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迷ったら月に聞け 5~闘神達  作者:
散り逝く闘神
12/35

待つのは

部屋の前に着いた三人は、戸を押した。

意外にも鍵はかかっておらず、戸はすんなりと開く。維心は、ここに置いておいた維月の打掛がないことに気付いた。

「母さん?」

蒼は呼びかけた。日が暮れて、部屋の中は月明かりと庭からの提灯の明かりが差し込むだけで、薄暗い。十六夜が手を上げて明かりをつけた。

衣桁に、打掛がきちんと掛けてあった。

帯が綺麗に畳まれて置いてあり、着物も畳んであった。それに襦袢も…ということは、今は着物を着ていないのか。

十六夜が厨子に手を掛けて開けると、言った。

「…やっぱり。」と蒼と維心を見た。「人の服が無くなってる。陰の月の気がするのは、この力の玉のせいだ。オレがやるのを見て、真似たんだ。」

十六夜は、厨子から光る玉をいくつか拾い上げた。十六夜のものより、少し青み掛かっている。

蒼は横の鏡台を見た。

「これ、かんざしだよね。頚連もある…」と床へ視線を落とした。「草履も。」

維心が悟って十六夜を見た。

「主の力の玉は?今日飲ませたばかりであろう。」

十六夜は首を振った。

「あれは、本人が探して欲しい時には役に立つだろうよ。だが、オレの力を唯一打ち消すのが維月の力だ。維月が探して欲しくなければ、消されちまう。今、まったく感じ取れねぇんだから、探して欲しくないんだ。」

蒼は辺りを見回した。母さんが、何も言わずに行くはずはない。何か書き置いてないのか。

シンと静まり返っているので、低いウーンという音が聞こえて来る。蒼がそちらを見ると、ノートパソコンが起動していた。まさかと思いながら、蒼はパソコンを開けた。

そこに、ワードの文書が出ていた。

「私はじっと待つのは無理です。人の世に帰って考えて来ます。また自分で戻って来るので探さないで。逃げてごめんなさい。 維月」

なんで手書きにしないんだろう…と蒼は思ったが、墨を持って来させようと思ったら、侍女を呼ばなきゃならない。だから、パソコンにしたのだ。きっと、オレが見つけると思って…。

十六夜と維心が、それを読んでからじっと何かを考えるように立ち尽くしている。母さんの気を探ってる…。蒼は悟ったが、この二人から身を隠すのに、気を読み取れるようにして行くはずはない。母さんは、気を遮断する膜の作り方を知っている。

蒼はそう思いながらも、ソッと広域に検索の念を送ってみた。

ふと、何かが引っ掛かった。蒼は驚いて二人を見たが、二人共にまだじっとしている。蒼は二人に気取られぬように、語り掛けた。

《…母さん?》

相手は答えた。

《蒼。》聞きなれた声だ。《子達との繋がりは残して置いたの…あなたは心配しなくていいから。あの二人は、有無を言わさず連れ戻そうとするでしょう?》

蒼は少しホッとした。月を通して母の姿が見える気がする…だが、それは全く違う姿だった。

《いつまで人世に居るの?》

相手は答えた。

《わからないわ。答えが出るまでかな。お金はあるし、パートでもして稼ぐから、生活は大丈夫よ。心配しないで。また落ち着いたら連絡するから。じゃあね。》

蒼は慌てた。

《母さん!》

蒼が目を上げると、十六夜と維心がこちらを見ていた。気取られた?

「…蒼。」十六夜が言った。「お前、今維月と話したな。どうやった?どこに居るんだ!」

蒼は下を向いた。

「それは…」

言えない。蒼は咄嗟にそう思った。場所もだいたいはわかる。でも、言えない。蒼が口ごもっていると、維心が言った。

「蒼、我らには読めないのだ。教えてくれ。」とこちらに踏み出した。「頼む。」

維心はこれまでにないほど必死の表情だった。蒼は心が揺らいだ。母さん、一度帰って来て話した方がいいよ…。

しかし、知ってか知らずか、維月の念が飛んで来た。

《蒼、決して言わないで。言ったら、この繋がりも絶たなきゃならなくなるの。ごめんね…。》

蒼は顔を上げた。

「言えないんです。」蒼は言った。「母さんは子達とのつながりは残したと言った。だからオレには母さんが読み取れる。でも、言ったらこのつながりも絶たれてしまう。オレ、離れてても無事かどうか確認したいから、言えないんですよ。」

十六夜は食い下がった。

「今言ってくれりゃあ、すぐに月から飛んで捕まえる。だから大丈夫だ。」

蒼は首を振った。

「無理だ…母さんは姿も変えてる。オレには見えたけど。気の読めない十六夜に、今の母さんがわかるはずないよ。それに…今、月に十六夜の気配がしたら、すぐにオレのつながりも切ってどっかへ行ってしまうよ。母さんは一度決めたら梃でも動かないって、いつも十六夜が言ってたんじゃないか。」

十六夜が下を向いたのを見て、維心が言った。

「そんな…我は維月とあんな別れ方をしてしまったのに。いったい何年待てば良いのかわからぬまま、このまま待てと言うのか。」

蒼は維心の表情を見ていられなかった。十六夜は後ろを向いてうろうろと歩き回った。

「…くそ、オレは気付いていたのに。あいつの性格は知ってるのに。神なんて、所詮オレも維月もあわねぇんだよ。人の世界に居たんだ…戦だなんだって、肉親が行っちまうことのない世にな。ここは命が簡単に失われ過ぎる。神世なんてクソくらえだ!」と、蒼を見た。「あれは正夢だった。蒼、オレは月に戻る。用がある時呼びな。昔みたいにな。オレは何年でも維月をあそこから呼んでやる。またうるさいって答えてくれるまで。」

十六夜は陰の月の力の玉を一つ握り締めると、すぐに光の玉になって月へ上って行った。

維心は、それを見送ると、自分も陰の月の力の玉を手に取った。手の中で、青白く光っている。

「…我は諦めぬ。」維心は言った。「維月のことだ、時を過ごせば我が諦めて違う妃を迎えるとでも思っておるのだろう。そうはならぬ。何年掛かっても探し出して連れ戻してみせる。あの様子だと、十六夜は見つけても教えてはくれまい。我が、己で探し出してみせるわ!」

維心は、グッと力の玉を握りしめた。

そして、蒼に背を向けると出て行こうとしてふと、振り向いた。

「…維月が無事であるのかどうかは、時々に教えてくれぬか。」

蒼は頷いた。維心は、部屋を出て行った。


龍の宮では、王妃は人世へ視察に出ていることになっていた。

確かに荒れて来ている人の世なので、元は人であった王妃が視察に出ていてもなんらおかしくはない。しかし、維心があれほどに執心していた王妃を、これほど長期に傍から離すのは不自然ではあった。

それでも、それを指摘できるものはおらず、宮は表面上は滞りなく回っていた。

将維が、父を訪ねて居間へ入ったのは、朝も早い時間であった。父はもう起きていて、何かを握り締めてじっと意識を集中している。

将維は邪魔をしてしまったかと、出て行こうとした。父は、ハッとしたように将維を呼び止めた。

「将維」と維心は将維を見た。「何か用があったのではないのか。」

将維は頷いた。

「急ぎの用ではございませんので。お邪魔をして申し訳ございませぬ。」

維心は、じっと将維を見た。

「主…」と少し考えた維心は、目を見開いた。「そうよ、将維!主、母に念で呼びかけてみよ。」

将維はびっくりした。母が不在の真実を、自分は知っている…姿を隠して父すら探せない母を、我が見つけられるとでも言うのか。

「しかし父上…」

「やってみよ。」維心は畳み掛けるように言った。「今、ここで。」

将維は仕方なく、それで父の気が済むのならと、広域に念を飛ばして母を探した。すると、将維の意に反して、海岸沿いに何かが引っかかった。

将維は、驚いて顔を上げた。維心がその様子を見ている。

「…やはり読めたな。」

将維は戸惑いながら頷き、念を飛ばしてみた。本当にこれは母なのか…?

《母上…?》

しばらくして、母の声が答えた。

《将維?》

将維は父を振り返った。間違いなく、母だ。

《母上!我になぜに母の気が読み取れるのでしょう。》

母は苦笑しているようだ。

《子達とのつながりは残したからよ。私の子達は私を見つけられるわ。もしかして、父上があなたに私を探せと命じたの?》

将維は父の目を見た。

《…はい。母上、我は父に逆らえませぬ。聞かれたら、答えねばなりません。》

母は少し黙った。切られてしまったのかと将維は不安になった。

《…そうね、ごめんなさいね。もう誰とも話さないほうがいいのかもしれないわ。》

《母上》将維は焦った。《どうかお戻りください。我も母上のお顔が見たい。もう長くお会い出来ておりません。父上は毎日難しいお顔で、政務以外は引きこもって、母上を探しておられる。あまりお話しもされなくなりました…宮は暗く感じられまする。》

父が立ち上がった。将維が驚いていると、それが伝わったのか、母が気遣うような気を出したのがわかる。父は、将維の頭に手を翳した。

「父上?」

将維は声に出して問うた。父は目の前で意識を集中している。

《維月》父の声が将維の頭に響いた。《我をこれほど長く捨て置いたことは、問わぬ。帰って参れ。主に会いたい…。》

母の気が驚いたように変化した。スーッとその気が消えようとする。維心は急いで言った。

《維月!せめて声を聞かせよ!》

《…もう、お忘れくださいませ…。私は神の王妃にはなれませぬ。》

数か月ぶりの、維月の気。それが例え突き放すものでも、維心の心は震えた。十六夜が言っていたのは、このことか…。

しかし、それはすぐに消え去り、つながりは断ち切れた。

「父上…」

将維はなんと声を掛けたらいいか迷っていると、父は視線を落とした。そしてしばらくのち、顔を上げた。

「…だいたいの場所はわかった。我は維月を探しに参る。主は我の代わりを務めよ。時間が掛かるやもしれぬゆえ。」

将維は頷いた。なんとなく伝わって来た母の姿は、全く違うものだった。父に探すのは難しいだろう…。それにもしかしたら、母はすぐにどこかへ行ってしまうかもしれないのだ。母は神の王妃になれないと言った。見つけたとしても、もしかしたら、神世に戻って来ないかもしれない…。

将維は、母にもう会えないのは、絶対に嫌だった。

「父上!必ず母上をお連れください。」

維心は驚いた顔をしたが、頷いた。

「わかっておる。そのつもりだ。」

父は、居間から空へ飛び立って行った。

しかし、自分は母に会いたいが、それが母にとって幸福なことなのだろうか…。

将維はふと、そう思って、自分勝手だったかもと後悔した。

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