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第46話  タカシの休日

薄汚れたカーテンの隙間から光が差し込む。


布団の中からニュッと手が伸びて傍らに置いてあった真鍮のベルのついた目覚まし時計をつかんで再び中に引っ込む。


「ぎゃあ!」


叫び声が響き布団を跳ね飛ばすと、仰向けのタカシは針が10時を示す時計を持った両手を震わせた。


「何で目覚ましが鳴らないんだ!」


寝癖でくしゃくしゃになった頭をかきむしりながらタカシはぼやいた。


(うん?待てよ…)


タカシは壁にかけてある皇女記念館特製カレンダーに目を向けた。


今日の日付に赤丸がついている。


「そうだ…今日は非番だった!ふう…」


安堵のため息と共に再び布団に横たわるタカシ。


二度寝しようとして布団をかぶったが、すぐにガバッと跳ね起きた。


「ダメじゃん!今日母さんが来るって言ってたな!あーもう…久しぶりの休みなのに…」


独り言でぼやくとグーッと腹が鳴った。


(そういえば昨日の晩忙しくて何も食べてなかった…)


空腹を思い出したタカシはヨレヨレのパジャマ姿で洗面台に向かうと《虎印の粒塩激増し歯磨き粉》をチューブからひねり出して最後の 1 絞りを歯磨き粉に塗った。


「グェ~!」


歯磨き中激しくえづくタカシ。


続いて顔を洗い真鍮の蛇口を閉め、黄ばんだ皇女記念館タオルで顔を拭く。


続いて朝食の《タカシスペシャル》の準備に取り掛かった。


畳の上に転がっている《オオヤマザキのニコニコ食パン》の袋を取って賞味期限を見るタカシ。


(昨日で切れてるな…まあいい…)


中から二枚取り出す。


続いてミニ台所のカビ臭い下箱の中から鯖の水煮缶を取り出す。


「何だ…最後の1つかよ…」


ぼやきながら缶を開けてそのまま箸で中をぐちゃぐちゃにかき混ぜた。


それを1枚目のパンの上にぶちまけ均等に成らすとその上に冷蔵庫から取り出したマヨネーズをぶちゅうと絞りかける。


さらにその上にもう一枚のパンをかぶせてぎゅっと抑えた。


タカシスペシャルの完成である。


「頂きます」


タカシは合掌するとタカシスペシャルを両手で鷲掴みにし、パンの間からマヨネーズと鯖をはみ出させながらむしゃむしゃと咀嚼した。


「美味い!なんて美味いんだ!」


タカシは自讃しながら膝をパンパンと叩く。


ちょうど最後の一切れを口に入れた時、色がくすんだ化粧ベニヤ貼りの木製ドアをノックする音が響いた。


「タカシ!いる?タカシ!」


(え、早いな…)


たかしは口の中のパンをごくりと飲み込んでため息をついた。


「パンパン叩くなって!ドアが壊れる!」


「早く開けて!荷物が重たい!」


「今いく!待って!」


少し苛立ってドアを開けると、そこにはくるくるパーマ頭に茶色のヨレヨレのスカ―トス―ツ姿の中年女性が立っていた。


その両手にはパンパンに膨らんだ緑色の唐草文様の風呂敷包みがぶら下げられている。


山田やまだ 美枝みえ 43才 


タカシの母親である。


「何故すぐ開けてくれないの!腕がもげちゃあう!」


「着くの昼過ぎって言ってただろ!」


「そんなこと言ったかしら?」


「それになんだよその荷物…」


「ああ…これね…あんたの為に持ってきてあげたの」


美枝は 風呂敷包みを床に置くと慌ただしく開いた。


中には大量の角餅と鮭とばが入っていた。


「又…こんなのばっかり…いっぱい」


鮭とばの袋を手に取りながら呆れるタカシ。


(これ硬いんだよな…日持ちはするけど…)


「あんた…どうせろくなもの食べてないんでしょ」


「そんな事…ないよ」


「嘘おっしゃい。台所は汚いし部屋は散らかってるし」


「うっさいなあ…」


「まあ、まずは一服するわよ。やかんどこ?」


「何すんの?」


「お湯を沸かすのよ。いいお茶持って来たから」


「要らないよ!」


「あんたねえ…お茶ぐらい飲みなさい!体にいいんだから…」


美枝はそう言いながら、油がこびりついた一口コンロにやかんを乗せマッチで火を点火する。


「ところで今日は準備できてるんでしょうね」


「はあ?何の事」


「母さんを記念館に連れて行ってもらうこと」


タカシはのけぞった。


「なに!それ!聞いてない!」


「いいや!母さん言いました!行く前にちゃんとあんたに言いました!」


「絶対言ってない!」


「母さん初めてだから楽しみで仕方がないわ。函館フェリーの中でもワクワクして寝れなかったのよ」


(聞いてない…まるで遠足前の小学生みたいだな)


無力感を禁じ得ないタカシ。


やかんから蒸気が吹き出し慌てて火を止めて急須に湯を入れる美枝。


「あらやだ!こんなお椀しかないの!もっとちゃんとしたもの買っときなさいよ!」


美枝はブツブツ文句を言いながら、記念館特製マグカップとひび割れたひょうたんマークのついた湯のみにお茶を注いだ。


「うるさいなあ…普段お茶なんて飲まないんだよ…アチチ…」


「ああ…やっぱり静岡のお茶は美味しいわ!ずず…」


半分ぐらいお茶を飲み終わったところでタカシは切り出した。


「あのさ…今日俺非番なんだけど…」


「ふうん。あんた職員だから入場無料でしょ」


「そういう問題ではなくて…」


タカシはいくら攻撃しても HP が減らないラスボスを相手にしている気分になってきた。


美枝はお茶の残りを飲み干すと勢いよく立ち上がった。


「さあ!そんな汚いパジャマを脱いで!早く着替えなさい!母さん待ちきれないわ」


(マジかよ…せっかくの休みが…)



残ったお茶も飲み干す気力のないタカシであった。




次回  美枝 初めての皇女記念館















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