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第5話 ボノボの カンタくん


本日の記念館は平日の為、 比較的来場者がまばらであった。


そんな昼下がり 和子は一組の来場者に目を疑った。


(え!お猿さん?それにしてはちょっと大きい)


彼女の ガラスケースの前に、グレーの作業服姿の女性に手をつながれた真っ黒な毛並みの1匹の類人猿が姿を現した。


ボノボの カンタくん であった。


ボノボは霊長類の中では最も知能が高いとされる。


一時期は ピグミーチンパンジーと呼ばれ 一般のチンパンジーと混同された時期もあったが明確に違う種族である。


彼は、国立霊長類研究所で飼育されている。


礼和国は北限の猿がいることでも知られ、人類の起源に対するヒントを探るため、類人猿の研究に力を入れていた。


特に注力しているのは ボノボの言語習得に対する研究 である。


ボノボは知能が高く、 様々な絵文字を覚えてそれを組み合わせる事によって意思表示をすることができた。

カンタくんは研究所の中でも特に言語習得に関して優秀であった。


そんな カンタくんがある日 、飼育担当員に絵文字でこう 意思表示をした。


「言葉を話してみたい」


研究員は驚いたが、 様々な討議の結果、 カンタくんの発声訓練を行うこととなった。

世界で最初の試みであった。


ボノボの声帯は、人間の言語を発声するのに適していない。

しかしカンタくんはその熱意と努力、そして 飼育員の熱い協力によりついにそれを克服した。


カンタくんは喋れるようになったのだ。


そして さらなる研究の試みとして、カンタくんの情操教育の為、記念館の許可を得て飼育担当員とともに皇女の前に訪れたのであった。


カンタくんは、曇り無き澄んだまなこで和子の顔をじっと見つめた。


(ボノボなんて 初めて見た…すごい毛むくじゃら。

でも優しい目をしている)



「どう カンタくん。 ここに来た感想を聞かせて頂戴」

飼育担当の司 玲子研究員が尋ねた。


「はい。誠に皇女様は麗しいです」とカンタくん が答えた。


(!?、ボノボが喋った!)和子は驚愕した。


「この美しさは、外面のみならず、国の為に命をお捧げになった皇女様の崇高な魂の輝きの現れと、畜生の身ではありますが深く感じるのでアリマス」


(す、すごい!信じられない!でも、ふふ。)

和子は強く感心すると同時に腹筋のピクっとした。


そうである。


類人猿 は動物園でも子供達に人気があるように、その存在だけでユーモラスなのである。

それが流暢な人語を喋るわけであるからそのギャップでどうしても笑いを誘発してしまうのであった。


カンタ君は知性と慈愛に満ちた深い瞳で和子の顔をじっと見つめた。


(く、ふふ、そんな目で見ないで)


「そうだ カンタくん 。皇女様に捧げる詩を作ったのよね 。ここでご披露してみたら」玲子が言った。


「かしこまりました!畜生の身で誠に僭越ではありますが 、 吟じらせていただきます」と言って カンタくんは自作の詩を披露した。


「西の大国万の砲弾と億の銃弾にて礼の国を蹂躙す


 礼の国万の命と億の悲しみにて存亡の危機に瀕す


絶望の嵐の中 皇女立ち上がりてその首を絶ち狼国の将軍の胸を治む゙る


国 繋がりて億万の民 皇女を祭壇にて神たらしめる


嗚呼!誠の忠国の情 まさにこの世に比肩しうるものなし


果てしなき万涙の情を持ちて ここに皇女に捧ぐるものなり」


(ええ!この詩をカンタくんが!?)

和子はさらに驚くと同時に、二本足で立っているカンタくんの姿と見合わせてさらに腹筋が動き出した。


その時であった。


急に カンタくんがもじもじとした表情で話し始めた。「私は懺悔せねばなりません」


「どうしたの カンタ君」玲子が不審がった。


「私は畜生の身でありながら、皇女様を愛してしまいました」


(!?うくっ!だ、駄目!)


「今皇女様を目にして自分の気持ちにはっきり気付きました 。私は 皇女様と結婚したいのでアリマス!」


(ふふっ、ふふふっ!)


和子の腹筋が限界を迎えたその時だった。


「無理よバカ!いい加減にしなさいよね!」

という声が響いた。


観覧室の入り口近くに目を向けると、その横の壁にもたれかかり 両腕を組んだ別の美ボノボが立っていた。


「サクラちゃん!」玲子が叫んだ。


サクラちゃんも霊長類研究所に飼育されているメスのボノボであった。


彼女もまた言語発声の訓練を受けており、 カンタくん に劣らず優秀な実績を残していた。


「サクラちゃん。 車で待っててって言ったじゃない!」

「カンタが何言い出すか心配だから見に来たのよ。」


サクラちゃんはニ本足で歩いて カンタくんに歩み寄った。


「サクラ!何しに来たんでアリマスか!」

カンタくんは眉間にしわを寄せた。


「あんた 、身の程を知りなさいよ。そんな恋 成就するわけないじゃない」

サクラちゃんは冷たく 言い放った。


「そんなことは無いでアリマス! 愛は種族を超えるのでアリマス!」カンタくんは叫んだ。


その瞬間 パンッという音がした。

サクラちゃんがカンタくんをビンタしたのだ。


「あっ!ボクは親にもぶたれたことがないのに!」


「暴力はダメよ! サクラちゃん」

玲子が慌てて制した。


「勘違いしている獣の目を覚ましてあげただけよ」


そう言うとサクラちゃんはカンタくんの 耳を引っ張って出口の方に向かって行った。


乾太くんは「いてててて」と言いながら引っ張られて行った。


出口でサクラちゃんは、和子の方を向いて ウインクした。


(あらあら。でも助かったわ)

和子は胸をなでおろした。



真夜中の観覧室。


「結構 私ってモテるのね 。うふふ」


「笑い事じゃないですよ、まったく」

タカシは渋い顔をしていた。


「動物は結構やばいですね。今後は気をつけないと」


「今回で耐性がついたから大丈夫」


「そうだったらいいですけどねえ」


タカシは不安そうだった。


その予感は的中するのだが それはまた後の話。


夜は更けていく。

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