第40話 皇女の策略②
タクシーで白鳳堂家に向う田端とタカシ。
彼方に巨大な白亜の洋館が見えてくる。
「帝都内の一等地のド真ん中に…凄いですね!」
初めての財閥豪邸に興奮気味のタカシ。
田端も徐々に近付いてくる建物に目を細める。
「白鳳堂家は世界でも有数の富豪一族だからね。本宅の敷地だけでも数万坪あるらしいよ」
「そうなんですか…信じられません…僕の実家なんて15坪ですよ…本当に西園寺さんと瑠璃君とはお会い出来るんでしょうか?」
「連絡した時には『是非共お待ちしております』と言っていたので大丈夫とは思うけど…」
「それであればいいですけどね…あっ!着いた様です」
タクシーはゲート前で一時停止。
守衛に名前を告げると、鳳凰をモチ―フにした紋様が刻まれた壮麗な鋳物の門が開いた。
美しく整備された欧米風の庭園の中をタクシーは進む。
(門をくぐってかなり走っているのにまだ着かない…)
半ば呆れ気味のタカシ。
それからさらに5分程走ってようやく正面玄関に到着した。
シルクハットにフロックコ―ト姿のドアマンによってイオニア式の大理石の柱に挟まれた重厚な木製のドアが開かれる。
導かれた2人は赤いカ―ペットを挟んで通路の両側にずらりと並んだメイドと、その奥に恭しく頭を下げる西園寺を目撃した。
「ようこそ。お待ちしておりました。奥へどうぞ」
彼はキョロキョロする2人をにこやかに応接間に導いた。
2人が通された広く天井が高い空間にはロココ調に統一された調度が並び、部屋の隅では白いドレスを纏った音楽師が静かで美しいバイオリンの旋律を奏でている。
(まるで別世界だ…)
西園寺に上座を勧められて猫足の椅子に着席した2人は落ち着かない様子であった。
彼らが座るとすぐに複数のメイドによって豪華なアフタヌーンティーのセットがテーブルに並べられる。
「調度午後のティータイムですので、ささやかながらご用意させて頂きました。ごゆっくりお召し上がり下さい」
西園寺がにこやかににシルクのグローブが光る手を差し伸べる。
(100品目ぐらいある…)
タカシは目を白黒させた。
田端は咳払いをして御礼を申し述べてから話を切り出した。
「先般は…せっかく御面談頂いたのに…失礼な結果となり…誠に申し訳ございませんでした…実はあの時…」
「東郷卿の御判断でしょう。大方、男性に拒絶反応されたのでは」
「え!何故?」
「あの時の卿は面白からぬ御表情でしたからね。何となく察しは付いておりました」
「いやはや…御明察です…参りました…」
「しかし瑠璃様は大変ショックをお受けになられ…数日自室に閉じこもって泣いておられました」
「そ…そうなのですか…」
田端はハンカチでしきりに額の汗を拭ぐう。
「そ…それで…あの…お電話でもお伝えしました《女性枠》での職員の再募集の件ですが」
「はい」
「実はその件でご相談したいことが…」
それを聞くと西園寺はパンパンと手を叩いて傍らのメイドに「あれをお持ちしなさい」と指示した。
(え?一体何を…)
怪訝な表情のタカシと田端。
戻って来たメイドは満面の笑みで、サイズが大きめのメイド服を広げた。
「え!こ、これは?」
「わたくしが着用出来る物を仕立てさせました。これで卿の目を欺く…それでよろしいのでしょう」
「さ、西園寺さん!」
2人は瞳孔が開き、身震いが止まらなかった。
その時であった。
大理石の柱の陰に隠れていた瑠璃が現れた。
瑠璃は何やら決意に満ちた表情で3人を見据えている。
「る、瑠璃様!隠れて聞き耳を立てるなど褒められたものではありませんよ!」
たしなめる西園寺には答えず、瑠璃は静かに、しかしはっきりと言葉を放った。
「僕も…女性の姿になります。スカ―トも、恥ずかしいけど…履きます!だから…だから…面接に参加させて下さい!」
メイド達が全員目をハートにしてキャ―と叫んだ。
「瑠璃様!そのようなお戯れはおよしなさい!」
眉間に皺を寄せる西園寺。
口をぎゅっと結んで珠のような瞳で睨み返す瑠璃。
この時、田端は睨み合う2人の前に飛び出して土下座し言葉を振り絞った。
「すみません!私共は出来ればあの面接時の御方を全…全員採用したいのです!何卒宜しくお願い申し上げます!」
それを聞いた 西園寺は『はあ…』とため息をついた。
「どうぞ御顔を上げてください」
田端は紅潮した顔を上げた。
「まあ瑠璃様も…こうなってはお引き下がりにならないでしょうし…仕方ないですね…」
「館長!」
タカシは床に正座している涙目の田端の手を取った。
「やった―!」
両手を胸に当ててぴょんとジャンプする瑠璃。
「やれやれ、龍磨にも声掛けしないといけませんね…」
そう呟く西園寺の顔がタカシには少し嬉しそうにみえた。
次回 伊集院吠える




