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第43話 皇女の策略⑤

緊張に震える大きな瞳としなやかな睫毛。


ピンクのリボンに束ねられたサラサラの金色のロングヘア―。


上質な黒シルクのワンピースに金ボタン、白いカウスと大きな襟が特徴的な桜華学園女子制服。


桜をモチーフにした金章ベルトに閉められたウエストが驚くほど細い。


入場した瑠璃の姿にタカシは息を飲んだ。


(想像はしていたけど…まさか…これほどとは…)


最早美少女という形容ですらチープに感じさせられる。


同様に言葉を失っていた田端は、面接者席の横で立ちすくんでいた瑠璃にはっと気付き、慌てて「ご着席ください」 と声をかけた。


「失礼します…」


節目がちに座席に上品に足を揃えて座る瑠璃のその様は《乙女》という言葉が具体的に形になったかのようであった。


オオトリ 瑠璃子ルリコさん 17才でよろしかったでしょうか?」


あらかじめ、示し合わせた通りの問いを行う田端。


「は、はい…」


頬を赤らめ頷く瑠璃。


その薄ピンクの唇からは花びらの香りが漂うかのようであった。


「ふむ…可憐なおなごよのう…」


平九郎は右眉をぴくりと上げる。


(やった!文句のつけようのない女の子よ!)


ガッツポーズをとる学ラン和子。


「しかし…そのような 儚げな様で…この記念館の激務に耐えられるかの?」


平九郎の問いに瑠璃は一瞬怯んだ。


しかし目つきを改めて決然として平九郎に返した。


「ぼ…あたしは…決してくじけません!与えられたお仕事はしっかりやり通します!」


それを聞いた平九郎は ニヤリと笑った。


「ほう…たゆればすぐ折れるような百合の花の様なおなごかと思うたが…なかなか芯がありそうじゃの。では 一つ質問をさせて貰おう」


「は、はい」


「わしは戦事イクサゴトでしか物を測れん男じゃ。《孫子》の有名な一節を知っておろう。《其疾如風(その疾きこと風のごとく)其徐如林(その徐かなること林のごとく)侵掠如火(侵掠すること火のごとく)不動如山(動かざること山のごとし)》じゃ」


「ええ。存じております」


「その続きを申してみよ」


(ええ!そんなの知らない…)


ごくんと唾を飲み込むタカシ。


(難知如陰、動如雷震よ!瑠璃さん…お願い…答えて…)


両手を合わせてうつむくミニ和子。


「はい…確か…《知り難きこと陰の如く、動くこと雷震の如し》だったと思います」


「その意味は?」


「はい。普段は姿を読ませず、動くときは一瞬で決着をつけよ…ということだと理解しています」


「ふむ!その通りじゃ!女子といえど兵法に通じていなければこの記念館に事あれば役に立たぬからの!お主、なかなかのものじゃな」


ニヤリと歯を見せ長い顎髭を触る平九郎。


(凄い!瑠璃君!)


タカシは心の中で拍手を送る。


「では次の質問ですが…」


続けて質疑に入ろうとする田端を平九郎が制した。


「もうよい…」


「はっ?」


「もうよいと申しておる!充分じゃ。次の者を呼べ!」


「は…はい。では…瑠璃子さん。今回はこれで結構です。1階の待合室でお待ちください」


額に大汗をかきながら田端は瑠璃に退出を促した。


瑠璃は礼の後、髪をなびかせて春風のように退出していった。


「あの学女…真剣な目をしておった…しかし…どこかで見たような…」


しきりに平九郎は首をひねり出した。


「め、名誉顧問!次の方をお呼びしてもよろしいですか!」


田端は慌てて投げかける。


「ぬう…呼べと言っておるではないか!」


「は、はい。次の方…お入り下さい」


(グッジョブです! 館長!)


心の中で親指を立てるタカシ。




「失礼致します」


艶のある、この広い観覧室の隅々にまで染み渡るかのような麗声が響き、面接官全員の目線が入口に立つ人物に注がれた。


その人物は、スカートの両端を軽く持ち、片足を後ろに引いて挨拶をした後顔を上げた。


(え、これ…本当に西園寺さん?)


ミニ和子は目をぱちくりさせた。


足首近くまであるロング丈の黒ワンピースに白い丸襟。


肩フリルと腰リボンがあしらわれたヴィクトリアンメイドエプロン。


足元は白タイツにメリージェンシューズ。


黒曜石のような髪はきっちり結い上げられメイドカチューシャが乗せられている。


いわゆるガチガチの正統派のクラシカル英国風メイド姿であった。


(メイクもすごい…ここまでやるか…)


嘆息するタカシ。


陶器のように白い肌にローズベージュのリップがかすかに微笑みを形作っている。


極細で長めのアイラインにスッキリと端正な鼻筋。


目には少し緋色がかかったカラコン。



全てがまるで等身大の人形のようであった。



淑やかに着座する西園寺の様子を見ながら田端の声は震えていた。


(タ、タカシ君…私は…私は惚れてしまいそうだ…)


(か、館長!)


(分かっている…分かっているが…)


「何をしておる!早く 質疑を始めんか!」


平九郎が机をパンと叩く。


「はっ!すみません…」


ハンカチで慌ただしく額の汗を拭う田端。


西寺光子ニシデラミツコさん、27才でよろしかったでしょうか?」


「はい。仰せの通りでございます」


にっこりと笑みを浮かべる西園寺。


「お仕事は何をなさっておられますか?」


「はい。白鳳堂家にてメイドに従事させて頂いております」


「それでは本記念館に応募した動機を…」


「おい!くだらぬ問いかけはよい!わしから質問じゃ!」


平九郎は眉間にシワを寄せて割って入った。


「はい。なんなりと」


西園寺の周りだけ静謐で神秘的な空気に包まれている。


「メイドといえど主家に事ある時はその全知全能を持って立ち回らねばならん。それはこの記念館においても同じじゃ!」


「心得てございます」


「そこでじゃ…もし10人の賊が刃物を持って侵入したとする。いかに立ち向かう?」


「そうですね。まず1階のレストランに走ります。他の職員も可能な限り集めます」


「何!レストランじゃと?」


「はい。この規模のレストランの炊事場にはおそらく10数本の包丁、鍋の蓋、フライパンが常備されているはずです。それを武器とします」


「ぬぬ!」


「さらに調味料の中に粉唐辛子があるはずです。それを目潰しに使います」


「おお!」


「皇国警察に連絡して到着するまでは約30分かかる として、職員が10数人いれば十分持ちこたえることはできるでしょう」


平九郎ははたと膝を打った。


「面白い!警察頼みで逃げるのではなく武器を持って戦うというのじゃな!」


「お客様もおられますし…やられっぱなしは気性に合いません」


「お主!麗しき人形のようなおなごのくせに武士もののふの如き気概を持っておるの。わしはそういうのは嫌いではない」


平九郎はガッハッハと笑った。


「恐れ入ります」


静かに頭を下げる西園寺。


「今日はなかなか良き日じゃの!よし!次じゃ!」


「え!もう終わりですか…分かりました…」



田端は大汗をかきながら次の面接者を呼んだ。





次回


田端「ベアトリクス・ド・スチュワート・エリザベスさん 27才でよろしかったでしょうか?」


伊集院(なんで俺だけ外人設定なんだ…)


























緊張に震える大きな瞳としなやかな睫毛。


ピンクのリボンに束ねられたサラサラの金色のロングヘア―。


上質な黒シルクのワンピースに金ボタン、白いカウスと大きな襟が特徴的な桜華学園女子制服。


桜をモチーフにした金章ベルトに閉められたウエストが驚くほど細い。


入場した瑠璃の姿にタカシは息を飲んだ。


(想像はしていたけど…まさか…これほどとは…)


最早美少女という形容ですらチープに感じさせられる。


同様に言葉を失っていた田端は、面接者席の横で立ちすくんでいた瑠璃にはっと気付き、慌てて「ご着席ください」 と声をかけた。


「失礼します…」


節目がちに座席に上品に足を揃えて座る瑠璃のその様は《乙女》という言葉が具体的に形になったかのようであった。


オオトリ 瑠璃子ルリコさん 17才でよろしかったでしょうか?」


あらかじめ、示し合わせた通りの問いを行う田端。


「は、はい…」


頬を赤らめ頷く瑠璃。


その薄ピンクの唇からは花びらの香りが漂うかのようであった。


「ふむ…可憐なおなごよのう…」


平九郎は右眉をぴくりと上げる。


(やった!文句のつけようのない女の子よ!)


ガッツポーズをとる学ラン和子。


「しかし…そのような 儚げな様で…この記念館の激務に耐えられるかの?」


平九郎の問いに瑠璃は一瞬怯んだ。


しかし目つきを改めて決然として平九郎に返した。


「ぼ…あたしは…決してくじけません!与えられたお仕事はしっかりやり通します!」


それを聞いた平九郎は ニヤリと笑った。


「ほう…たゆればすぐ折れるような百合の花の様なおなごかと思うたが…なかなか芯がありそうじゃの。では 一つ質問をさせて貰おう」


「は、はい」


「わしは戦事イクサゴトでしか物を測れん男じゃ。《孫子》の有名な一節を知っておろう。《其疾如風(その疾きこと風のごとく)其徐如林(その徐かなること林のごとく)侵掠如火(侵掠すること火のごとく)不動如山(動かざること山のごとし)》じゃ」


「ええ。存じております」


「その続きを申してみよ」


(ええ!そんなの知らない…)


ごくんと唾を飲み込むタカシ。


(難知如陰、動如雷震よ!瑠璃さん…お願い…答えて…)


両手を合わせてうつむくミニ和子。


「はい…確か…《知り難きこと陰の如く、動くこと雷震の如し》だったと思います」


「その意味は?」


「はい。普段は姿を読ませず、動くときは一瞬で決着をつけよ…ということだと理解しています」


「ふむ!その通りじゃ!女子といえど兵法に通じていなければこの記念館に事あれば役に立たぬからの!お主、なかなかのものじゃな」


ニヤリと歯を見せ長い顎髭を触る平九郎。


(凄い!瑠璃君!)


タカシは心の中で拍手を送る。


「では次の質問ですが…」


続けて質疑に入ろうとする田端を平九郎が制した。


「もうよい…」


「はっ?」


「もうよいと申しておる!充分じゃ。次の者を呼べ!」


「は…はい。では…瑠璃子さん。今回はこれで結構です。1階の待合室でお待ちください」


額に大汗をかきながら田端は瑠璃に退出を促した。


瑠璃は礼の後、髪をなびかせて春風のように退出していった。


「あの学女…真剣な目をしておった…しかし…どこかで見たような…」


しきりに平九郎は首をひねり出した。


「め、名誉顧問!次の方をお呼びしてもよろしいですか!」


田端は慌てて投げかける。


「ぬう…呼べと言っておるではないか!」


「は、はい。次の方…お入り下さい」


(グッジョブです! 館長!)


心の中で親指を立てるタカシ。




「失礼致します」


艶のある、この広い観覧室の隅々にまで染み渡るかのような麗声が響き、面接官全員の目線が入口に立つ人物に注がれた。


その人物は、スカートの両端を軽く持ち、片足を後ろに引いて挨拶をした後顔を上げた。


(え、これ…本当に西園寺さん?)


ミニ和子は目をぱちくりさせた。


足首近くまであるロング丈の黒ワンピースに白い丸襟。


肩フリルと腰リボンがあしらわれたヴィクトリアンメイドエプロン。


足元は白タイツにメリージェンシューズ。


黒曜石のような髪はきっちり結い上げられメイドカチューシャが乗せられている。


いわゆるガチガチの正統派のクラシカル英国風メイド姿であった。


(メイクもすごい…ここまでやるか…)


嘆息するタカシ。


陶器のように白い肌にローズベージュのリップがかすかに微笑みを形作っている。


極細で長めのアイラインにスッキリと端正な鼻筋。


目には少し緋色がかかったカラコン。



全てがまるで等身大の人形のようであった。



淑やかに着座する西園寺の様子を見ながら田端の声は震えていた。


(タ、タカシ君…私は…私は惚れてしまいそうだ…)


(か、館長!)


(分かっている…分かっているが…)


「何をしておる!早く 質疑を始めんか!」


平九郎が机をパンと叩く。


「はっ!すみません…」


ハンカチで慌ただしく額の汗を拭う田端。


西寺光子ニシデラミツコさん、27才でよろしかったでしょうか?」


「はい。仰せの通りでございます」


にっこりと笑みを浮かべる西園寺。


「お仕事は何をなさっておられますか?」


「はい。白鳳堂家にてメイドに従事させて頂いております」


「それでは本記念館に応募した動機を…」


「おい!くだらぬ問いかけはよい!わしから質問じゃ!」


平九郎は眉間にシワを寄せて割って入った。


「はい。なんなりと」


西園寺の周りだけ静謐で神秘的な空気に包まれている。


「メイドといえど主家に事ある時はその全知全能を持って立ち回らねばならん。それはこの記念館においても同じじゃ!」


「心得てございます」


「そこでじゃ…もし10人の賊が刃物を持って侵入したとする。いかに立ち向かう?」


「そうですね。まず1階のレストランに走ります。他の職員も可能な限り集めます」


「何!レストランじゃと?」


「はい。この規模のレストランの炊事場にはおそらく10数本の包丁、鍋の蓋、フライパンが常備されているはずです。それを武器とします」


「ぬぬ!」


「さらに調味料の中に粉唐辛子があるはずです。それを目潰しに使います」


「おお!」


「皇国警察に連絡して到着するまでは約30分かかる として、職員が10数人いれば十分持ちこたえることはできるでしょう」


平九郎ははたと膝を打った。


「面白い!警察頼みで逃げるのではなく武器を持って戦うというのじゃな!」


「お客様もおられますし…やられっぱなしは気性に合いません」


「お主!麗しき人形のようなおなごのくせに武士もののふの如き気概を持っておるの。わしはそういうのは嫌いではない」


平九郎はガッハッハと笑った。


「恐れ入ります」


静かに頭を下げる西園寺。


「今日はなかなか良き日じゃの!よし!次じゃ!」


「え!もう終わりですか…分かりました…」



田端は大汗をかきながら次の面接者を呼んだ。





次回


田端「ベアトリクス・ド・スチュワート・エリザベスさん 27才でよろしかったでしょうか?」


伊集院(なんで俺だけ外人設定なんだ…)



















































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