!急ぎ涼に、腹を切って子を取り出してくれと伝えよ!》

月から、慌てふためいた気の波動が返って来て、気配が消えた。

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