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第75話  ゲルマニアの首なし麗人⑬

《ゲルマニアの和子~ヴィクトリア・フォン・ローゼンベルク将軍展》は最終日を迎えた。


皇女記念館入口前には徹夜からの行列組ができ、朝9時のオープンからわずか30分で700分待ちの表示が出る。


館長の田端はこの状況を見て初の入場制限の決断を下さざるを得なかった。


その日タカシはショップの各種グッズ補充に忙殺されていた。


《ヴィクトリア将軍 1/10スケールフィギュア》

《元帥服コスプレセット》

《ベルリン英雄記念館写真集》

《ゲルマニア戦記~真実の物語》

《将軍萌画プリント特製T シャツ》

《美しき女将軍~イメージソングCD》

《将軍の愛したおやつ~ハイデルンチョコ詰め合わせ》等々


どの商品も殺人的な勢いで棚から消えていく。


(あひ―!勘弁してくれ―!)


タカシはフラフラになりながらも、ふとグッズショップのコーナーに設置されているモニターを見上げた。


そこではRHKの生放送特番が放映されている。


調度、昨日の漫才に関してお笑い芸人達による座談会が始まるところであった。





司会者『さあ今日はお笑い芸人の方々にお集まり頂きました。《千鳥足》《サンドイッチボーイ》の皆様です。昨日の記念館の漫才のビデオをご覧になって皆さんいかがでしたでしょうか?』


千鳥足・ノビ『それより相方の職員が96歳ってどういう雇用形態なんじゃ?大丈夫か記念館!』


千鳥足・大五『そこは突っ込んだら行かんのじゃ(笑)』


サンド・建手『でもネタ古かったよね。《セ―フセ―フは役所の仕事》って。今の時代に見ることないでしょ、まず』


サンド・富山『《競輪時計》とかもあったね(笑)』


千鳥足・ノビ『その辺はあのばあさんが黒幕じゃ!絶対に裏で仕切っとる!』


千鳥足・大五『しかしノビよ。あのネタをわしらとかがやったらまず受けん。美麗な将軍様がやるからおもろいんじゃ』


千鳥足・ノビ『いや!おもんないぞ!あんな高貴で華麗な方に《ガタロウ》とか言わすなよ!わしゃ 悲しいぞ!』


サンド・建手『でもさ、後半の窓口のネタとかお笑いをよく見てるよね。あの不条理なボケを畳みかけていく感じなんか僕らのネタでもやるもんね』


サンド・富山『それに関西弁もすごい板についてた。もしかして将軍様はネイティブじゃないか(笑)』


千鳥足・大五『しかし何と言ってもわしは 《エリザベス》にやられた。しかもオスじゃ!』


千鳥足・ノビ『あのドーベルマン、工事中の青龍の門に人が近づかんようにほんまに飼われとるらしいぞ』


サンド・建手『じゃあさ、バラの花束持っていったら吠えられないんじゃない?』


サンド・富山『どうしておかまの犬に媚を売りに行くんだ?』


千鳥足・大五『建手さんなら大丈夫じゃ!』


千鳥足・ノビ『ちょっと待て。お前ら何の話をしとるんじゃ!司会者の方もお困りじゃ!』


司会者『あ、はい!皆さんありがとうございました!RHKスタジオから生放送でお送りしました』




 

(すごい…もうあの漫才がテレビで取り上げられてる)


「ちょっと!山田さん!手を止めないでください!」


タケシがテレビ画面に気を取られていると、カウンターから苛立った声が飛ぶ。


「す、すいません!」


慌てて商品の陳列に手を戻すタカシ。


(でも今日が最後なんだな…)


彼は忙殺されながらも一抹の侘しさに胸を支配されていた。



皇女観覧室ではヴィクトリアが観覧者に向かって笑顔で手を振る姿がモニターに映し出されていた。


その姿を見つめる皇女の表情はいつもと変わらず気高さと威厳を保っていた。


観覧者の一組の親子が玉座の間を見学していたが、フリルのブラウスを着た幼女が母親に尋ねた。


「ねえ、ママ。皇女様はどうして寂しそうなの?」


「え、何を言ってるの茉莉花。皇女様はいつも通りよ」


「え…そうかなあ…」


茉莉花は不思議そうに首をひねりながら和子の顔を見つめていた。








翌日の朝。


まばゆいばかりの朝の光に皇女記念館は照らされていた。


記念館は臨時休館日となり、退館するヴィクトリア見送る為に職員全員が整列した。


特別展示室からエントランスまで続く赤いカ―ペットの上を、両側に並んだ職員の拍手に包まれながら

ゆっくりと出口まで歩いて行くヴィクトリア。


正面玄関に着けられたリムジンの前で田端は彼女と別れ際の言葉を交わした。


「ヴィクトリア将軍…貴方をこの記念館にお呼びする事はブリテン博物館で最初にお見掛けした時から私の夢でした。本当にありがとうございました」


田端は深々と頭を下げた。


「又お誘いをお待ちしてます」


ヴィクトリアも一礼する。


次に馬場が声をかけた。


「又、ネタを考えとくから…待ってるで!」


「ええ、必ず!それ迄お元気で」


二人はグ―タッチする。


そして最後にヴィクトリアは直立不動のタカシに近付いた。


「”今回は”去るわ。又な!」


そう言うと彼女は生首を持ち上げタカシのほっぺにチュッと唇を当てた。


(え!な!ちょ…)


事態が整理出来ずに唖然とするタカシ。


そんな彼を尻目にヴィクトリアは颯爽と後部座席に乗り込んだ。


そして礼砲が鳴り、ゆっくりとリムジンは去っていった。


(”今回は”とはどういう意味だろう…)


タカシはほっぺにキスマ―クを付けたまま、狐につままれた気分で車が視界から消え去るまで見つめていた。




一ヶ月後。


ベルリンの英雄記念館は今日も大勢の観覧客で賑わっていた。


玉座の間ではいつもの様にヴィクトリアが観客に向かって愛想を振りまいている。


彼女が動作をする度に観客から歓声が上がる。


そんな中、ひときわ大きな呼び声が響いた。


「ヴィクたま―!」


彼女は、はっとして声の方角に目を向けた。


そこには、彼女の萌画がプリントされたTシャツを着て肩を組んだ二人の黒縁眼鏡姿の礼和人がいた。


「あっ!ブ―ヤン!ハヤミ―!」


ヴィクトリアは弾ける様な笑顔で手を振った。




ベルリン英雄記念館の中央尖塔の上には巨大な鷲が止まって世界を睥睨している。






 次回  《斑目の息子》


「貴様も…この記念館も…全て消し去ってやる…」


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