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第6話 採用面接

(一)


皇女忠国記念館の会計管理職員が難治性の病気「大腸潰瘍炎」治療の為、長期離脱が決まった。


そこで、急遽人員募集面接を実施する事となった。


記念館の休館日。


面接席が皇女観覧室のガラスケ-スの前に設営された。


これは皇女も採用に御参加頂くという形式上の建前ではあるが、皇室庁の意向であった。


面接官は以下の3人.。


記念館館長 田端耕作 51歳 

黒縁丸眼鏡の七三分けにちょび髭

実直そのものの男。


皇室庁特別顧問 東郷平九郎 101歳

生前の皇女を間近で知る数少ない人物。

庁の重鎮にして御意見番。

数多の勲章に飾られた軍服を着用し、軍刀を杖代わりにしている。胸まで伸びた白髭を蓄え、皺くちゃの顔に鋭い眼光が光る。


清掃担当員 タカシ 20歳

館の隅々まで知る男として特別に抜擢。

(何故僕が…面倒臭いなあ…)

タカシはあまり乗り気では無かった。


(ここで面接!?…どの様な方が来られるのかしら…)

和子は一抹の不安を感じていた。



面接官は皇女を背にする形で3人並んで着席した。


「では最初の志望者の方どうぞ」館長が呼び出し、

燕尾服に縞のネクタイ姿の中年男性が入室した。


佐藤満サトウ ミツルさんで宜しいですか?」

「はい!」

満はガチガチに緊張していた。

「皇女様の御前での面接と伺い、身嗜みを正して参りました!」

(職員面接で燕尾服!?ふふ、)

和子の腹筋が反応した。 


「志望動機をお教え下さい」

「私は国家に身を捧げられた皇女様を心より尊崇しております!殿下の元で粉骨砕身して働きたく存じます!」満は顔を紅潮させた。


「何か技能はお持ちですか?」


「はい!。私は首がとても柔らかいので180°曲げる事が出来ます!」


「ええ!?180°!」館長が叫んだ。


「やってみせよ」平九郎が満をギロリと睨んた。


「はい!」満は首を両手で持ち、捻ってみせた。


体は面接席を向いているのに顔は完全に向こう側を向いている。


(ま、まあ!信じられない!)

和子は満の後頭部を見ながら絶句した。


「どうですか?」


「…どうですか、と言われても… 募集職種とはあまり関連が無い様な…」館長は汗を拭きながら答えた。


「駄目ですか!不合格でしょうか!」

満は半泣きで叫んだ。


「合否は追ってお伝えしますので、本日のところはお引取り下さい」慌てて館長が伝えた。


満は深くお辞儀をして退出した。


(二)


「次の方どうぞ」


「バイ!」巨大な声が響いた。

ズシン、ズシンと足音を響かせながら、タンクトップに半パン姿の見上げる様な巨漢が現れた。


「鵜戸野 大介ウドノダイスケさんで宜しいですか?」

「う!うほ!おでウドノ!ウドノダイスケ!」


「鵜戸野さんは…えっ!尋常小学校を中退!?」


「…おで、小5の時に先生の顔をやさしくなでた。そしたら先生の頭360°回って動かなくなた。それでおで、学校追ん出された」


「ひええっ! 先生は死んだのですか!?」


「お、おで、先生ころす気無かた!おで、先生と仲良く…仲良く成りたかただけ!仲良く…!」

うおおおと号泣しながら鵜戸野は机を掴んだ。

机はミシミシと亀裂が入り始めた。


「お、落ち着いて下さい!分かりました!鵜戸野さんに害意が無かったのはよーく理解しました!」

館長は慌ててなだめた。


鵜戸野は「すびばせん」と言って机から手を放した。


館長は気を取り直して「貴方はどんな技能が有りますか?」と質問した。


鵜戸野は満面の笑顔で答えた。

「ここに悪い奴来る!おでそいつぶっ飛ばす!」


「…今回の募集ではそうゆうのは求めて無いのですが…」館長は頭を掻きながら言った。


そして、館長はふ―っと深呼吸してから質問した。

「1+1はいくらですか?」


「1+1!? うぐう!!」


鵜戸野は苦悶の表情を浮かべて体を捩りながら悶絶し始めた。

「うごおおお!ぐうううう!」


和子はその様子を見たくないのだが 目を瞑るわけにはいかない。

(笑っちゃ駄目!和子耐えるのよ!)


「ふぐおおおおお……ハァハァ」鵜戸野は呼吸を整えてから巨大な声で叫んだ。


「2でず!!!」


仕切りのガラスがピリピリと震えた。


館長は暫くの沈黙の後「…正解です」と消え入る様な声で答えた。


「うおー!!!!オデお利口さん!!」

鵜戸野が絶叫した。


館長は疲れた表情で合否は追って連絡する旨伝えた。


鵜戸野は満面の笑顔でズシン、ズシンと足音を立てて退出した。


東郷は両手で刀にもたれ掛かけ、眠っているかのごとく静かに座っていた。


(三)


「次の方、どうぞ」

案内を受けて入室したのは茶色の着物姿で、頭をお団子結びにした、腰の曲がった老婆であった。


脱糞馬場だっぷんばばあさん、97歳で宜しかったですか?」


「誰がだっぷんババアでんねや!」


「え?」


「誰がだっぷんババアでんねや言うてますのや!!」

老婆は憤懣遣る方無い様子で館長を睨みつけた。


「それはなあ、あんた、(ダツクソ ウマバ)と読みまんねん!それをあんた、だっぷんババア言われてしもたら、わたいのプライドはどうなりまんねん!だっぷんババアて!」


(ダツクソウマバも、中々ない名前だな…)

タカシは内心思った。


「申し訳ございません!」館長は慌てて謝罪した。


「あの…志望動機をお伺いしても宜しいですか」


馬場は憤然としていたが気を取り直して答えた。


「わたい、この前記念館に行きましたんや。そしたら急にお腹がキュ―と痛うなりましてな、大を粗相してしまいましたんや。そしたらそこの若い職員さんが掃除してくれて、拭物やら下着やら用意してくれてな、ほんまに親切やったんや」


館長はギョッとしてタカシの顔を見た。タカシは舌を出した。


「ほんでな、こんな親切な人がいてはる職場はええなと思って志望しましたんや。」

馬場は皺だらけの顔でにっこり笑った。


館長は、はぁ-と溜息をついた後、ポケットからお弾きの入ったサクマドロップの缶を取り出した。

「この中に入っているお弾きの数は数えれますか」

と質問した。


馬場は「わたいはこう見えても帝国女学院を出てまんねん!それを子供のおもちゃが数えられるか?て、馬鹿にしてまんのか!」と激怒したが「何が悲しゅうてお弾き数えないかんのや…」とブツブツいいながらも数え始めた。


「ひいは ひとつの観音様よ 観音様は陽楽寺」

お弾きをひとつつまんで缶の横に置いた。


「ふうは ふたつの弁天様よ 弁天様は寒山寺」

ふたつ目を並べた。


「みいは みっつの大黒様よ 大黒様は法然寺」

3個目を並べようとした時、馬場はひっと唸った。


「大黒様は法然寺?やのうて来恩寺?どっちでしたやろか?」


「…分かりません」館長は答えた。


「いやあ!えらいこっちゃ!分からん様になってしもた!しゃあない。最初からや。

 ひいは ひとつの 観音様よ…」


「待っ!待って下さい!分かりました!もう結構です!」館長は慌てて止めた。


そして合否の件は後日になる事を伝え、馬場は退出したのであった。


(四)


観覧室では重い空気が流れていた。


「なあ、山田君、今回の志望者はどうだろうか?」

館長はタカシに尋ねた。


「いやあ、会計担当としては中々に厳しいのではないでしょうか。」


「君もそう思うか!そうだよな!今回は残念ながら採用無しという事で…」と館長が言いかけた時であった。


今まで眠るが如く沈黙していた東郷平九郎が、かっと眼を見開いて大喝した。


「この痴れ者共ぐぅわ―!!」


「ひい!」館長とタカシは直立した。


「うぬらは彼奴の何を見ておったんじゃあ!」


「とおっしゃいますと?」館長が震えながら尋ねた。


「彼奴らは確かに足りぬ所が多い。しかし共通しているものがある 。それは彼らのやる気じゃ!熱意じゃ!」


「はい…」


「ここをどこだと思っておる! 殿下の記念館ぞ!」


平九郎は遠い目をして言った。


「和子様は 常に人を活かす道を考えておられた。

きっと殿下ならこう言われるであろう。『平九郎 彼らに機会を』と」


(言わない!言わない!絶対に言いません!)和子は半泣きだった。


「という事は」館長は恐る恐る尋ねた。


「うむ!全員採用じゃ!」平九郎は高らかに笑った。


(まじか!)タカシはげんなりした。





真夜中の観覧室


「わたくし、あの方々が目の前に来られたら腹筋を保つ自信がございません…」

和子は悲痛であった。


「僕も泣きそうです。彼らの教育係を頼むと言われました」

タカシもうなだれていた。


2人の嘆きは尽きないのであった。


次回 人ならざる者が姿を現す。



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