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第72話  ゲルマニアの首なし麗人⑩

2日目も大盛況だった皇女記念館。


その長い1日が終わった。


翌日、タカシは休憩時間に事務室のテレビを付けると、RHKテレビの特番が放送されていた。


その中で三人のアニメ界の巨匠を招いた座談会のコ―ナ―が始まった。




アナウンサー『さあ。本日は現在のアニメ界を牽引する御三方に来て頂きました。宮崎隼人さん、高畠勇さん、安野英明さんです!本日は宜しくお願い申し上げます!』


三人『宜しくお願いします』


アナ『さて。昨日のヴィクトリア将軍のインタビューは話題を呼びました。とても好意的な反応が多い中、一部「高飛車ではないか?」「高圧的では」との声も寄せられましたが、この事についてどう思われますか?』


宮崎『あのね!あれは高飛車じゃないの!』


アナ『と、おっしゃいますと?』


宮崎『あの時代のまだ王制がある中で、王家にゆかりのある侯爵家の御長女なわけでしょ。御自身の立場を明確化する必要があるわけ!差別でなくきちんと身分の区別をする中で主君と家臣の役割分担がはじめて出来るんだよ。現在の礼和みたいに、みんな平等だ!一億総中流化!みたいに毒された価値観であの言動を評価したら駄目だよ!』

 

アナ『は、はい。あの…高畠さんは如何ですか?』


高畠『……………』


アナ『あの…高畠さん』


高畠『……馬鹿な質問をしたと思いましたね…』


アナ『え!』


高畠『あの首を失い死を乗り越えた武人に「何に興味有るか?」というのは無いと思いましたね…それに対する彼女の回答が見事でしたね。何も無い…と。無い質問に対して無いと返したのはさすがですね』


アナ『は…はは。あ、安野さんはどう感じられましたか』


安野『は~~~~~い』


アナ『あ、あの…いかがですか?』


安野『痺れた。脳天を撃ち抜かれた感じ』


アナ『はい?』


安野『洗礼者ヨハネを超えたね。俺の中では。強烈な死と妖艶を纏った高位者の奏でる氷の旋律。いいね。とてもいいよ!』


アナ『うう…あ、ありがとうございました』




(昨日のインタビューが早速取り上げられてる)


タカシは食い入る様に画面を見つめた。



その日の夜、彼はいつものように清掃に入る。


そして特別室に差し掛かった時、玉座の方を見て仰天した。


ヴィクトリアの胴体が玉座の前で観覧席側に背中を向けて倒れているのである。


「ヴィクトリア様!」


タカシは絶叫して玉座の間の扉の鍵を慌ただしく開けて中に突入した。


「み、御首みしるしは!?」


彼は部屋内をキョロキョロすると、舞台端に長い 金髪を広げて転がっているのを見つけた。


タカシは慌てて駆け寄り拾い上げるとヴィクトリアの顔は涙で濡れていた。


「い、一体どうなされたのです?」


「ほっといてんか…」


「な、何故こんなことになっておられるんですか?」


「首は捨てた…」


「ええ!」


「うちに…首はいらんのや!」


「どうしてそんなことをおっしゃるんですか!」


「悔しい…腹立つ…うちはドSの女王様認定されてしもた。もう全て…どうでもようなってん」


「そ、そんな…ヴィク様…投げやりにならないでくださいよ」


ヴィクトリアは恨めしそうな目でタカシを睨んだ。



「山田はん…うちをお姫様抱っこして」


「はひ!唐突に何をおっしゃるんですか?」


「うちは…か弱い女子やねん。だから抱っこや!」


「あの…おっしゃる意味が…そもそも将軍のお身体は国家的な庇護のもと…」


「そんなんどうでもええねん!だっこしてや!抱っこ!抱っこ!抱っこ!」


ヴィクトリアのわがままにタカシは閉口したが収まりがつきそうに無い。


「わ、わ、分かりました。1回だけですよ…」


「えへ!わかったらええねん」


そう言うと胴体がむくっと起き上がりタカシの元に駆け寄ると、彼からひょいと生首を取り上げ、背中を押し付けた。


首がなくともヒールの高さもあり、タカシとほとんど身長が変わらない。


元帥用コートの背中側に入った大きなバラの紋章の刺繍を見てタカシは一瞬息を飲んだが、腹をくくって腰をかがめて両手を差出しヴィクトリアを持ち上げた。


その時であった。


特別展示室の様子を見に来た和子とバッタリ目があった。


「ひえ!和子様!」


「た、たかしさん!一体どういうこと?」


「い、いえ…これには深いわけが!」


激しくキョドるタカシ。


ヴィクトリアは秒速で唾を目の下に塗ると嗚咽しながら言った。


「姫さん…聞いて。ひっく…山田はんな、『俺の女になれ』言うて飛びかかってきてな、うち…男のたくましい力で抱きかかえられてしもてん」


「な、な、なにをおっしゃるんですか?」


タカシは両目が飛び出そうになった。


「ヴィクトリアさん…」


「なに?」


「嘘泣きはいけませんわ」


「やっぱり分かる?」


「はい。バレバレです」


「はあ。しゃーないな。姫さんには嘘はつかれへんわ。山田はん降ろして」


(ふう…助かった)


タカシはヴィクトリアを片足ずつ着地させる。


彼女は上着の裾をパンパンと払うと、少し恨めしげに和子を見つめた。


「でもな、うち…女帝扱いされて、ほんでむしゃくしゃして山田はんに無茶言うて…こんな事になったのも姫さんにも責任があるんとちゃいますか?」


「え!」


和子はドキッとした。


「え!とちゃいまっせ。うち…姫さんの言う通りやったんや。そしたらあの始末や」


「そ、そうね…ごめんなさい。実はあのセリフをしゃべるヴィクトリアさんを見たかった、ていうのもあったの。でもまさか観客の皆様があんな反応をするとは」


今回、皇女観覧室でもスクリーンが降ろされ、ヴィクトリアの様子がリアルタイムで映し出されていた。


「うう…ひどい!うちは速水の手の内やで」


嘆き節が止まらないヴィクトリアである。


「ふう…困ったわね。何とかしないと…」


暫し沈思する和子。


この時、ふとタカシが半分投げやりに漏らした。


「もうこうなったら…関西弁を喋っても良いんじゃ?」

 

和子の右眉がピクンと上がった。


「アカンて。速水の奴切れよるで」


渋い顔で横手を振るヴィクトリア。


「いや…いいかも。そうだ!漫才をされてみてはいかがでしょうか?」


ヴィクトリアとタカシは目が点になる。


「ま、漫才!一体どこでやりまんの?」


「もちろん玉座の舞台です」


「どなたはんと?」


「当記念館に1人だけ関西の方がいらっしゃいます」


タカシは顔色が変わった。


「ま、まさか。馬場さんですか?」


「ふふ…あの方とヴィクトリアさんが組めばきっと面白いものになります」


「だ、駄目ですよ!館長と速水さんが許可するわけありません」


「そうね。だからゲリラでやるの」


「はひ!マジですか!?」


ヴィクトリアが半ば呆れ顔で尋ねる。


「全くぶっ飛んだ話やな。でも…姫さん。漫才が観客に受けたとして、それでどうなんの」


「速水さんの前で観客を沸かすことができれば、それで彼を説得できるかも」


「そうかもしれへん…が、あの男もなかなかのたまやからな…」


「ええ、だからこんな手も打つの。二人ともちょっと耳を貸して」


タカシとヴィクトリアは皇女の口元に耳を寄せた。


皇女の囁きを聞いて驚愕の表情を浮かべる2人。


「姫さんには参るわ…そこまで考えてはるとはな」


「ね!やってみる価値はございますでしょ!」


「うん。しかしこの策が上手くいくのは、うちらが観客をドッカンドッカン沸かすことが前提やな」


「はい。その通りです。たかしさんも力を貸してくださいね」


「マジですか?もう…なんなりと…」


タカシは諦め顔だ。


「よし!決まりね!」


和子はシルクグローブの手甲を差し出した。


「よ-し!いっちょやったるか!」

「もう…どうなっても知りませんよ!」


二人はその上に各々の手を乗せた。





次回   玉座漫才劇場開帳!
















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