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結局、何もかもが、解決したようで解決していないような、もやもやした気分である。
だが、私は夢でも見ていたというのだろうか、意識は暗転したけれども結局死んでいなかったし、目を覚ましたら実家だったというのだから不思議だ。
後日、自宅の庭を掘ってみるとウーパールーパーのミイラらしきものがたくさん見つかった。なぜミイラ化しているのか。そんな事情は知らないが、亡骸はミイラ化しているにも関わらずひどく臭かった。それは今まで私たちの親族が被っていた悪臭と同じ種類の臭いであった。
街は平和になり、ウーパールーパーの呪いを受けていたことを覚えている人間など一人もいないままに、社会は突き進む。何も変わらない毎日は、香田の鉄くずバベルを登ったりした私からすると退屈であったけれども、しかし愚痴っている場合ではなく、生きていくために仕事に励まなくてはならなかった。何も変わらない毎日。香田も消えたまま。鉄くずバベルも二十年前のあの日と同じように、忽然と姿を消してしまった。変わったのは、吾郎くんが稲垣という芸名で芸能界デビューをしたことくらいだ。とっても中二病的なキャラクターが、お茶の間にウケているのだそうだ。
夜空に飛び出ると、月の手前で黒々としていた空中庭園も無くなっている。満月がただただ規則的に、空を翔けまわっている。平和、平凡。そんな二文字に対するやるせなさが私にはあって不満となっているのが、煩わしい。これから先、また自動販売機に愚痴をこぼす毎日が始まるのだろうかと想像すると、溜息ばかりが流れ出てしまう。ああ、どうなるんだろう私の将来は、とかふと考え込んでしまいたくなる。気だるくなってしまう。
夜空の下を歩いた。車が普通に走る大通りを歩いた。小道に入って、香田の住んでいた家の庭の前で、立ち止まった。家がかつてあったそこには、鉄くずバベルがかつてあったそこには、今はもう何も無い。ただただ空き地。草むらが茫々で、暗くて悲しくて空しい。
満月を再び見る。しばらく眺める。ずっと、そこに突っ立っている。
風が吹いた。その時。
「……あっ」
思わず辺りを見回してしまった。しかし夜のとばりが広がっているばかりで、人の気配も無ければ猫の気配も無い。風に乗って「大丈夫」なんて、たった今自信深く声を掛けてくれたその存在は、しかしどこにも見当たらなかった。
私はため息を、ついた。でもそのため息には少し、安堵の意味も込めている。
空き地の中に踏み入って、夜闇の中で密やかに揺れる雑草や、生ぬるい風の安らぎで浸っているとさっきの「大丈夫」という言葉への信憑性が、わずかながら浮かび上がってきたような。
私はしばらく空き地の中心で、座り込んだ。座り込んで、月を見ていた。
「香田は、結局あんたは、なんなんだ…」
そういう無意味な言葉ばかりを暗闇へと溶かして、心を落ち着かせていた。現実に再び対峙するために、今は香田と会えなくても安堵が欲しい。鉄くずバベルが天へ伸び上がらなくても、時間が止まって欲しい。
そう思って遂に空き地で横になってしまって、目を閉じた。
地響きが世界を揺らしたのは、それからわずか数分後のことだ。
地響きが終ってから、私は落ち着かせていた身体を持ち上げ、状況を確認しようとして辺りを見回す。
「……あ」
空中庭園。月明かりを浴びて蒼く光る、花。一本のどこまでも続く通路。
私が突っ立っている地面は鉄くず。鉄くずバベルの鉄くず。
天には無数の星空。満月。喧騒の聞こえない、静寂の空気。
通路へと目を凝らすと、月明かりに輝く、朧な黒髪のはためきが見えた。
走ってすぐのところに。追いつけるところに。
「ほら、大丈夫って」
「本当かよ」
私は鉄くずを蹴った。そして、幻想的な一本道を駆け抜けた。